食事の達人は竜の服を着る
~前回のあらすじ~
いよいよ料理大会が始まる。
殺人料理大会。
その名の通り、「これ、食べたら死ぬんじゃね? 三途の川渡れるんじゃね?」という料理を作る人間達が己の技と工夫を競い争う料理対決。
勘違いしてはいけないのは、料理には一般的な食材以外一切使われていないところにある。
普通の食材が、どのようにしたら劇薬になるのか。
普通に料理しても、劇薬にはならないだろう。
一回戦はすでに開始していた。
参加者達が作っているのは「前菜」。
四グループに分かれ、最初のグループが料理を作っている。
各グループの上位(というか下位)2名が二回戦に進む。
ちなみに、ルシルは3組目。
会場には、四つのテーブルが置かれ、その上に様々な調理機材が置かれている。
そして、テーブルの中央には食材の山が並んでいた。
『おおっと、これは凄い! カノーラ選手! キャベツから虫食いの部分だけを選んで使っている! きれいな部分は見向きもしない』
実況の男が舞台の外からそう叫んだ。
実際、カノーラとかいう女性選手の前にはキャベツだけでなく虫食いの野菜ばかりが並んでいた。
ちなみに、舞台には防音結界が張られ、外からの声は届かないようになっている。
なので、会場の笑い声は中には届かない。
「なんであんなものばかり選んでるんだ?」
「普通、虫食いのない食材を選びますよね」
俺とコメットちゃんが不思議がっていると、後ろからバンダナの男が説明してくれた。
「それは『虫が好んで食べるんだから、おいしい部分に決まってる』みたいな考えだろうな」
「えぇ、大会あるあるですな」
「今年も期待できそうです」
バンダナの男の両脇にいるハゲの男と一本ハゲの男が相槌を打つ。
なるほど、そういうことか……でも、カノーラはその野菜を水洗いもせずにサラダに使うみたいだぞ。
俺は気になってアイテムバッグから双眼鏡を取り出し、そのキャベツの裏を見た。
「うげ、虫の卵がついてるぞ」
「ほう、この時期にキャベツにつく卵といえば、モードク蝶の卵でしょうな。なんとも運がいい、彼女の二回戦進出は間違いない」
運がいいのかよ。せめて水洗いしたら洗い流せたかもしれないのに。
でも、それをしないのが殺人料理大会なのかもしれない。
だってなぁ。
俺は参加者達のスキルを見た。
だって、全員、「殺人料理」というスキルホルダーだもん。
そりゃ殺人料理を作るよ。
他にもカルパッチョを作ろうとしている料理人がいたが、川魚で下処理をせずにカルパッチョとかまじでやめてほしい。
生臭いだけでなく、寄生虫とかもいるだろうから。
『さて、料理ができあがった選手も登場しているようです! では、登場してもらいましょう! サンライオン!』
実況のセリフとともに、会場に魔物が入った檻が運ばれてきた。
真っ赤な鬣のライオン。なるほど、太陽に見えなくもないな。
太陽のライオンで、サンライオンか。
それにしても、なんで魔物が出てくるんだ?
『殺人料理! 人間が食べたら下手したら死んでしまいます! なので、魔物が食べることにより審査いたします』
あぁ、そういうことか。
確かに、俺もルシルの料理を食べろって言われて食べる人間がいるとは思えないからな。
『魔物のダメージ具合を見て、審査員が得点を出します!』
審査の基準は、「ダメージ」「状態異常」「即効性」から審査。
ダメージと状態異常を審査する審査員は診察眼鏡を付けている。
あれ、俺はスキルを覚えるために使い捨てにしたけど、一応は魔道具で、売るとすれば金貨20枚とかする道具なんだけど。
それを二つ用意するなら、一人でダメージと状態異常を審査させたらいいのに。
どれだけこの大会に金をかけてるんだろうか。
「では、まずはシアンダ選手の作った……おぉ、これは色鮮やかな生春巻きだ! 本当に色鮮やか!」
確かに色鮮やかだよな。生春巻きなのに湯気がいっぱいでていて、その湯気が色鮮やかな虹色に輝いている。
……虹色に出る湯気ってなんだよ。
生春巻きはサンライオンの前に置かれた。
サンライオンはその生春巻きを嗅ぎ……悶絶。
俺の診察スキルによると、
【HP30/200 MP0/0 麻痺・混乱】
となっていた。
なんだこれ、匂いだけでここまでになるとは。
審査結果が出た。
【ダメージ:8.5 状態異常:4 即効性:9.0】
ダメージはHP20につき、1点かな。状態異常と即効性の判断基準はつかない。
ていうか、食べてないのに、この得点はアリなのか!?
「勿体ないですね、あの食材」
コメットちゃんが悲しそうに言う。
あの生春巻きも、素材だけはまともな素材だっただろうに。
「食への冒涜だな」
俺がそう呟いたその時だった。
『さて、残った料理を食べて貰うために登場願いましょう! 食事の達人、その名は?』
実況の男が大声を上げた。
何が起こるんだ?
『『『エース! エース! エース!』』』
会場中が謎の「エース」コール! ハートのエース?
そう思ったら、会場の中に急にスモークが噴き出た。
「いよいよ来るぞ、食事の達人Sが!」
バンダナの男が握りしめた拳を震わせて言った。
「食事の達人S?」
なんだ、その仰々しいのかギャグなのかわからない名前は。
「食事の達人Sはこの大会の救世主だ。廃棄される料理が勿体ないという下らない理由で大会が中止になろうとしたとき、どこからともなく現れた旅人」
「彼女のおかげで殺人料理大会は続行できた」
「彼女がいなければ、この殺人料理大会は儚い夢と消えていたことだろう」
消えちまえ、こんな大会。
そう思ったら、霧は生春巻きの前まで迫った。
そして、霧から伸びた手が生春巻きの乗った皿を手に取る。
霧が晴れてきた。
霧の中から現れたのは――金髪ツインテールの仮面の少女だった。
耳が尖っているところを見ると、エルフなのだろうか?
その少女はフォークで生春巻きを一刺しし、口に運んだ。
「馬鹿な、あれを食べるだと!?」
匂いだけで魔物が悶絶する料理だぞ。
「これが、彼女が食事の達人Sと呼ばれる所以だ」
「見事な食べっぷりだ。そして、出るぞ! 彼女のダメ出しが!」
ダメ出し? ダメ出しって、逆にいいところが見当たらないんだけど!?
『……ビーフンと海老は別の鍋で茹でたほうがいいです』
え……マジでダメ出しだ! 普通のダメ出しが来た!
ダメ出しというか、料理へのアドバイスだ!
シアンダは普通にお礼を言っている。涙を流して感謝している。
……あぁ、そうか。彼女にとって、普通に料理を食べて普通のダメ出しを貰うのは初めてなのか。
食事の達人S只者ではないな……俺と年齢はあんまり変わらないようなのに。
それに、彼女の服も謎だ。
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ドラゴンウェアー【服】 レア:★×7
竜の髭をエルフの秘技で服にした一品。
高い魔法耐性だけでなく、物理耐性も一級品。
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そう、俺の鑑定によると、彼女の着ている服は、とてつもないレアな服なのだ。
…………なのに、なんでだろう?
その服はどう見ても、緑色の芋ジャージだった。
この世界にもジャージってあるとは思わなかった。
だが、わざわざ竜の髭で作るものなのだろうか?
本当に謎だ。
……本当に謎だ。
謎は謎のまま消えゆくのみ。
裏でこんなスライム作ってました。
スライムの核×雷の杖(残り回数0)
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サンダーメイジスライム
黄色い帽子が特徴の雷魔法を使うスライム。
静電気を浴びても立つ毛がありません。
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電気治療で肩こりが治る?
スライムたちには肩もありません。




