閑話4 更け行く夜の通信イヤリング
~前回のあらすじ~
スーとシーが元王女様だった。
ピザを食べ終えたら映像送信器を付けて回った。
とはいえ、全部で20個しか用意していなかったため、主要な大通りに12ヶ所、裏通りに8ヶ所設置しただけで作業を終えた。
映像受信器のチェックはスーとシーが交代で行うことになったため、二人が借りている部屋に設置した。
俺がしようにも、元国王の顔なんて知らないからな。
差し入れに、睡眠代替薬を渡して、その薬の効果を説明した。
その説明に、二人は驚いたものの、
「まぁ、コーマだから仕方ないか」
「……コーマ様だからね」
と納得。一応、「俺が作った薬じゃないよ?」「契約薬師の試作品で近いうちにフリマで売りに出すから、買ってくれよな」と言っておいた。
俺は鍛冶屋だからな。うん。結構忘れがちの設定だけど。
……クルトにレシピ渡しておかないとな。
材料は安いし、レア度も低いアイテムだから、今のクルトなら十分作れるだろう。
ただ、試作品のほうが製品よりもよかった、とか二人に言われそうだな。
クルトのやつにはもっと頑張って修行してもらわないと。
いつの日か、俺が作れる薬を全部作ってもらおう。
レシピは既に渡してある。
材料を書いたメモも渡してある。
あとは、作りかたを体で覚えていくしかない。
残念ながら、俺は「錬金術」に関しては素人だからな。
ボロボロになってアイテムバッグの中に眠っている「錬金術ノススメ」の本を思い出して、俺は嘆息を漏らした。
全く、弟子を取るのは本当に疲れるものだ。
というわけで、夜は、俺一人で寝ることに。
と思ったけど、一人だと少し寂しいから、あいつをからかうか。
俺は通信イヤリングを手に取った。
『コーマさんですか!?』
久しぶりにクリスの声を聞いた。
何か焦っているようだが、まぁいいや。
「おぉ、クリス、元気そうだな。凄い剣の音がするが、そっちは昼なのか?」
『そっちは昼って、こっちもそっちも夜に決まってるじゃないですか』
「いやいや、時差というものがあってな……ってわからないか、クリスだから」
まぁ、電車どころか飛行機もない世界だもんな。
三日や四日離れたところで、大きな時差のあるような場所に移動はできないだろう。
『あの、本当に私、今忙しいんですけど』
確かに、さっきから剣の音が止まらないな。
剣と剣がぶつかる音、というよりかは、何か硬いものを切っているような音だ。
「悪い、大事な用事があってだな」
『大事な用事ですか? ……ちょっと待ってください、私も今安全な場所に行きます』
クリスが息をきらせて走っている。かなりの全力疾走だ。
『それで、大事にゃ用事ってにゃんですかにゃ? にゃ、コーマさん、やめて下さいにゃ』
「悪い、でも、お前の借金の先月分の支払い期限が昨日で過ぎたんだが」
先々月の支払いは、ゴーリキを捕縛した報奨金から返してもらったが。
魔法契約書は距離に関係なく有効か。これはいい情報だな。いや、別にどうでもいいけど。
『すみません、今している仕事の報酬から払いますから』
クリスが通信イヤリングの向こうで頭を下げている。
なんでだろう、すぐにその姿が目に浮かんだ。
「で、クリスは何の仕事をしてるんだ?」
『手紙の配達です』
「へ?」
『魔の森に一人で住むお爺さんのためにお孫さんが手紙を送ったんですよ。銅貨3枚の仕事だから誰も受けてくれないが、私は勇者としてこの仕事を受けないといけないとサイモンさんが』
「へ、へぇ」
なんだろ? かなり胡散臭いんだが。魔の森って魔物がいっぱいいる森なんだろうなぁ。
お爺さんがそんなところに一人暮らしって、どこの仙人さん?
『でも、その家が全然見つからなくて、魔物ばかり出てきて……きゃっ』
「どうした?」
『大きな森蝙蝠が。もう大丈夫です』
「魔物退治してるのなら素材はできるだけ拾っておいてくれよな。俺が買い取るから」
『すみません、魔の森の素材はなんでも森の管理者に返さないといけないらしくて、ここで採ったアイテムは全部サイモンさんを通じてギルドに納める契約なんです』
「……そうか」
そうか、クリスは順調に騙されているのか。
手紙の配達というのは真っ赤なウソで、魔の森の魔物を狩って素材を集める普通の討伐依頼じゃないのか?
サイモンとかいう男、冒険者ギルドから討伐依頼を受けてクリスに手紙配達なんて嘘をついて素材集めをさせているのか。
その様子だと、ギルドとサイモンという男がグルなのかもしれないな。
「それは大変だな。サイモンとかいう男によろしく伝えておいてくれ」
『はい、伝えておきますね。ところで、コーマさん、何の用なんですか?』
「そうだそうだ、大事な用だったんだ」
俺は本題を思い出して、クリスに告げた。
「最近、クリスのことをからかっていなかったなぁと思って」
『切ります!』
通信イヤリングの通信が切断された。
ははは、本気で怒ってたな。うん、悪いことをした。
美味しい土産でも買って帰ったらいいか。
それにしてもサイモンという男、なかなかクリスの使い方をわかってるな。
いつか会ってみたいものだ。
……クリスの賑やかな話を聞いたら、また寂しくなったな。
俺は別の通信イヤリングを手に取った。
『コーマ様、およびですか?』
「おう、メイベル。営業時間は終わったよな。そっちの様子を聞こうと思って」
寂しくて電話しました、なんて言えません。
『売り上げは横這いですが、クルトくんが作ったチェリーポーションを今日から店頭に並べました。銀貨2枚と少し高い値段で販売しているんですが、7本売れましたよ』
「そうか。チェリーポーションか」
チェリー味のおいしいポーションだったな。
一度作ったことがあるし、クルトにもレシピを教えた。
MPも回復するから、そこそこ需要があるらしい。
その後も、業務報告がなされた。
「そうだ、メイベル。明後日にはそっちに帰るんだけど、お土産何がいいと思う?」
『お土産……ですか? そうですねぇ、その町ではモーモーの革が安く売られているはずですから、質のいいものを20枚ほど買ってきて下さい。1枚につき銀貨1枚以内で』
それは土産じゃねぇ! 仕入れだ!
といいながらも、頭の中のメモ帳に記録した。
買って帰らないとな。
メイベルとの会話は癒しというよりかは業務だったな。
仕方ない、癒されるとするか。
俺は再びあの通信イヤリングを手に取る。
『もう、なんですか、コーマさん』
クリスが不機嫌そうに通信イヤリングに出た。
……律儀に出てくれるのがこいつのいいところだよな。
「いや、本当に大事なことを言い忘れてさ」
『なんですか? つまらないことなら、本当に怒りますよ』
「いや、お前、騙されてるだろ」
『さっき、コーマさんに騙されましたよ! 大事な用事って言ったのに――』
「いや、そうじゃなくて。サイモンさん、お前に手紙を届けさせるのが目的じゃなく、魔物を退治させるのが目的なんじゃね?」
『…………』
「…………」
暫し無言。
『……え?』
「いや、爺さんが魔物の住む森で一人暮らしっておかしいだろ?」
『えっと、都会の喧騒に疲れて静かな森で暮らしたいお爺さんらしいですが』
「通信イヤリング越しにも魔物の鳴き声が聞こえてくるんだが……正直、こっちのほうが静かだぞ?」
『……えぇと』
「認めろ。お前は騙されてる」
再び沈黙。
そして、クリスは騙されたことに気付いたのか、
『もう、サイモンさん、また騙したんですかっ!』
再び通信イヤリングが「ぶちっ」と切れた。
「『また』か……」
また騙されるな……勇者様よ。
なんか楽しい夢が見れそうだ。
リラックスした状態で、俺は目を閉じた。
予定外の閑話です。
なんか書きたくなって書いてました。
閑話なのでスライムは作ってません。




