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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode03 海上都市

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魔王は赤いワインと血肉で胃を満たす

~前回のあらすじ~

アンちゃん、よかったね。

 魔王城。

 結構毎日のように戻っていたので久しぶりという感覚はない。

 そこに、俺とルシル、コメットちゃん、タラ、そしてマユがいた。


《不束者ですが、今日からお世話になります》 


 今回の騒動を経て、マユの魔王軍は、俺の魔王軍の軍門に下った。

 もとより、マユの力は魔王の中では最弱のため、部下が安心して暮らせる魔王軍の軍門に下る気満々だったようだ。

 マユのことを人魚だと知っているが、魔王だと知らないメアリとランダに、好きな人ができたから付いていく、とウソを言って別れを告げた。

 メアリはその言葉に目を白黒させて驚いたが、祝福し、ランダは俺に対して「マユ姉さんをお願いします」と頭を下げた。

 そんな関係じゃないんだけどな。


 その後、142階層を大幅に改造して、浅瀬の海を作り出した。

 海草の種と肥料も撒いたので、すぐに海草も豊富になり、魚の魔物の住みやすい環境になるだろう。すでに小さな魔物たちは移住を開始している。

 それに伴い、39階層の一部に瘴気が澱んでいる場所が現れた。

 そこから青いスライムのような魔物が数匹湧きでたのを確認している。

 現場に赴いた俺のことをスライムは主人と認識したらしく、俺の命令はなんでも聞いてくれた。誰の命令でも聞くんじゃないか? と思ったが、そうではないらしく、ルシルの命令に全く従おうとしない。当然彼女は怒ったが、俺が「ルシルがお前たちの上官になる。命令を聞くんだ。今後増える仲間にもそう伝えろ」と命令したら、ルシルの命令にも従うようになった。


 着実に、ルシル迷宮の迷宮化は進んでいる。


「ところで、俺はマユに聞きたいことがあるんだが」


 マユに聞きたいこと。 

 それは――


《本当にしらないのでしょうか?》


 俺の言葉を先回りして、マユが疑問を口にした。


「ああ、教えてくれ。魔王ってなんなんだ?」


 今更過ぎる質問。だが、それに答えてくれる人間がいままで誰もいなかったんだから仕方ないじゃないか。


「あ、それ、私も聞きたいわ。お父様は、私が魔王に相応しい力を手に入れたら教えてくれるって言っただけで、聞いてないのよ」


 魔王の俺と大魔王の娘のルシル。二人とも魔王については無知だった。

 知っていることといえば、魔物の住む迷宮の奥深くに住んでいることと、年を取らないことくらい。

 とりあえず、魔王らしいことをするために、迷宮に魔物を配置して、フリマに忍び込んでくる空き巣を迷宮に強制転送して苛めてるが。

 でも、それだけだと魔王って言えないよな。


 むしろ、マユを見ていると、魔王なのに積極的に人助けをしようとしている。


《では、説明します。魔王の目的とは――》



   ※※※



 サイルマル王国玉座の間。

 そこに兵士が無断で入ってきて、僕に言い放った。


「陛下! ここはもう危険です! 抜け道から避難してください!」


 彼は横腹に、鉤爪でひっかかれたような傷があり、この出血量だともう助からないと思われる。

 彼はそんな状態になっても僕を助けるためにこの部屋に来て、僕に危険を知らせた。

 そして、その“危険”は、玉座の間の扉を蹴破り、現れた。

 ライオンのような金色の鬣を持つ巨漢の男。

 彼は武器一つ持たず、鎧も着ないでその身一つで乗り込んできた。文字通り化け物だ。


「陛下、早くお逃げ下さい!」


 兵士は横腹の痛みに耐えながら剣を抜き、その大男に対して構える。


「ほう、その傷でまだ動けるのか! おもしれぇ、遊んでやる」


 巨漢の男がそう言った。

 僕はため息をついて立ち上がり、兵士の後ろに歩いていく。


「陛下、早く――」

「うるさい」


 僕の放った爆破魔法が兵の頭を吹き飛ばす。

 返り血や飛び散った肉片は僕の前に張られた結界が全て遮ってくれた。

 首から上がなくなった兵は力なくそのまま前へと倒れた。

 ついでに、破れた扉の代わりに僕の作った闇が入口を塞ぐ。

 誰かに入ってこられたら面倒だからな。


「おいおい、グリューエル。ひどいんじゃないか? こいつはお前のために」

「その名前は僕が魔法学園の理事長だった時の名前」

「ん? あぁ、お前が生徒全員を生ける屍にしたあの魔法学園か」


 リッチを生み出すための実験だったんだが、失敗した。

 そのせいで、北の国が滅んだんだけど……なんていう名前の国だったのか思い出せない。 

 300年も前のことだが、グリューエルの名前は学校の歴史の教科書にも残るほどだ。


「今の僕の名前はサイルマル12世だよ、ベリー」

「サイルマル……覚えるのがめんどくせー、どうせその名前もすぐに変わるんだからグリューエルでいいだろ」

「二人きりの時は別にいいんだけどね。流石は脳内まで筋肉の魔王だね」


 僕がそう言うと、ベリーは褒められたと思って「そうだろそうだろ」と豪快に笑った。80年ぶりに会うけれど、そういうところは全く変わっていない。

 筋肉魔王……獣の王であるベリーにとって、力は自分の象徴みたいなものだからな。僕とはどこまでいっても相容れない存在、だからこそこうして話ができるんだけど。


「グリューエルに話そうと思ってよ。俺様が魚魔王に放った一角鯨、覚えてるだろ?」

「人魚の魔王と戦い、最後はメデューサの呪いで石化して封印されたんだよね」

「そいつが殺された」

「知ってるよ」


 知っている。勇者クリスティーナとその従者、そして人魚の魔王マユと人間達の作戦により、一角鯨が滅んだ。

 僕は直接見ていないが、おそらくはクリスティーナの従者、コーマ……ルシファーの力を持つあの少年の仕業だろう。


「なんだよ、知ってるのかよ。せっかく教えてやろうと思ったのに」

「ベリー。君はそんなことを知らせるために僕の国の兵を1300人を殺してここまでやってきたのかい?」

「俺様が殺したのは1299人だ。1300人目を殺したのはお前だろ」

「脳内筋肉なのに数は数えられるんだね」

「まぁな、凄いだろ!」


 あぁ、本当に凄いよ。全く皮肉が通用してない。

 それにしても、気になるのはベリーの肩の傷だ。

 前にあった80年前にはそんな傷はなかったはずだが。新しい傷のようだけど、人間の姿とはいえベリーがこんな傷を負うなんて。


「あぁ、この傷か。コボルトにやられたんだよ」

「コボルトに……? 驚いた、ベリーも冗談を言えるようになったんだ」

「嘘じゃねぇよ! 魔人化したコボルトにな。まぁ、俺様も獣化してたらこんな傷は負わなかったがな」


 魔人化したコボルト……へぇ、面白いなぁ。

 とはいえ、そのコボルトも人間の姿のベリーに大怪我を負わされたらしい。

 その程度なら強敵というほどではないか。


「ゴブリン王ももうすぐ復活するそうだし、本当に面白い。とはいえ、一角鯨のせいで人間同士の戦争を起こすのは少し先になりそうだけど」

「おいおい、一角鯨は悪くないだろ。あいつはただ、俺の命令に従って暴れただけだ」


 僕は「ベリーのせいでこうなった」とほぼ直接的に言ってるんだけど、彼には全く通じていないようだ。


「ところで、ゴブリン王ってなんだ?」

「ベリーは知らなくていいよ。ところでどう? お茶でも飲んでいく?」

「俺様はお茶より酒がいいな。ないのか、酒?」

「ああ、前国王が集めていたお酒ならあるよ。村一つ買えるくらいの値段のワインらしいけど、僕はお酒は飲まないからね」

「グリューエルはガキだからな」

「まぁね」


 僕はそういいながら、奥にある寝室からワインを取りに行こうとして――後ろで死んだ兵士を、僕を守ろうとして僕に殺された兵士を食べてるベリーを見て、嘆息を漏らした。

 彼の口からは血がしたたり落ち、血で染まっていた元から赤い絨毯をさらに赤く染める。

 もう少ししたら黒く変色するだろう。


「食べるなら綺麗に食べてよね。掃除が大変だから」


 掃除をするのは僕じゃないけどね。玉座の間の外で僕の身を案じているであろう国民達の仕事が増えるだけだ。


「ああ、きれいに食べるよ。魔王として食べて力をつけないとな」

「魔王として……ね」

「そうだろ。魔王は力を求め、そして迷宮を喰らわなければいけないんだからよ。そのためには胃を大きくしておかないとよぉ」


 ベリーはそういい、骨の髄までかぶりついた。

 せめて、ワインを持ってくるまで待てないのかな。

 ついでに僕もジュースを持ってこよう。

 焦げた肉と新鮮な血の匂いがする部屋の中で飲むブドウジュースはとてもおいしいからね。

「教えてくれ。魔王ってなんなんだ?」


……え? そこから?

ということで、エピローグとはじまりの物語3

で長かった、本当に長かった3章終わりです。

予定通り、ジャスト40話。

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