鯨の肉でバーベキューパーティー
~前回のあらすじ~
ようやく戦いが終わった。
一角鯨が死に、アイランドタートルが復活したことで南の島にもシーダイルが来なくなったという事実は、蒼の迷宮35階層に住むすべての人の知るところとなった。
ちなみに、アイランドタートルが生きている可能性は多くの島民たちが思っていたことなのだが、どんな治療をしても生き返ることがなかったという。
その原因が、コメットちゃんが壊した大岩だと、アイランドタートルがマユに語り、マユから俺達に伝えられた。
コメットちゃんが壊した大岩が、アイランドタートルの生命の流れというものを阻害し、並みの薬なら全く通じなかったのだそうだ。
メアリが代表して何が起こったのかを説明し、犠牲者の名前が告げられた。
その名前を呼ばれると泣き崩れる島民もいた。彼らの家族だろう。
そして、全員で海に向かって黙祷を捧げた。
浮島が2ヶ所犠牲にはなったが、食糧難の危機はとりあえずは去った。
むしろ、南の島のアイランドタートルが生気を取り戻したことで、甲羅の上の土壌にも活力が湧き、これから南の島でも食糧が豊富に取れることになるそうだ。
そして、北の島から運ばれてきた鯨肉を使い、全島民でバーベキュー大会をすることとなった。
そのパーティーの中に、俺の姿はなかった。
俺達は夜のラビスシティーを歩いていた。
「クルト、落とすなよ! 大事な肉だからな」
「はい……ご主人様」
俺たちは一足先に転移石を使い、地上へと戻っていた。
二つの意味で島の英雄となったクルトをこっそりと連れ出すのには苦労したが、俺はこいつにご褒美を与えなくてはいけない。
そのタイミングは今が一番だろう。
ということで、俺とクルトは焼き立ての肉の入ったお皿を両手に持ち、やってきた。
教会の前へ。
「クルト、これから会う女の子なんだがな、その女の子のお兄ちゃんは仕事のために旅に出ているそうだ」
「え? あ、そうなんですか」
「そうだ。とても可愛い女の子なんだがな……っとそうだ」
俺は一本の鍵を取り出した。
そして、その鍵をクルトの首輪につける。
すると、首輪は音を立てて外れた。
「え?」
首輪が落ちたのを見て、クルトは驚いた。
借金奴隷の隷属の首輪は、買い取った主人が言えば奴隷商人が鍵を外してくれる。
だが、犯罪奴隷の場合、首輪を外す鍵を持っているのはギルドだ。俺が持っているわけがない、そう思ったんだろう。
「今回の事件、俺がさっきギルドに報告に行った。その上で、クルトに恩赦が与えられた」
「恩赦……ってそんなに簡単にもらえるものじゃ……」
「お前が救った病人達とその家族、そして島を救われた島民たち。普通、1000人以上の嘆願書を集めるのって簡単じゃないと思うぞ」
それを隠れて集めるのはもっと簡単じゃなかったけどな。
ちなみに、正式に恩赦が与えられるのはギルド会議の決定が降りてからなのだが、首輪だけは今日から外してほしいと俺がギルドマスターに頼み込んだ。
全ての責任は俺が持つからと。
だって、ここに入るのに隷属の首輪をつけたままだと誰かにつっこまれたらどう答えたらいいかわからないからな。
教会へは入らず、教会の裏へとまわった。
俺が先に出ると、庭でバーベキューの準備をしていた子供たちが俺を迎えてくれた。
孤児院の子供たち。いい肉が大量に手に入ったからバーベキューをしようと持ち掛けた。
これもクルトに黙って。
「勇者のお兄ちゃんなの!」
その声に、クルトは手から力が抜けたのだろう、お皿が落ちそうになる。
俺はとっさに両手で持ってた皿を左手で持ち、右手で自由落下していったお皿をぎりぎりのところで受け止めた。
そして、トテトテと近づいてくる、天使のように可愛らしい女の子。
「久しぶり、アンちゃん」
「久しぶりなの…………お兄ちゃん?」
アンちゃんは俺の後ろで茫然自失状態だったクルトを見て、クルト同様、思考を停止させたように固まった。
そして――
「クルトお兄ちゃん!」
俺を通過して、クルトへと抱き着きに行った。
あぁ、ちくしょー、お兄ちゃん役を本物に持っていかれちまったなぁ。
少し悔しいが、でもまぁ……これでよかったよな。
「アン……アン……目は……そうだ、目は治ったの?」
「うん、勇者のお兄ちゃんが治してくれたの」
アンちゃんはそう言って、俺を指さした。
「御主人様が……?」
「クルトに出会う前にな。偶然……いや、セバシさんにしてやられたってところかな」
一人だけ廊下掃除をさせられていたクルト。一人だけ目立つ行動をさせていたのは、セバシのちょっとした心遣いだった。
彼がアンちゃんの実の兄だと知ったのは、クルトを買う手続きをしている最中だった。
犯罪奴隷は家族との連絡を取ることができないが、アンちゃんとすでに知り合っている俺ならばクルトを買わせたら、アンちゃんの無事を知らせることができると思ったのだろう。
とはいえ、さすがに錬金術スキルを持っていたのは偶然だろうが。
クルトは目に涙を浮かべ、俺に感謝をした。
お前のために助けたんじゃないよ、と俺はクルトの頭をポンと叩く。
「シスター、それで、例の話ですが」
俺は片手の肉の乗ったお皿をシスターに持ってもらう。
「ええ、実のお兄さんが迎えにいらしたのですから、寂しくなりますが、断る理由はございません」
「ということで、アンちゃん。今日からクルトと一緒に住むことになるけど、いいかな?」
「え? ご主人様、でも」
「住む場所は俺が用意してやる。仕事もな。普通に暮らすよりはいい生活になるから安心しろって」
俺はそう笑い飛ばすと、
「コーマ! 肉持って来てよ!」
カイルの言葉を先導に、子供たちから「肉」コールが湧き起こった。
あいつら、俺が来るたびに生意気になってきているな。
「うるせぇ、カイル! 肉がくいたけりゃ俺の話を聞け!」
「聞けない! 何時間待ったと思ってるんだよ!」
「待てって! いいか、よく聞け! この肉を手に入れた俺の冒険譚を!」
「嘘だ! 勇者の従者のくせに!」
「そうだ、倒したのは勇者だろ!」
「クリスティーナさんにはフラれたのかよ!」
「うるせぇぞ、ガキども!」
こうして、俺の楽しいバーベキューパーティーは始まった。
通信イヤリングが鳴りっぱなしだが、無視だ無視。
※※※
「コーマさんのバカぁぁぁぁぁっ!」
通信イヤリングで呼びかけているのに無視をされ続けた私は、パーティー会場の中でそう叫びました。
コーマさんからの置手紙があまりにもひどいから。
【クリス、俺先に帰ってるからな。ギルドにはこっちから報告しておくよ】
どうしてコーマさんはこうも自分勝手なんでしょうか。
考えたらますますお腹がすいてきました。
「すみません! クジラ肉バーベキュー、タレで5本! 塩で5本ください」
こうなったらやけ食いです!
これで太ったらコーマさんに絶対に責任取ってもらうんだから!
※※※
「一角鯨の消滅、証拠の一角龍涎香……の欠片。どうだったね? 勇者エリエール」
「店の者に鑑定させたところ、本物に間違いありませんでした」
冒険者ギルドのギルドマスターの執務室。
太陽も沈み、魔石を入れたランプが淡い光を放っていました。
そこにわたくしとギルドマスターのユーリ、七英雄の一人ジューンがいました。
「ワシは一角鯨の島の住民が避難している間に北の転移陣から戻ったがね……うむ、まさか一角鯨を殺せるとは、流石は彼奴の娘といったところかね」
「勇者クリスティーナ……魔剣グラムを失っていた彼女一人であの一角鯨を倒せるものなのか」
「おそらくは、従者コーマも何か手を貸したのかも知れないね」
コーマ……その名前を聞いてわたくしの胸が締め付けられる。
無事でよかったと思う安堵の反面、彼を犠牲にしてしまうところだったという罪悪感が心を覆いつくす。
「とにかく、これで一件落着さね」
「ああ。一角鯨は魔王級の魔物だ。その一角鯨を魔王へと仕立てあげ一角鯨を殺しても魔物の数は減らなかったと報告。そうすることで魔王と魔物との因果関係をなかったことにする」
そう。これが今回の依頼の真の目的でした。
いえ、正確には、一角鯨に35階層全てを滅ぼさせ、ギルド員と勇者総出で一角鯨を退治。
そのほうが、一角鯨が魔王であるという信憑性が増しますから。
ユーリは……いえ、わたくし達三人は一角鯨が魔王などではないことを知っている。
知っている上で、魔王を保護するために魔王を仕立て上げました。
全ては、この町の生命線である迷宮のために。
魔王が滅びればその迷宮はただの洞窟になる。魔物も湧かない、アイテムも生み出されないただの洞窟に。
それだけは絶対に避けなければいけませんでした。
「では、アイランブルグにはそう報告させていただきます」
わたくしはそう言うと、自分を含めていかれた人間達の巣窟から出ようとし、横にただ立っていた女の子を見下ろしました。
何故あなたがユーリと一緒にいるのかはわかりませんが、あなたは絶対にわたくし達のようになってはいけませんわよ。
伝わるはずがないのに、心の中でそう呟きました。
これでアンちゃんの出番を自然に増やせる。
アンケートにご協力いただき、ありがとうございました。
アンケート結果は活動報告のほうに書かせてもらっております。
この結果をもとに4章を書くことになりますので、あまり期待しすぎないようにお待ちください。
次回の更新は18時です。




