第1話 一日目
第3次安倍改造内閣が今月に成立することから私も内閣改造をテーマにした小説を書いて見ました。実際の政界については知りませんのでこれはあくまでも私の勝手な妄想です。これ、注意書きです。
「内閣総理大臣佐藤俊彦」
「内閣法第九条の指定第一順位大臣(副総理)、財務大臣、内閣府特命担当大臣金融担当、デフレ対策担当川崎俊介」
次々と第二次佐藤俊彦改造内閣の閣僚の名前が内閣官房長官の大谷清二氏によって発表されている。総務大臣、法務大臣、外務大臣次々に閣僚名簿が読み上げられていよいよ目的の番へとやってくる。
「防衛大臣中野一成」
私の名前が呼ばれた。
私は現在首相官邸の一室に他の閣僚と共に集まっている。テレビの映像は私が官邸から呼び出しを自分の議員室の電話で呼ばれてから来た時のものだ。首相官邸に入ってくる際に両脇でシャッターを押したる、映像を流している報道陣各所方面の人に対して挨拶をしている私の映像が流れている。
さて、今日は佐藤俊彦内閣総理大臣によって内閣改造が行われ新閣僚が発表される日だ。内閣改造は今より1週間前に発表されたためかれこれ1週間は政界とりわけ永田町は騒がしかった。私は与党平和党所属衆議院議員であったため周りの親しい同僚議員が大臣になれるかどうかとてもそわそわしているのを近場で見ていた。私自身は大臣になりたいと思っていたが、今までに内閣の役職としては防衛大臣政務官を2年間、内閣府副大臣を4か月務めただけであったので今回も副大臣をやっておきたいと思っていた。それは、当選回数が4回でありいわゆる大臣適任の当選回数ではなかったことからの願望だ。それに党の役職も政策調査会長代理、党安全保障部会会長を務めただけだ。
ともかく私は大臣になる素質というものを自分に見出していなかった。でも、私は今日防衛大臣に任命され初入閣を果たすこととなった。
この物語は私こと中野一成が初入閣を果たすまでの1週間をつづった物語である。
◇◇◇
私の名前は中野一成。千葉県船橋市出身。東京律政大学卒業。元防衛省役人。47歳。衆議院千葉2区選出。当選回数は5回。所属政党は与党平和党。現時点での役職は衆議院安全保障委員会委員長だ。党内の派閥も党に5つある派閥のうち第4派閥に所属しているということもありまあ、同じよう党といいながらも政権の中枢部からは相当離れていると考えてもいいぐらいであった。
そんな私であったが、急に周りが騒がしくなってきたのであった。それは、昨日の総理の党本部での会見においての発言が大きかった。それが、以下の発言である。
「みなさん、私の第2次内閣は発足からちょうど500日経ちました。ですので、そろそろ内閣改造を行いたいと思います。各派閥の方からの推薦は今回はお断りです。国務大臣につきましては私が一本釣りをする予定ですが副大臣、ならびに大臣政務官につきましてはみなさん個人の意見を尊重したいと思いますので希望を書いた紙を幹事長にまで提出してもらいます。期限は明々後日とさせていただきます」
党本部で総理は何の前触れもなくそんなことを言った。それは、会見の様子を見守っていた私の動力の議員の間にも不穏な空気が流れた。私を含めて当選5回の議員は現在18人いる。その中でもまだ閣僚経験がないのが15人だ。この当選5回というのは閣僚を経験するための指数としてよく言われるものだ。政治家をやっている以上は誰でも一度は大臣を経験しておきたいのが下心として存在している。大臣を経験したのとしてないのでは知名度、ましては肩書きの重さがだいぶ変わってくる。例えばだ。選挙際において自身の選挙ポスターを作成するときにポスターに自信の所属政党名以外に名前の場所に元○○大臣××という感じで肩書きを書くことができる。それ以外の時でも、テレビで映る際に元大臣のという肩書が出ることもある。だからこそ、私達政治家にとって大臣になることは一緒のステータスなのだ。内閣総理大臣はその人の運と実力でなれるというが大臣は違う。完全に人脈といった政治力以外のものからくるのだ。
だから、私には関係ない。私は政界の中でも温厚な性格で有名と前にマスコミの記事で読んだことがある。選挙の時の当選した人の紹介でも『野心のない温厚政治家』という紹介をされていたのを自分で見たことがある。
野心がない。まあ、その通りだ。私自身は別に積極的に大臣になりたいとは思ってもいない。そして、ゆくゆくは内閣総理大臣になりたいなんてことも思っていない。ただ、私は防衛関係の政策について党の意見を提案することさえできればいいと考えていた。誰もが認める防衛族として防衛政策だけでは負けたくはなかった。そして、そのためには裏方を中心に活動できればよかった。だから、私が平和党山川周蔵幹事長に対して要望した自分の求める枠は防衛副大臣を第一希望とし、第二希望は防衛大臣政務官であった。このどちらかの役職にはなりたい。それが、あえて言うならば今の私のささやかな野心というものだ。
幹事長に要望書を提出した後私は自身の派閥の集まりに参加するために派閥の所有する部屋へと向かった。
私が所属している派閥は党内第4派閥である民主平和会通称中村派だ。会長は中村勇四郎氏であり、中村氏は歴代の政府与党内閣内において歴任順に環境大臣、法務大臣、幹事長、財務大臣と重要でない役職から重要である役職に就任するなど仕事ぶりが評価されて自身の実力を上げてきた人間だ。だからこそ私はこの人の下につきたいと思い中村派に入ったのだ。今日は中村派は定期的に会合を開いて結束を固めているのでそのために集まるのと内閣改造に合わせて今後の方針についての打ち合わせが予定されているのであった。
私が部屋に入ると中にはすでに7人の人がいた。中村派の人数は合計で14人のため約半分がすでに来ていたという状況だ。
「中野さん」
私が部屋に入ると1人の男が私に声をかけてきた。
「今日は早いですね。神田さん」
彼の名前は神田洋二といった。当選回数は3回であり私よりも年下でまだ42歳である。当選3回ということもあり今までに文部科学大臣政務官を3か月やっただけである。しかし、私本人としては神田氏はとてもまじめな人であり発言についても極めて慎重で弁も経つ。いずれはもっといい役職に就くことができるのではと私的には思っていた。
「まだまだ私なんか末端の存在ですからね。こういうことの繰り返しで信頼を掴んでいかないとですから。政界は日夜裏切りなどが絶えないのでこういうことだけはしっかりしないとですから」
さすがの一言だ。こういう裏表のない人がもっと政界にはいてほしい。いや、政治家なら裏表があるから今のこの言葉にも裏があるかもしれない。しかし、私としては別に最終的に総理大臣になりたいなんてことは全く思っていないので途中で裏切れてもまあいいだろうと考え神田さんと付き合っている。
「それより、今回は何か希望の役職はあるんですか?」
私は神田さんに聞いた。彼ならもっと上の役職をめざし今回は当選3回ながらもしかしたらサプライズ人事で入閣するということも無きにしも非ずだ。
「いえ、私は今回は内閣の役職は希望しないつもりです」
えっ! 内心で私は驚いた。内閣の役職を希望しないとは一体何を考えているのだろうか。現在の第二次佐藤内閣は衆議院議員総選挙を1回圧勝に導き、今でも内閣支持率は62パーセントと高い水準を誇っている。長期政権を敷けるのは確かな状況だ。それだとしたら当分は内閣は変わらない。反主流派になるメリットというのを感じられない今この状況下でどうして内閣の役職に就かないのか私は思ってしまった。
「つまり、どういうことですか? 無役でいいということですか?」
「いえ、そういうことではありません。今回は衆議院の文部化科学委員会の委員長ポストが欲しいんです」
衆議院の常任理事会の委員長ポストか。衆議院には全部で17の常任理事会がある。具体的に述べていくと、まず国会中継が行われることで有名な予算委員会。予算委員会の仕事はその名前の通りに政府が出す予算案の中身についての討論がある。そのためそこで話される内容は様々だ。
続いて、国家基本政策委員会。この委員会では党首討論が行われる。
後は、内閣委員会、総務委員会、法務委員会、外務委員会、財政金融委員会、文部科学委員会、厚生労働委員会、農林水産委員会、経済産業委員会、国土交通委員会、環境委員会と内閣の役職と同じ名前の委員会が続き、防衛省防衛大臣に該当する安全保障委員会、決算関係の事務を担当する決算行政監視委員会、議会運営の議院運営委員会、懲罰関係の懲罰委員会の以上がある。他にも特別委員会が存在するがそのことまで語らなくても良いだろう。
この常任委員会の委員長ポストとは決して大きなものではない。それにこのポストすべてが与党平和党のものでもないからである。絶対安定多数である状態でも一応各政党の議席率に応じて委員長ポストを配分することとなる。その際に文部科学委員会の委員長ポストを総裁がほかの政党に譲ってしまえばそのポストを手に入れることができない。
「大丈夫なのか。文部科学委員会委員長のポストは?」
「おそらく大丈夫だと思います。噂では佐藤総理の周りは今回は内閣改造だから他党は委員長ポストの変更はしないという話なので文部科学委員会委員長のポストは平和党のものです」
現在文部科学委員会の委員長のポストは平和党が所持しているので確実に平和党のだれかにわたるのは確かのようだ。その話が聞くことができて神田さんはよほどうれしかったのだろう。
「私も神田さんの願いがかなうことを祈っています」
私は神田さんに激を送った。
「そういえば、中野さんは今回どの役職を希望しているのですか?」
神田さんが私に尋ねてきた。そういえば、私は神田さんの話ばかりをしていて自分のことをまったく言っていなかったな。本来ならば政治家は野心を持つのでそのようなことを言うのはないが、別に私は出世できなくても文句はないので素直に言う。それに神田さんは素直に私に説明をしてくれたのでそのお礼も兼ねておく。
「私は防衛副大臣を希望にしておきました」
「えっ! 防衛副大臣ですか? 防衛大臣ではなくて」
「ええ、私は特に大臣をやりたいとは思っていません。それに国会の質疑って大変じゃないですか。野党からの追及やマスコミからのスキャンダル。私はそれに耐える気がしないので大臣を積極的にやりたいとは思わないんです」
率直に言う。
神田さんはものすごい驚いていた。それもそのはずだ。国会議員をやる以上は誰もが一度は国務大臣を経験したい。そのあたりの説明は割愛するが大臣病である人間が多い政界の中でも異質な私の答えに神田さんが驚くのは当然だということか。
「大臣やりたくはないのですか?」
「ええ、私には別に政治的野心というものはないので。それに本当の野心というのは大臣という表で政治を操ることではなく、裏方で政策をしっかりとこなして表の大臣を操る方がいろいろと便利だと思いますので」
これが、私の言い分だ。表で大臣として野党やマスコミにたたかれながら政策を実行するよりも裏方でこつこつと自分の意に沿った政策を実行する方がいろいろと便利であると考える。そう意味でこれが私にとっては本当の政界の闇、野心であると考えている。ずる賢い者が本当の意味での政界での勝者だ。
「中野さんのことですからいろいろと考えているんですね。私は、中野さんがうまくいくように応援しています。それに、中野さんとは敵対しても私としては意味ないと思っていますからね。私は文科族で、中野さんは防衛族ですから」
神田さんはそう言うと自分の席に戻った。
神田さんが席についてすぐに中村派会長である中村勇四郎外務大臣が部屋に入ってきた。中村氏が入ってきたことにより会合が始まる。会合の司会を進めるのは中村派事務局長の林伸也衆議院議員だ。
林伸也衆議院議員。当選7回を誇る中村派の重鎮だ。小選挙区ではいまだ一度も比例復活を野党候補に許したことはないほどの選挙での地盤の強さを誇っている。そんな彼が今日の会合の議題について話を始める。もちろん、話題に上がったのは次の内閣改造についての話であった。
「では、みなさんも知っていると思いますが佐藤総理が来週内閣改造をすると発表しました。そのことについてわが派閥でも誰を推薦するのかなど詳細な情報を交換し合おうと考えています」
「そうですね。まずは私、中町忠光から話させていただきます。わが派閥からは中村さんが外務大臣として留任することと閣僚ポストをもう1つ要求することでいいと思います。重要閣僚でもなくても閣僚を2人輩出すれば党内において中村派は十分な影響力を発揮することができます。数が少ない以上閣僚の力によって党内基盤を確立させていきましょう」
中町忠光内閣府副大臣がそう発言した。中町さんはこの中村派でも当選回数は5回でありながら閣僚経験はゼロでありいわゆる大臣待機組、期待組といわれる人の1人だ。私としても次の閣僚は中町さんで決まりだと思っている。彼ならば今までに目立った失言や不祥事は起こしてはいない。本人は厚生労働大臣を希望しているとこの前に話したことがる。中町さんは元厚生労働省の役人であり厚労族といってもいいほどその分野の族議員として影響力を持っている。そんな彼ならば現在の厚生労働行政について解決する案を持っているはずだ。私はそのことを信じている。それに運がいいことに現職の厚生労働大臣である荒田翔氏は失言によって内閣改造で更迭されることはほぼ決まっている。
「私は閣僚ポストを増やす必要はないと思います」
そこに中町さんの意見と真正面から対立する意見を述べた男が現れた。その男の名前は来栖伸造であった。来栖伸造。参議院栃木選挙区選出の当選回数2回の議員である。参議院においての2回当選は12年は少なくとも議員をやっていることになりベテランといってもいい。大臣経験はいまだにないが、党の参議院国会対策委員長など党内役職を歴任してきた実力派だ。
そんな彼が中町さんとの意見と真っ向から反対したのにもきちんとした理由があった。
「閣僚ポストよりも党の幹事長、政策調査会長、総務会長のいずれか1つを手に入れる方が派閥のためになると思います。党内ポストを取ることのよって党内に影響力を入れる方が優先すべきです」
来栖さんの主張は、党内の役職の方が実際に党での活動を先導して行うことが多いため影響力を伸ばせるというものであった。彼の主張には一理がある。少数派閥である以上次期衆議院選、参議院選において何としても新人議員を獲得しなければならない。その時に党中枢にいることで候補者擁立の際に声がかけやすい。それが来栖さんの目的であるということを私は見抜いていた。
しかし、どちらの意見がいいとは言い切れない。どちらにもメリットがあればデメリットというものがある。
そして、この提案を最終的に決めるのは派閥の長である中村勇四郎外務大臣だ。
私達は彼の方へと振り向き彼が次にいう言葉を待つ。
そして、彼は一言だけ発する。
「とりあえず閣僚枠を1つ増やすことを意識しつつも党内ポストの獲得を目指そう。それに私としては本当のことを言えば衆議院予算委員会の委員長ポストを手に入れようと考えていたので、それよりはいい案がとおもう」
結果として両方の案を採用したことになった。
この日の会議はここでお開きとなった。続きは明日以降になるらしい。この両方の案が了承されたということは次の会議で決まる内容──すなわり誰がその役職に就くかということだ。
だが、私としてはもうこの内容は決まったようなものだと考えていた。
私はあの人を押したい。
そう胸に抱きながら議員宿舎へと戻っていった。