偽装表示のバナナエビ
~前回のあらすじ~
スライムがいっぱい。
クリス、スー、シーの三人と食事をすることになった。名目はゴーリキを捕縛したことによる報酬がようやくギルドから振り込まれたことへの祝いという形での食事会だ。
祝勝会、としないのは、ゴーリキもまた呪いの剣の被害者であり、彼が死刑になったことを知ったこともあり、勝ちを祝う気にはなれないからだ。
ちなみに、ここは丘の上のレストランで、ラビスシティーで一番有名な店のため、予約は半年待ちと言われる。
でも、そこは勇者特権。勇者の証を見せれば予約をせずとも特別席へと案内された。
こういう店は特別な客のための席を常に用意しているのだとクリスが説明してくれた。
スーとシーは暗器使いの姉妹。袖の広い服が特徴のお団子髪の20歳と19歳のお姉さん。そして美人。
クリスもバカなことさえ目を瞑ればどこに出しても恥ずかしくない美人なので、傍からみた俺の姿は……美人3人にこき使われる小間使いといったところか。
そんなことを思っているうちに料理が運ばれてくる。
創作料理ばかりで、アイテム図鑑が増えないかと思われたが、面白い素材が使われていたので僅かではあるが、アイテム図鑑が潤った。
例えば、この前菜の中のエビ。
……………………………………………………
バナナエビ【食材】 レア:★★
海に落ちたバナナを食べて育ったエビ。甘くておいしい。
繁殖力が高く生命力が強いため養殖向きのエビ。
……………………………………………………
「へぇ、これがバナナエビか」と呟くと、料理を運んできた男が顔を真っ青にさせてどこかに向かった。
そして、すぐにオーナーが現れ、「どうかこのエビがバナナエビだということは黙っていていただけないでしょうか?」と懇願。
なんでも、料理のメニューには、「バナナエビ」の10倍の値段がする「シヴァエビ」であると表記している。破壊神シヴァが愛したエビだとか。
偽装表示ということか。
結果、料理の代金を無料にすること、二度と偽装表示しないこと、そして高いワインを一本出してもらうことを条件に黙っておくことになった。
「でも、なんでウソをつくかねぇ。鑑定スキルがあったら誰でも見抜けるだろ」
「コーマ、普通の鑑定スキルっていうのは加工後の食品ならよほどの高レベルじゃないと見極められないよ」
とスーが説明してくれた。へぇ、そうだったのか。
逆に、ワインを見ても「赤ワイン」としか鑑定できないんだが。
鑑定スキルって本当に謎だよな。
ソムリエのような男が、ワインの説明をしてくれたが、俺にはワインとしか見えない。
通常、一本金貨3枚のワインだそうだが、金貨数百枚持っている俺にはその価値がいまいちわからない。
4人家族が1年間生活できるくらいの金額だと後で思い返して仰天したが、この時の俺は自分に正直に……
「あんまり好みじゃない。悪いがぶどうジュースを貰っていいですか?」
と俺が言うと、ソムリエの男はとても複雑な顔をした。後で考えてみれば、これもよくなかったなぁ。
その後は普通に無料の食事を楽しんだ。
その食事の最中で、俺はスラ子のことを、少しぼかして説明。
そういう魔物を知らないか? と聞いてみた。
「女性型のスライムですか? 聞いたことありませんね」
「私もないよ」
「……ありません」
「そもそも、スライムって性別ないだろ?」
スーの言う通りだ。スライムは本来性別はない。
すると、クリスが思い出したように、
「スライムじゃありませんけど、似たような精霊の話はありましたよね。水辺に生息する女性の精霊」
「あぁ、いたねぇ。アクアリウス。憧れたよ」
なんでも、アクアリウスというのは有名な民話に登場する精霊のようだ。
水を浄化する力を持つ精霊で、王子様に恋をして人間になろうとした。
だが、水の精霊が人間になろうとしても半透明の人間の姿であり、アクアリウスはそのことを悔い涙を流した。
そこに恋した王子様が現れ、「君が人間になろうとしたように、僕も精霊になろう」と魔法の杖で姿を変え、二人は永遠に結ばれた。
ちなみに、その神話が残っている泉というのが、偶然にもこのレストランの前にある湖だという。
なら、スラ子はスライムじゃないのか?
もしそうなら……
(もう一度名前を変えないとな)
……アクアリウスって、地球だと水瓶座だったよな。確か、アクアリウス……英語読みだとアクエリアスか。
よし、スラ子の名前を決めた。意味なんてないよ。直感でそう決めた。
地球にいたころ、犬の名前に「プレイリー」と名付けて「プレイリードッグは齧歯類でしょ」と親に言われた過去を持つ俺のネーミングセンスの集大成がここにある。
命名「カリーヌ」
うん、何度聞いてもいい名前だ。
最初は「ポカリス」にしようかと思ったんだけど、「ポカリ」って叩かれた擬音みたいだからな。ポを省いて「カリス」にしようとした。確か、ギリシャ神話の女神の名前だった気がする。でも、それだと「クリス」と名前が被る。ということでちょっと名前を変更したところ、可愛い名前になった。「ス」を「ヌ」に変換するなんて、俺にしかできないんじゃないだろうか? というのは少し言い過ぎたかも。
それにしても、こんなにいい名前をつけられるんだったら、グーとタラの名前を付けるときも、ルシルじゃなく、俺が名付けてあげたらよかったな。
「ありがとう、いい話を聞かせてもらったよ。だからこの店はカップルが多いんだな」
そりゃ、王子と精霊が一緒になったという曰くのある湖の前のレストランだ。ご利益を受けようと来る人も多いだろう。
俺が何気なくそう呟くと、シーが顔を真っ赤にさせて俯いた。
あれ? どうした?
俺が首を傾げたら、
「ごほんっ」
とスーがわざとらしい咳をつき、
「ところで、クリス。さっきの話だけど、これからコーマと別れて仕事なんだって?」
「そうなんですよ。サイモンさんがどうしても私の力を借りたいって」
サイモンが誰なのかは知らないが、一週間ほどクリスはこの町を去るそうだ。
一週間したら戻ってくると言うので、俺も勇者の従者としては休日を貰うことにした。
まだまだ作りたいスライムもいるしな。
ちなみに、魔物のスライムについても面白い実験結果が得られた。
大天使スライムの癒し効果。
これも普通のスライムにとっては過回復らしく、一度回復したら大量に分裂し、約50匹のスライムとスライムの核が生まれるという。
ただ、スライムが増えすぎたら、餌となる雑草がなくなるため、これ以上は増えないように言った。そうしたら、今度はスライム同士融合してパワーアップを始めて行った。
とはいえ、スライムには違いないので、パワーアップには限度があるそうだが。
まぁ、そういうわけで、スライムの核には余裕もできたし。
植物系のスライムでも作ってみようかな。
だが、その思惑はスーの一言によって打ち砕かれた。
「でさ、コーマ、一週間限定で私の従者にならないかい?」
「え?」
「南の国に私達が追っていた賞金首が現れたって情報が入ってね。できればあんたの力を借りたいんだ」
「力って、俺はただのクリスに従順な従者だぞ?」
俺が当たり前のことを言うと、クリスがじと目でこちらを見てきた。
「じゃあ、私に従順なコーマさん、命令です。スーさんの力になりなさい」
「な、クリス! おま、まだ怒ってるのか、蒼の迷宮に置き去りにしたこと」
「当たり前です! 結局、泣きながら35階層に戻って、メアリさんの案内で地上に帰るという辱めにあったんですから!」
「そりゃ恥ずかしいな!」
むしろ、よく35階層に一人で戻れたな、と感心した。
一人では生きられない珍しい勇者として世界的に保護するべきだぞ。
「なら決定だね! コーマは一週間、私達と行動だよ」
「俺に拒否権はないのかよ」
どうやらないようだ。
こうして、俺は一週間限定で、スーとシー、二人と一緒に行動することになった。
スラ子の名前。
本当は
第一候補「ポカリ」にして話を進めていました。
書けば書くほどギャグになったので改名。
第二候補「カリス」に全て置換したところ
やべ、クリス、クルト、ルシルとかややこしい名前多すぎる。
ということで、
第三候補「カリーヌ」
に落ち着きました。
~今回裏で作っていたスライム~
スライムの核×ポーション(その他多数の互換アイテムあり)
……………………………………………………
ヒーラースライム【魔法生物】 レア:★★★
花の蜜を好むスライム。二本の触手から治癒効果のあるエキスを出す。
ハチミツスライムとも呼ばれ、そのエキスはとても甘くておいしい。
……………………………………………………
ポーションは苦いのに。
ヒーラーだけど、回復魔法を使えると言うわけではないのが特徴。




