エピローグ & はじまりの話3
~前回のあらすじ~
魔王とは……
「鯨のお肉、他のみなさんには好評だと思いますよ」
「いや、悪い。メイベルが肉が嫌いなのすっかり忘れてて。今度別のお土産持ってくるから」
「だから、本当に気にしていませんから、コーマ様。チョコレートクッキーを頂きましたから」
久しぶりのフリーマーケット。
夜遅くに帰ってきた俺の雑談に、メイベルに付き合ってもらっていた。
お土産に鯨の肉をメイベルに渡す瞬間まで、彼女がエルフで肉嫌いだということをすっかり忘れていた。
渡した瞬間にしまった、と思ったが、彼女の性格からして怒ってると言うことはないと思う。
代わりにチョコレートクッキーを渡したが、ルシルに食べさせた残り物なので、量はそれほど多くなかった。それに甘えたくないからな。本当に別の土産を考えないと。
「で、クルトの様子はどうだ?」
クルトは今、店の倉庫内の部屋……もともとメイベル達従業員が住んでいた部屋を、クルトとアンの部屋兼工房とした。
食事は一階で提供。薬を作って、売れた場合、素材との差額の半分がクルトの給料になる、という計算で。
一日銀貨3枚程度の収入になっているらしい。ギルド員の平均収入の数倍となり、こんなに貰っていいのか、と不安になっているそうだ。
だが、「それだけのお金があれば、アンちゃんも学校に通えるしな」と俺がいったら、アンちゃんのことを考えて素直にお金を受け取る道を選んだ。
「クルトくんはよく働いてくれています。あと、勉強も頑張ってます、この調子だと、数ヶ月以内には文字が読めるようになるんじゃないでしょうか?」
まぁ、この世界の文字は日本語と違って、漢字などはないからな。
30の文字と10の数字を覚えたらいいだけだ。俺はルシルの翻訳魔法で強制的に覚えたが。
もちろん、組み合わせによって読み方が変わるものがあるが、もともと普通に会話はできているんだから、あの真面目な性格のクルトなら長い時間はかからないだろう。
メイベル以外の従業員には、俺がこの店のオーナーであることを黙っておくように、そして、クルトを買ってからこの店に来るまでにあったこと、出会った人のことは誰にも話さないように頼んだ。
もう、クルトは俺の奴隷ではない。だから、頼むことにした。
クルトはそれを快く受け入れてくれた。
自分が俺の奴隷でなかったとしても、俺がクルトの恩人であることも、そして師匠であることも永遠に変わらないからと言ってくれて。
本当にいい弟子をもったもんだ。
そのうち、あいつとアンちゃんのために、専用の工房付きの家を作ってやらないといけないな。
そう思えてくる。
そのためにも――この町は無事でなければならない。
《魔王の目的とは、迷宮の力を全てその身に受け止めることです》
迷宮を受け止める。
マユは実際、蒼の迷宮の35階層を己の身として受け止め、巨大な海、永遠に溢れない蒼の海を作り出した。3万年もかけて。
迷宮を受け入れるために、魔王は人間を迷宮へとおびき寄せたり、魔物と人、もしくは魔物同士、時には人同士を戦わせ、澱みを生み出させる。
魔王の迷宮における瘴気は魔物を産むと同時に、魔王によって食べやすい環境を作るということだ。
なぜなら、その瘴気とは、迷宮が魔王の力に染まっているということだから。
だから、瘴気から生み出された魔物は魔王の力の一部、魔王の言うことを絶対に聞く。
そして、自分の迷宮を食い尽くした魔王は、次は他の魔王の迷宮を喰らいつくし、最後の迷宮全てを喰らいつくそうとするらしい。
最後に、地上へと続く迷宮までも己のものとする。
途方もない、途轍もない、そしてとんでもない話だと思う。
そして、マユは言う。
ある魔王が、ラビスシティーを巻き込む戦争を起こそうとしている可能性があると。
戦争を起こすことで、地上から瘴気を生み出して取り込むために。
そんなことは絶対に阻止しないといけない。
絶対に、だ。
「とはいえ、俺にできることなんて限られてるよな」
「何か言いましたか? コーマ様」
「いや、なんでもない」
俺はそういいながら、まぁ責任を全て背負い込むことなんてないと思い、アイテムバッグからアイテム図鑑を取り出して眺める。
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レア:★ 16823種
レア:★★ 1982種
レア:★★★ 106種
レア:★★★★ 24種
レア:★×5 20種
レア:★×6 8種
レア:★×7 5種
レア:★×8 3種
レア:★×9 2種
72財宝 4種
18977/862139218
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72財宝がようやく4種類目。
うち、3つが魔王城の中にある。
でも、まだまだ先は長いな。
「そういえば、コーマ様。クリスさんはどうしたんですか?」
「え? あ、あぁ。さっき連絡したんだけどさ……」
※※※
「うぅ……ここどこですか……」
蒼の迷宮18階層で私は彷徨っていました。
地図をコーマさんに預けたままだったので、戻る道がわかりません。
「ふぎゃぁぁぁっ!」
海の中から化け物魚が飛び出してきたので、私は剣で一刀両断した。
新鮮な魚が落ちる。
幸い食糧に困ることはありません。アイテムバッグの中に飲み水はたっぷりありますし。
それでも……本日3度目の下り階段発見に、私のイライラは限界でした。
「出口はどっちですかぁぁぁっ!」
地上に戻れたのは、それから3日後でした。
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Episode04 に続く。
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~はじまりの話3~
水を飲んだ瞬間から、俺の中に、水と一緒に何か強大な力が入ってきた。
そして、身体の自由が奪われる。
俺の目に広がるのは、俺が作り出したと思われる闇の球の表面だった。
【殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ】
殺せの文字が脳内に埋め尽くされ、逆にもう何を言っているのかわからなくなってきた。
これが文字として書き下ろされたら、ゲシュタルト崩壊を起こしてしまうのは間違いない。
とはいえ、俺の心はひどく落ち着いていた。
いや、落ち着いているんじゃない、抵抗することすら許されないということか。
俺の心とは無関係に身体が動き――
「絶対零度封印術!」
シフィルの声が聞こえてきた。と同時に闇の球がみるみるうちに小さくなっていき、氷の結晶となって消えた。
そして、その氷の結晶が冷気の波動となって広がり、壁を、床を、天井を、全てを氷へと変えた。
これが大魔王の娘――ルチミナ・シフィルの力。
だが……
「【殺す】」
俺がそう呟くと、周囲の氷の結界が蒼い炎となって燃え上がる。
そして、その炎が壁を、床を、天井を分解し、シフィルへと襲い掛からせた。
「転移!」
シフィルがそう叫ぶと、その姿が揺らめいた。俺の視線が動き、
「【殺す】」
彼女に向かった炎の破片の半数は砕け散ったが、残りの半数を視線の先へと動かした。
刹那、視線の先に現れたシフィルが俺めがけて飛んできた――俺の動かした炎の破片と激突した。
爆炎が舞う。
転移先とその行動を予想して攻撃したのか?
俺が?
このままではシフィルが……死んでしまう。
でも、俺にはどうしようも――
「大丈夫よ、コーマ。待ってなさい。大魔王の娘である私が絶対に助けてあげるから」
彼女は爆炎の中でそう言い、笑った。
……俺のため?
彼女は俺のために戦ってる?
そんな……そんなことが。
くっ……ぐおぉぉぉぉぉ!
俺は必死に心に押し寄せる闇に抗おうとするが……
【殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ】
闇は決して衰えない。
全然衰えない。
それどころか、俺の魂が食べられていく感じが……
「いいわよ、コーマ!」
煙が晴れたとき、そこに笑っているシフィルがいた。
そして――俺は見た。
気付かなかった。
彼女の絶対零度の氷は、この部屋を氷と化したのではなかった。
魔王城全体を氷にしていたのだ。
そして、その氷が――氷の破片となり、俺に降り注いだ。
「絶対零度封印術弐式」
俺の中の大魔王の力が氷の中に閉ざされていく。
それと同時に、シフィルの身体が幼く……まるで小中学生のように幼くなっていった。
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はじまりの話4 に続く
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次回は登場人物紹介になります。




