1 「ラストリゾート・ハッピー・エンド」
広いコンサートホールにはキラキラとしたミラーボールが輝き、辺りをまばゆい光で照らしている。足元を回るスポットライトには、ハートマークが投射されていた。セットは豪華で、それぞれ左右に『白組』『紅組』と書かれている。
本日は歌の祭典、TRN歌謡祭。軽快な音楽、そしてたくさんの拍手とともにカメラがバンすると、蝶ネクタイをつけた黒猫のぬいぐるみが、死んだ目でマイクを握っていた。
シュルツ「メリークリスマース!」
シュルツ「こんばんは、テレビの前のみなさん! いかがお過ごしでしょうか? ボクは見ての通り生放送で仕事中です!」
シュルツ「しかし人生というのは、どう変わるかわからないよね。一ゲーム会社の社員だったボクも、今じゃこんな風に謎の仕事の総合司会なんかをやらせてもっております。おととしはラジオのDJだったのに比べて、ずいぶんと出世しちゃったよね。はからずとも!」
シュルツ「それもこれもすべて、藤井ヒナという女の仕業なんだ。だからみんなにも覚えていてほしいと思う。人生において出会いというのはとても大切なものだけど、ときとしてそれが人生を破壊する可能性もあるのだということを……。ボクが総合司会として一番言いたかったことはそれだけです。ご視聴ありがとうございました」
シュルツ「というわけで早速、白組ひとり目の方に歌っていただきましょう。あ、いや、その前にVTRがある? そうなんだ。あ、なんか進行がグダグダですみません。業務の一環ってことで大したギャラももらっていないので、許してください」
シュルツ「それではVTRをどうぞ」
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Q:あなたは誰のためにこの曲を作りましたか?
イサギ『そうだな。俺の最愛の人……とだけ言っておこうか』
Q:曲作りは難しかったですか?
イサギ『ああ、とてつもなくハードだった。なんといっても俺は音楽なんてやったことがなかったからな。だが番組に呼ばれたとき、これは俺自身がさらに成長するためのきっかけをもらえたと思ったんだ』
イサギ『俺はすぐに王都で楽器を買ってくることにしたよ。アコースティックギターがほしかったんだが、アルバリススにはギターというものがなくてな。せっかくなので作ることにした。音楽家に頼んでできたのが、このギター――ラストリゾート・ギターだ』
イサギ『それからはひたすら研鑽の日々が続いた。一番難しかったのはFのコードを押さえることだな。だが、一日に18時間の猛特訓を経て、俺は今この境地にたどり着いた。必要なパーツは揃った。あとは肝心の――作詞と作曲さ』
イサギ『言うまでもないことだが、俺は音楽においては素人だ。こんな俺にできることはたかが知れているだろう。だが――、この胸に、想いはある。ならば決して俺は諦めたりはしない。そうやって、ここまで生きてきたのだから――』
Q:その情熱、感動しました。ありがとうございました。
イサギ『いや、礼を言うなら俺の方さ。平和になったこの世界で、こんな素敵な番組に招待をしてくれて――、本当に、ありがとう』
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幕があがるとそこには、ひとりの青年がいた。
スポットライトを浴びながら、引き語り用のギターを抱えている。
マイクに向かって彼は真剣なまなざしで告げる。
穏やかなメロディが流れ始めた。
シュルツ「それでは歌っていただきましょう。『浅浦いさぎ』で、『ラストリゾート・ハッピー・エンド』。どうぞー」
『ラストリゾート・ハッピー・エンド』:浅浦いさぎ
作詞作曲:浅浦いさぎ
平和になったこの世界で
俺はこれから何を望むのだろう
人々の笑顔、喜び、輝き
俺はこれから何を為すのだろう
だが心配はいらない
そう いらないのさ
だって俺のそばには いつだって
エブリデイ いつだって
大切な人が いるから
愛している のだから
ああ 果てのない旅を続け
俺たちがたどり着いた ここは
決して楽園では ないけれど
でもここに君がいて 俺がいて
ああ 夢なら覚めないでくれ
俺たちはいつまでも 願う
ここが永遠の楽園であると
ラストリゾート・ハッピー!
この世界に ハッピー!
ラストリゾート・エンド!
すべての悲しみは ジ・エンド!
ラストリゾート・ハッピー!
クリスマスに ハッピー!
ラストリゾート・エンド!
この歌はこれで ジ・エンド!
ジ・エンド!
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シュルツ「浅浦いさぎさん、ありがとうございました」
シュルツ「途中の転調からの盛り上がりがすごかったですね、はい。あちこちに金色の光が瞬いていたような気がしたんだけど、あれって演出だよね。時代は進歩しているなあ」
シュルツ「それではいさぎさんには、後ほどお話をお伺いするとして……、こんな感じでやっていく感じです、はい」
シュルツ「それではTRN歌謡祭、引き続きあと23回お楽しみくださいませ」
シュルツ「絶対にネタ続かないだろこれ!」
イサギより一言:みんな、ラストリゾート・メリー・クリスマスだぜ。