15 「サンタクロースの譚歌」
シュルツ「さ、次はええと……」
イサギ「よう、また会ったな」
シュルツ「あ、はい、どうも……。警察から戻ってきたんですね」
イサギ「まるで俺がお縄についたみたいに言わないでほしいが。まあ、そうだな。局に戻ったらまたスタッフに呼び出されたんだ」
シュルツ「あの、あっちにいったりこっちにいったり、忙しいですね」
イサギ「なあに、あちこち駆けずり回るのは慣れている。そういうお前こそ、大変だな」
シュルツ「え? ぼ、ボクっすか?」
イサギ「ああ、こんなにも長い時間、誰かのために尽くしているだろう。そんなのは誰にだってできることじゃない。大したもんさ」
シュルツ「いや、でもボク、さっきからめっちゃ不平不満口にしているよ? 今にも番組降りそうだよ」
イサギ「でもちゃんと続けているだろう。辛いことに立ち向かってこそ、それでこそ人間さ」
シュルツ「あ、兄貴……! じゃなかった、い、イサギさん!」
イサギ「なんて、ちょっとカッコつけすぎたかな」
シュルツ「はにかむ男の笑み! くそう、なんだこの魔力! これが圧倒的にできる男のオーラ! オーラなのかい!? そうなのかい!? ただの痛いやつなのかなんなのか、ボクはよくわからなくなってきた!」
イサギ「どこにでも普通の俺さ」
シュルツ「もっとこのなんか不思議な男についてツッコミを入れたいのはやまやまとして、次は『レン』さんですそれではVTRをどうぞー!」
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Q:あなたは誰のためにこの曲を作りましたか?
廉造『あァ……? 誰のためでもいいだろが。テメェらが作れっつったから、作ってやったンだぜ。感謝しろよな』
Q:曲作りは難しかったですか?
廉造『まァな。やったことねェからな。手伝ってくれそうなやつもいねェし』
Q:……。
廉造『……ン?』
Q:他にはなにか、ないですか?
廉造『ねェよ』
Q:その寡黙さ、感動しました。ありがとうございました。
廉造『おう』
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長身の男がマイクの前、ポケットに手を突っ込んで立っていた。
風貌だけは間違いなくカタギではないであろう男のそれなのだが、衣装はサンタ服である。
それはそれでキャッチの呼び込みや怪しい商売にしか見えないのだが。
廉造は気にすることなく、カメラを睨みつけていた。凄まじい迫力であった。
シュルツ「それでは歌っていただきましょう。『レン』で、『サンタクロースの譚歌』。どうぞー」
『サンタクロースの譚歌』:レン
作詞作曲:レン
サンタクロース 年に一度のお仕事だ
サンタクロース あちこちをそりで飛ぶよ
サンタクロース よいこにプレゼントを届けに
サンタクロース トナカイとゆくよ
でもね サンタクロース キミは誰のため?
なんのために サンタクロース 続けるの?
恵まれない子に 愛の手を
さしのべるキミに 手を差し伸べるのは誰?
誰ー?
サンタクロース 年に一度のお仕事だ
サンタクロース あちこちをそりで飛ぶよ
サンタクロース よいこにプレゼントを届けに
サンタクロース トナカイとゆくよ
そうだ サンタクロース キミはみんなのため
キミを信じる サンタクロース よいこのため
夢見る子に プレゼントを
届けるキミにも プレゼントがあるね
あるねー
サンタクロース 年に一度のお仕事だ
サンタクロース あちこちをそりで飛ぶよ
サンタクロース よいこにプレゼントを届けに
サンタクロース トナカイとゆくよ
サンタクロース 来年もまたくるね
サンタクロース 起きたキミの喜ぶ顔が
最高のプレゼントさ
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シュルツ「『レン』さん、ありがとうございました」
シュルツ「いやあ、こわもての顔に反して、ずいぶんとファンシーな歌を歌っていたね。みんなのうたみたいな感じだったねー」
イサギ「廉造、ずいぶんと似合っていたな」
愁「そうだねえ。僕は途中からなにかオチがあるんじゃないかと期待していたけれど、特にもなにもなかったね」
慶喜「もしかしたら子どもができたんじゃないっすか?」
イサギ「……子ども? あいつにか?」
愁「ははは、それはない、それはないよ。ありえないね」
慶喜「でもすごい雰囲気が柔らかくなってません?」
イサギ「それは確かに感じられるな。しかし子どもか。まあ時が経てば人は変わるもんだな」
愁「その前に、彼と結婚してくれるようなボランティア精神を持つ女性が、いったいどこにいるっていうんだい」
慶喜「そりゃあ……、廉造先輩、ずっと一途に思っていたわけですし……」
イサギ「……いや、お前それ」
愁「……実の妹だろう?」
慶喜「でも……、ほら、でも……、ね?」
イサギ「……」
愁「……まあ、僕は人にとやかくは、言えないけどね」
慶喜「……っすね……」
シュルツ「わあ雰囲気がなんか一気にくらーい! 元気に参るよー! それでは続いて謎のアイドルユニットの登場です、ってまたアイドルかーい! この時代アイドル多すぎやせんかーい!」
廉造より一言:メリークリスマスさ。