ホワイトエンド
「ねぇ、コーマ。これ、戻ってきたの?」
魔王城の会議室に俺たちはいた。
出た時と何も変わっていないが、こたつのテーブルの上には、さっきまで食べていたみかんの皮が残っていて、さらにその上には今回の事件を起こした時の揺り籠が置いてあった。
「ああ――ようやく戻ってこられたようだ。コメットちゃんたち心配させちまった。ちゃんと謝らないとな」
俺はそう言って背筋を伸ばした。こたつで寝ていたため体が微妙にだるいから筋肉をほぐしておかないといけない。
とりあえず、栄養ドリンク代わりにグリーンポーションでも飲んでおくか。
「ルシルも飲むか? さっぱりするぞ」
「ピーチ味でお願い」
「ほらよ」
俺はアイテムバッグからピンクポーションを取り出してルシルに渡した。
普通のポーションはとても不味いが、グリーンポーションは青汁みたいで不味いけれども癖になる味、ピンクポーションはピーチ味で子供にも喜ばれるという感じだ。ちなみに、普通のポーションよりも値段が高く、普通のポーションでは怪我や体力しか回復しないが、グリーンポーションやピンクポーションは魔力が僅かに回復する。
ルシルはポーションの蓋を外して三分の一ほどピンクポーションを飲んだ。
「で、コーマ。そろそろ教えてくれない? なんで私たちは戻って来られたの?」
「ん? まだわかっていないのか?」
「わからないわよ」
ルシルが解答を求めてきたので、ヒントをひとつずつ与えていき導こうかとも思ったが、俺もヒントをもらった立場なので、素直に答えを言う事にした。
「時の揺り籠は俺たちを過去に戻したんじゃないのさ」
「え? もしかして私たちが過去だと思っていたのは実は未来だったとか、並行世界だったとかそういう話?」
ルシルが訝し気な表情で俺に尋ねた。
「違う違う、そんな難しい話じゃない。時の揺り籠が過去に戻したのは俺たちではなく、このコタツだったんだよ。俺たちはこたつのおまけで過去に戻されたってわけだ」
だから二十四時間経っても俺たちは元の時間に戻れなかった。
こたつは過去に行くと同時に壊れ、アイテムバッグの中で眠っていた。アイテムバッグの中に入っている物は時間が止まる。そのため、二十四時間後元の戻れるはずなのに、俺たちは元の時間に戻れなかったというわけだ。
「あぁ、そういうことだったの。ようやく合点がいったわ」
「その通りだ。その絡繰りに気付いた俺を誉める意味で、俺と結婚してください」
と俺は流れるような動作で土下座に移った。
「いままで何度も告白されたけど、とうとう土下座するまでになったのね。いいわよ」
「断られるのはわかっていた。ならば結婚は諦めるから大人バージョンで……え?」
いま、なんて言ったんだ?
俺はただ大人バージョンのルシルに膝枕でもしてもらおうかと思っていたんだが。
「結婚してもいいわよって言ったのよ。なんか、コーマが神になったり過去にいったりいろいろしているうちに、結婚するとかしないとかが些細なことに思えてきてね」
「いやいや、結婚大事だぞ! そんな、セールスマンが一時間居座って、買わないと帰ってくれない雰囲気だから食べもしない健康食品を買うような気でOKされても……」
「じゃあやめる?」
「結婚させてくださいっ! 日取りはいつ頃がよろしいでしょうか?」
再度土下座が決まったところで、会議室の扉が開いた。
誰が入ってきたのかと思ったら、さっき見た顔――マユだった。
「おかえりなさい、コーマ様。過去の世界はいかがでしたか?」
「おぉ、マユ! 悪いが大事な話をしてるんだ。話はあとでいいか?」
「え? それはおめでとうございます……では後で……後で忘れないでくださいね」
マユはそう言うと、何故か腑に落ちないような顔で会議室を出ていった。
まったく、タイミングの悪い奴だ。
「やっぱり、結婚は大安がいいよな。そういえばこっちの世界で結婚向けの月日ってあるのか? ジューンブライトみたいな」
「そうね。結婚は冬にするのがいいって言われるわ」
「そうなのか? なんでだ? 雪の中で純白の花嫁ってか?」
「春から秋は農家は忙しいから、結婚をするなら暇な冬にしろって言われているのよ」
それはなんとも身も蓋もない話だな。
でも、それならいますぐ結婚してもいいってことじゃないか。
結婚式は、教会だな。孤児院でみんなに祝ってもらおう。あ、でもゴブリンやミノタウロスにも結婚式には参加してほしいから、魔王軍と人間たちとの結婚式は別々に行うべきだろうか?
「……あれ? そういえばマユはなんで俺が過去に行ったって知ってたんだ?」
「あぁ、それは私が過去のマユに伝えたからよ。ちゃんと覚えていてくれたのね」
「……え? ちょっと待てっ! マユの記憶は封印したんだろ?」
「してないわよ。口止めはしたけど」
「なんでだよっ!」
もしかして、実は歴史は変わったんじゃないか?
口止めした程度じゃ、俺とはじめて会った時とかにもっと別の反応が。
「あれ?」
ふと、俺はマユとのはじめての出会いを思い出した。
マユは俺のことを魔王だと知っていたし、名前やそれ以外も、まるで以前から知っているかのように振る舞っていた。
「それだけじゃないわよ。あの世界が滅ぶ日、マユには北の大陸にいてもらわないといけなかったでしょ? そのことも伝えておいたわ」
「なんだとっ!? そういえば、なんであの日、マユが北大陸にいたのかってずっと不思議に思ってた。サイモンが何かしたのかと思っていたが、それが原因だったのか」
つまり、俺が辿ってきた歴史は、すでに改竄された後の歴史――否、過去を変えたつもりが実はそれが本当の流れだったという、いわばタイムトラベル物のお約束をしていたというわけか。
「まぁ、そんなことはどうでもいいんだ。それより結婚式の参列者だが――仲人って誰にしてもらったらいいんだ? 考えてみれば俺の周りって極端に既婚者が少ないんだよな」
「……一世一代の伏線を“そんなこと”扱いって、さすがにマユが不憫に思えて来たわ」
「ルシル、結婚式の料理は俺が作るからな」
「ケーキは私が作るわよっ!」
「却下だ。参列者が全員死んでしまうからな」
俺は笑って言った。その後、当然のようにルシルと喧嘩になったのだったが、ルシルとの結婚式一週間前から毎日ルシルの料理を食べることを条件に和解した。
そして、俺とルシルの結婚式当日、俺の肌の色がタキシードと同じ色をしていたそうだが、それはまた別の話。
これで、アイテムコレクターは完全に終わりとなります。たぶん。
約二年半、お付き合いくださいましてありがとうございました!
私は他にも「成長チート(以下略)」や「そのスライム(以下略)」、またアイテムコレクターのスピンオフである「お魚からの(以下略)」を続けて連載していきます。
あと、新連載の「この転生者、俺TUEEEしすぎて自重する気がないのですが⁉」も連載していますので、そちらでお会い出来たら幸いです。
尚、異世界でアイテムコレクター最終巻である5巻は12月22日に発売いたします!




