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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode Extra04 後日談

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レメリカの手紙

「時間の流れに逆らったらダメだったのか。銀貨一枚毎度」

「今更言っても手遅れでしょ。三本ね、銀貨三枚よ」

 元の世界に戻れなくなって一週間。

 俺は未だにラビスシティーにいた。

 最初は宿に泊まってのんびりしていたのだが、さすがに毎日寝ているだけというのも面白くないと思っていた時、怪我人を偶然見つけて、持っていたエースポーションを飲ませてやったらみるみる怪我が治っていって驚かれた。そして、薬があれば助かるから売って欲しいと言われたので銀貨一枚で売ってやったところ、俺も買いたい、私も買いたいという人間が現れ、結果、屋台を作ってエースポーション専門店を開くことになった。

 ちなみい、エースポーションの消費期限は二年に設定した。

 それは、エースポーションが未来に残ったら俺のいた時代に影響を与えるかもしれない――という些細な抵抗でもある。

 今日も朝から店は絶好調だった。

「手遅れも何も……あ、こら万引きするなっ! 戻ってこいっ!」

 俺は薬瓶を奪って逃げだしていった男に向かって叫ぶが戻ってくる気配はない。

「大地よ凍れ、路面凍結アイスバーンっ!」

 ルシルが魔法を唱えると、男の足場が凍った。結果、男は盛大に転倒した。

 その間に俺が追い付いて男を取り押さえる。

「あぁ、くそ。薬瓶割れちまったじゃねぇか」

「た、頼む! 薬が必要なんだ。病気の娘のために――」

「いや、これ怪我を治す薬じゃないから病気を治す薬じゃねぇし。それに十本も盗んでおいて――」

「そ、それは――」

「病気の娘が本当にいるのなら、今度連れてこい。治してやるから」

「本当か?」

「病気の娘が本当にいるのならな――あんたは冒険者ギルドに突き出……なぁ、このままこいつ解放していいか?」

「いいわけありませんよ」

 そう言ったのはルシルではなかった。

 突如として現れたのは、冒険者ギルドの受付嬢さんだ。

「いくら病気の娘さんがいたとしても犯罪は犯罪。見逃していいわけありません。ローマさんはそのくらい理解していると思ったのに残念です」

「すみません、レメリカさん」

 俺は腰を直角に曲げて謝罪した。

 天使である彼女は、この数百年前の世界でも冒険者ギルドで受付嬢をしていた。当然、俺とレメリカさんとは初対面になる。鼻眼鏡をかけているので未来が変わらないことを祈りながら、ローマという偽名を名乗ることにした。

 かつて、エリエール相手に使った偽名だ。

「それでは、彼の身柄は私がお預かりします」

「あの、病気の娘さんが本当にいるようでしたら、どうかお手柔らかにお願いします。今の話が嘘だったら遠慮はいりませんので。あと、彼のせいで割れた銀貨十枚はもう結構ですので」

「ちょっと、コ……ローマっ! 私ひとりで客の相手できないでしょっ! 早く帰って来てよ」

「待ってろ、直ぐに戻るっ! それでは、レメリカさん、失礼します」

「ええ、それでは、彼の処遇については今日の午後に報告に来ます」

 レメリカさんがそう言ったので、俺は頭を下げて屋台に戻った。 


   ※※※


「ローマさん、いったい何があったんですか?」

 レメリカさんが冷たい目で俺を見た。

 俺の目の前には長蛇の列がある。

「いえ、エースポーションの今日の分の販売分が完売したので、トン汁を作って食べていたらみんなも飲みたいって言ってきたんで、分けてやったらいつの間にか行列に――あ、レメリカさんもよかったらどうぞ」

 俺は簡単な木の匙とお椀に入れたトン汁をレメリカさんに渡した。

 ちなみに、料理スキルによって作ったので、僅か三分で三百人前用意できた。もっとも、時間を削ったので味の質はかなり落ちているが、そのお陰でみんな昇天しないで済んでいる。

「飲んでいいわよ。ローマの作った料理は美味しいから」

 と休憩しているルシルがそう言ったからというわけではないだろうが、レメリカさんはトン汁を木の匙で掬って飲んで、

「……変わった味ですが、美味しいですね。私が今まで飲んだどのスープよりも美味しいです」

「おーい、ローマ! 俺たちにも早く入れてくれ」

「わかったよっ! そういえば、昔スラム街でトン汁配った時もこんな反応だったな……」

 そう呟きながら、料理を配り続けた。

 セイキマツとか元気でやってるだろうか?

 トン汁を配り終えた。

 あらかじめ三百人までと決めていて整理券も配っていたので大きな混乱は起きなかった。

「ご馳走様でした」

「お粗末様でした」

 レメリカさんからお椀を受け取って俺はそう答えた。

「料理店を開店するつもりはない? もしもお金がないっていうのなら資金援助は惜しみませんが」

「ははは、遠慮しておきます。料理はあくまでも趣味でしているので」

「そうですか。それは残念です」

 レメリカさんの表情は変わらないが、本当に残念なのだろうと思った。

「ところで、レメリカさん。ひとつ聞きたいんですが、時の水晶というアイテムをご存知ですか?」

「時の水晶――これはまた珍しいアイテムの名前ですね。久しぶりに聞きました」

 レメリカさんが久しぶりと言うからには数百年ぶりに聞いたということだろうか?

 時の水晶は、時の揺り籠を作るための素材のひとつである。

 時の水晶から作れるアイテムは二つ。時の揺り籠。そして、時の棺。

 俺は時の揺り籠を選んで作ったが、時の揺り籠が過去に戻るアイテムだとすれば、時の棺はもしかしたら未来に行くアイテムかもしれない。

 そう思っただけだ。

 ちなみに、俺が未来で時の水晶を手に入れたのは、北大陸にマユを迎えに行った時のことだ。

 そこにあった永久氷壁の中で見つけた。

 流石にその場所の時の水晶を奪えば未来が変わるのは確実なので、他にある場所がないかと思っていたが。

「知っているのですか?」

「ええ、存じています。そうですね、ではその情報をお教えする代わりにローマさんは依頼を受けて貰えませんでしょうか?」

「依頼を?」

「ええ。この手紙を届けて欲しいのです」

 とレメリカが予め用意していたらしい封筒を取り出した。

「中身は見ないでくださいね」

「わかりました。それで、これをどこに?」

「蒼の迷宮と呼ばれる場所――」

「蒼の迷宮……もしかしてその最下層のアイランドタートルの背の上の町ですか?」

「おや、ご存知でしたか。ええ、その通りです」

 また厄介な場所だよな。

 あそこにはマユがいる。

 マユにはできるだけ会わないようにしないといけない。

「アイランドタートルの背の上にある町にいるマユという女性に渡してください」

 まさかのマユ本人への手紙だった。


 ……もしかして、俺への嫌がらせじゃないだろうな、レメリカさん。

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