閑話 コレクターの神~後編~
ついに……遂に完成した。
二十日間、平均睡眠時間一時間。あとは睡眠代替薬とアルティメットポーションを飲み、部屋の四方に大天使スライムを配置して回復体制を整えての作業。
スライムたちにはゴムの排泄物が出やすいように食事に細工を加え(もちろん体に害はなく味もいい食材)、材料の確保。
そして、俺はついに五百万体のゴム人形の生産に成功した。
「やったよ、父さん」
と俺は、自分のコレクター魂のルーツでもある父を思い浮かべ天井を見上げた。まぁ、父さんは死んでないけどな。前に会ったときも元気そうだったし、あと七十年くらいは現役コレクターを続けていそうだ。母さんが製薬会社に勤めているから病気になってもそう簡単に死なないだろうし、アルティメットポーションを渡したから、もしかしたら不老不死の妙薬くらい完成させているかもしれない。
母さんもかなりの変わり者だからな。
「ルシル、ちょっと行ってくるわ――」
「コーマ、生きてたの……ずっと部屋にこもりっぱなしだから死んでたのかと思ったわよ……うっ」
辛辣なことを言ったルシルは、俺を見て思わず鼻をつまんだ。
「コーマ、ちょっと臭いわよ……お風呂に入ってないの?」
「……臭い? ……あぁ、そういえばずっと……ルシル、悪いけど浄化魔法をかけてくれないか? 確か、お前そういう魔法を使えただろ? 服と一緒に洗ってくれたらいいから」
「別にそれくらいいいけど、体には気を付けてよね。魔王は不老であっても不死身じゃないんだから」
とルシルは俺に浄化魔法をかけて体を清潔にしてくれた。
相変わらず俺の未来の奥さんは優しいな。
「コーマ、そんな生活ばかりしてたら婚約破棄するわよ」
「以後気を付けますっ!」
思わず背筋を伸ばし、俺は敬礼をした。結婚したら間違いなく尻に敷かれるわ。
※※※
「販売できない? なんでっ!?」
ゴム人形を持って行った俺に対し、リーが突きつけたのはそんな話だった。
「あればあるだけ売れるって言ったじゃないか」
「あぁ、うん。まぁ、今でも販売すれば全部完売すると思うんやけど……」
と歯切れが悪い様子でリーが言う。
「もしかして、また販売すれば店がパニックになるって言うんじゃないだろうな? それなら大丈夫だ、今度はパニックになっても問題ないくらい数を用意した」
「用意されたら困ります」
と一陣の殺気をぶつけながら現れた相手に俺は反射的に土下座した。
「……えっと、どういうことでしょうか、レメリカ様」
俺の天敵にして実はリアル天使のギルド受付嬢、レメリカさんがフリーマーケットに降臨なさった。
恐る恐る顔を上げて尋ねる。
「ゴミの問題です」
「ゴミ? いやいや、ライダースナックのようなお菓子についているカードなら、お菓子を捨てて問題になるのはわかるが――わかりますけどこれは人形単体ですから。ゴミになるといえば外の箱くらいだけど、これだってよく燃える紙素材だから――」
「ゴムの人形なのが問題なのです……ゴムは火に弱く焼却炉に入れるとすぐに燃えるのですが、冷めるとすぐにくっついてしまい、各地のゴミ処理施設で問題になっています。それに埋めても自然に帰るまで何百年という時間を要します――各国はそのゴミ問題で頭を悩ませ、ゴム人形の販売を中止するようにと命令を下しました」
「……マジですか?」
……しまった、俺としたことが、いや、俺だからこそゴム人形を捨てる時のことなんて考えていなかった。
コレクター品をトレードではなく捨てるなんて俺にとってはありえないことだから。
メイベルが、ゴム人形を作りすぎないようにと言っていた理由はこれだったのか。
「……俺のしたことは無駄だったのか」
と俺はその場に頽れてしまう。
もう何もやる気が出ない。
「……ところで、コーマさん。ゴム人形の第二弾は完成したのですか?」
「ええ……ここにあります」
「そうですか……拝見させていただきますね」
とレメリカさんはゴム人形を専用のアイテムバッグから取り出し、それを見詰めた。
「なるほど、第一弾に比べると細部までしっかりこだわったデザインになっていますね。これを販売したら以前よりさらなるブームが巻き起こっていたかもしれません」
「それは未然に防げてよかったですね。まぁ、俺としては全部徒労ですけど」
「そうですね。あと、あなたには責任を取ってもらわないといけません」
と死体に鞭打つ発言をレメリカさんが言ってきた。
ゴム人形処分にかかる費用を支払えと言うのだろうか? それとも世界各地を巡って人形を回収してこいと?
「あなたには、このゴム人形第二弾を、自然に優しい素材で作ることを要求します」
「……え?」
「だから責任と言いましたよね。あなたにはゴム人形のファンを作った責任があります。第二弾は誰にも文句を言われないように自然に優しい素材で作ってください。スライムの改造もあなたの得意分野でしょ?」
とレメリカさんは自分の懐から、可愛らしい大天使スライムのゴム人形(第一弾のレア)を取り出して言った。
そうか、レメリカさんはパーカ人形のファンだったから、同じようにゴム人形にも夢中になったのか。
俺の未来が一気に開けた気がした。
「レメリカさん、俺頑張ります! レメリカさんのこと、正直苦手でしたけど、あなたが俺の真のヒロインだったんですねっ!?」
「調子に乗ってると殺しますよ」
「すみませんでしたっ!」
と再度土下座も決まったところで、俺は早速第二弾の再製作に取り掛かることにした。
「……コーマ……大丈夫なんやろか」
リーの心配そうな声を聴きながら俺は猛ダッシュで魔王城に戻る。
二十日後に第二弾の自然に優しいゴム人形を完成させた俺だったが、その時にはもうブームは去っていて販売しても町がパニックになることはなかった。ただ、それでもそこそこの売り上げはキープしたというのだから、根強いファンは残っていたのだろう。
あと、ルシルをさらに二十日間放置していたので、暫く話をしてくれなかったとだけ述べておく。
二カ月も空いてすみませんでした。
八月になってから、また中編の物語を書く予定です。
後、異世界でアイテムコレクターの4巻が予約開始されました。
8月9日発売ですので、よろしければご確認ください。
表紙はスライム塗れのコーマ、ルシル、カリーヌです。




