変異するイヤリング
「というわけで、今、コメットちゃんとタラとか手分けして、あちこちに魔法陣を書きに行っているんだけど、絶対足りないのよ――」
「……具体的には何カ所の魔法陣が必要なんだ?」
俺が普段から転移陣を使って移動しているから、転移石を使えばどこにでも転移できる印象は強いが、実際に転移陣が設置されている場所は非常に少ない。
「ルシルの転移魔法でなんとかならないのか?」
「私はここから動けないの――魔法を制御しないといけないから。そして、この付近では空間が不安定で転移魔法が使えないのよ――」
「でも、俺はここに転移してこれただろ?」
「それは……どうしてなのかしら?」
ルシルにもわからないようだ。
きっと愛の奇跡だと思っておこう。
「それで、いったい何カ所に陣を描けばいいんだ?」
と尋ねながらも、俺は愛の奇跡の立役者である通信イヤリングを見た。
「そうね。できるだけ広範囲に、数十カ所に分けて、百カ所以上必要よ……ね、不可能すぎて笑えてくるわ。あと三十分でそれだけの陣を描かないといけないの」
「そんなこと言わず、何か方法を考えましょうよっ!」
と焦った表情で言う。
「あ、クリス、いたのか?」
「いましたよ!」
「いたのなら、いい加減に俺の神の力を返しやがれっ!」
「扱いが雑過ぎます。えっと、どうやって返せばいんですか? ルシルちゃんは魔法の制御で何もできないようですし」
そうか、そうだよな。
確かに、ルシルの力がないと――
「キスで戻るわよ」
とルシルがなんでもないように言った。
「……は?」
「神の力はコーマの中で一年以上宿っていたから、キスをして粘液を通じて神の力をコーマに戻せるわよ」
「そ、そんな……コーマさんとキスだなんて」
「俺も、最終回間近だからってそんな……そもそも、ルシルとしかまだ一回しかキスしていないのに」
あと、コメットちゃんとも一回しているが、それは別カウントになっている。
「え? コーマさんルシルちゃんとキスしたんですか?」
「あぁ、不意打ちで一回――そうだ、考えてみれば堂々とキスする宣言でキスしたのはクリスがはじめてになるのか!?」
「嫌そうな顔をしないでくださいよ。私だって最初のキスがコーマさんだなんて……あ……リーリエちゃんに何回かキスされたんでした」
「お前等、やっぱりそういう関係なのか」
と俺とクリスが言い合っていると、ルシルの姿がみるみる大人の姿へと変わっていく。
最初に会った、俺が惚れたルシルの姿だ。
そして、彼女は俺の前に立ち、
「コーマ、今からキスするわよ」
と宣言すると、不意打ちでもなんでもなく、堂々とした立ち振る舞いで俺に唇を重ねてきた。
目を見開き、そして俺は流れに身を任せた。長い沈黙が続く。
そして、幸せの時間は続いた。
その時間から解放された。
「コーマ、これでクリスとキスしても大丈夫でしょ?」
「いや、もうちょっと余韻を味わって」
「コーマっ! 何か考えがあるのなら、時間がないのよっ!」
「わ、わかったよ」
ルシルに気圧され、俺はクリスを向かい合った。
「コーマさん……その、私、はじめてなんで」
「……お前、一応俺より年上って設定なんだから、もっと堂々としていろよ」
というと、俺はクリスの後頭部に右手を回し、そのまま彼女を抱き寄せ、
「お前のキスは省略していくからな」
そう言うと唇を重ねた。
※※※
診察スキルでクリスのHPも確認できた。力が戻ったようだ。
「私のはじめてのキスなのに、描写シーン省略だなんてひどいです」
「はいはい、メタ発言はこのあたりにしろ――」
それより、実は何一つ問題は解決していない。
どうやって、陣を多くの場所に書くのか。
これが日本だったらFAXを使って世界中に同じ紙を送ればいいだけなんだが。
でも、なんとかしないといけないよな。
奇跡は最後まで成し遂げないと奇跡と呼べないんだから。
俺とルシルの愛の奇跡を成すために――と俺は左手に握ったままの通信イヤリングを見て――
「なぁ、ルシル――魔道具が道具無しに変異するってことはあると思うか?」
「もちろんあるわよ。物凄い魔力を込めた場合ね。といっても、並大抵の魔力じゃ変異しないけど……それがどうかしたの?」
「じゃあ、ルシル。お前、ご都合主義って信じるか?」
「……コーマ、何を言いたいの?」
怪訝な顔をするルシルに、俺は笑みを込めて言い放った。
「どうやら、愛の奇跡が起きたらしい」
俺が握りしめる通信イヤリング。
世界を渡るほどの、闇の精霊と日本の科学の力を浴び、この地に俺を導いた通信イヤリング――いや、闇の精霊の力は俺の欲望の力――きっと俺の欲望に呼応するように、これはその姿を変えたこの新たな名前のイヤリングを掲げた。
「ご都合主義上等! 最終回間近なんでメタも上等だ! ハッピーエンドを掴み取ってやるぜっ!」
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念話イヤリング【魔道具】 レア:★×7
遠く離れた友人と話をすることができるイヤリング。
念を受け取るには、念を放つ者のことを親しく思う者に限られる。
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これがあれば、世界中の知り合いに協力を求められるってわけだ。
~あとがき劇場~
コーマ「あと五話だな」
ルシル「今回はやけにメタ発言が多いわね。そう言えば、コーマ。ご都合主義ってどう思う?」
コーマ「ご都合主義と言えば、そもそもこれまでが全部お前にとってのご都合主義だったんだろ? いくつもの失敗のルートの中から成功するルートを選んで、お前の都合のいいルートに辿り着いたわけだから」
ルシル「コーマ、思い通りに行くことが必ずしもご都合通りとは限らないのよ」
コーマ「そういうものか?」
ルシル「そうよ。神龍の力を使ってもサイヤ人は地球にやってくるでしょ?」
コーマ「そういう発言をするなよ。メタ発言より怖いぞ。あぁ、でも、俺はド○ゴンボールを集めたいとはいつも思っていたな」
ルシル「そうなの? コーマの願い事って何? 最後のパーカ人形が欲しいとか?」
コーマ「いや、普通にド○ゴンボールを集めたかっただけだ」
ルシル「納得ね……でも七つ全部集めて何も願い事叶えなければ、ずっと点滅していて鬱陶しそうね」
コーマ「それがいいんじゃないか。全部揃ったって達成感があるだろ」
ルシル「コーマにかかれば邪悪竜も生まれようがないわね。誰よりも欲望に塗れていそうだけど」
コーマ「まぁな。さて、ご都合主義に関しての考察だったな。でも、それを言ったら、ルシルの存在が一番のご都合主義だろ」
ルシル「それ、どういうこと? 私の魔法が無敵すぎるから?」
コーマ「物語のヒロインが超絶美少女だっていう最大のご都合主義だよ」




