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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode03 海上都市

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絶望を放つ鯨の角

~前回のあらすじ~

一角鯨が現れた

 再度、雷が轟き、一角鯨を貫いた。二度目の雷の杖による攻撃。

 最初の時と違い、タイミングが大きくずれてしまったが、全ての雷は一角鯨の角に吸い寄せられるように命中していった。

 だが、一角鯨はその攻撃をものともせずにその巨体で海面を押しつぶした。

 海が一角鯨から逃げるように、大きな波となってこちらに押し寄せる。


「身を低くして何かに掴まれっ!」


 俺が叫び、全員が伏せた。

 俺達の乗っていた浮島は大きく傾き、流された。

 索敵眼鏡によると、海面にいたはずのシーダイルの数は3体ほどにまで減っていた。

 残りは全て一角鯨に飲み込まれたのだろう。

 


「メアリ、スクリューで元の位置へ! クリス、エレキボムを使う!」


 メアリが無言で頷き、クリスが「わかりました」と返事をした。

 

【HP34152571/40230000 MP0/0】


 留め金に丈夫な糸の付いたエレキボム。留め金をぎりぎりまではずし、糸の先端の輪っかを強く握って擲弾筒の中に放り込む。

 そして――擲弾筒から放たれたエレキボムは、糸により留め金を外されてと飛んでいった。

 俺の撃った弾は一角鯨の僅か前方に、クリスの撃った弾は一角鯨をとらえ――留め金が外れてきっかり10秒後。

 雷が爆発した。

 エレキボムは十秒間もの間雷を放電し続けた。

 一角鯨の唸り声が音の衝撃となって伝わってきた。


【HP31253290/40230000 MP0/0】


 今ので300万近いダメージか。これを5回くらわせたら1500万。雷の杖5回で2000万。

 どうみても1000万以上足りない。

 事前の予想通り、一角鯨は雷が弱点なのは間違いないようだ。


 一角鯨が大きく方向を変えた。

 何をするつもりかは知らないが、時間が許す限り攻撃の手を休めるわけにはいかない。

 俺達は三度目の雷の杖による攻撃のために杖を振るった。

 四方から放たれた雷が一角鯨の真上に集まり、一度に降りかかる。

 タイミングもばっちり――のはずだった。

 なのに――一角鯨は再度その巨体を持ち上げ、己の角でその雷を受け止めた。


【HP30032345/40230000 MP0/0】


 ダメージがあまり減っていない。

 一体、どうして――?


「コーマさん! 角が光ってます!!」


 クリスの叫び声に、俺も気付いた。

 一角鯨の口元から伸びた巨大な角が――蒼く輝いていた。

 まさか――


「やばいっ! メアリ、2番浮島の奴らを避難させ――」


 俺が言い切る前に、光が左方向の浮島を飲み込んだ。

 一瞬だった。

 浮島の表面が僅かに残っているが、その上には影一つ見えない。

 あそこにいたのは、メアリの部下の海賊達と、病み上がりの男達、12人だ。

 彼らの命が一瞬にして摘み取られた。


「喰らった雷を帯電して撃ちやがったのか……」


 あんなのくらったらひとたまりもない。

 それに、人数だけでいえば、こちらの1/4以上が消えたことになる。

 後ろを見ると、メアリが無言で涙を流していた。

 だが、その手には、まだ雷の杖が強く握られている。


「くそっ……クリス! 擲弾筒で再度エレキボムを撃つ! 全部撃ちきれ!」

「わかりました!」


 雷の杖の攻撃は角で受け止められてしまえば再度あの攻撃をくらってしまう。

 その攻撃の矛先がこちらに向けば――雷の護符があっても防げるものなのか?

 それに、雷の護符を装備していないマユはどうなる?


 俺は連続でエレキボムを撃った。

 計6個のエレキボムが誘爆を起こし、強大な爆発を起こす。

 だが、それでも一角鯨のHPはまだ半分以上残っていた。


「これでラストだ! クリス、いくぞ」

「コーマさん、私のはさっきので最後です」

「10個用意したはずだろ……くそっ」


 焦りが手元を狂わせ、エレキボムは一角鯨よりも少し先の部分に着水、爆破。

 それでもダメージは喰らわせることができたが――



【HP20134268/40230000 MP0/0】


 残り約半分。

 だが――最大の攻撃手段であるエレキボムが尽きた。

 残りは雷の杖のみ。それを使えば――


『『『躊躇するな! 雷の杖を使うよ!』』』


 メアリが叫んだ。

 バカ、そんなことをしたら再度あの電撃が――


 対角線上にいる浮島から雷の光が放たれたのを合図に、右側の浮島からも雷が放たれ、メアリも雷の杖を放った。

 雷を感じ取った一角鯨が再度その巨体を持ち上げ、角で雷を受け止める。


「くそっ、撃つなぁっ! ファイヤーボール!」


 俺の破れかぶれにはなった火の玉が一角鯨に届く直前に――一角鯨はその身体を俺達とは反対方向に倒し――巨大な雷光を放った。

 浮島にいたはずの兵士達を全員飲み込んだ。逃げる暇なんて与えない無慈悲な攻撃。


 そこには兵だけでなくフリードもいたはずだ。

 そして、雷の杖の使用回数は残り1回。

 ダメだ、勝ち目がない。

 俺の放ったファイヤーボールも、一角鯨に命中はしたが、与えられたダメージは200程度。一角鯨からしたら、蚊に刺された程度のダメージだったのだろう。


 クリスは俺に背を向けている。彼女の首元に攻撃をくわえて気絶させ、一緒に転移陣で逃げる。

 マユとメアリも一緒に来たければついて来ればいい。

 三十六計逃げるに如かずだ。

 クリスに攻撃をしかけようとした、その時だった。


「コーマさん! あれ! フリードさんです!」

「え?」


 そこに見えたのは、確かに身体の大きな男――フリードだ。

 よかった、咄嗟に逃げ出せたのか。

 そう思ったが――フリードは向きを変えると、一角鯨の方へと向かった。

 彼の右手には袋が握られていた。

 あの袋――


「くそっ、あいつ、もう一つもってやがったのか!」


 魔物寄せの粉。

 フリードはその粉を己の身体へと振りかけた。

 一角鯨はその匂いに気付き、巨体をフリードのほうへと進めた。


 そして、フリードの姿は一角鯨によって見えなくなる。


「メアリ、黙って聞け! フリードさんの左手に握られていたのはエレキボムだ」


 10個作ったはずなのに1個なくなったと思った。だが、それはフリードが勝手に持ち出したものなのだとわかった。

 己の身体に魔物寄せの粉をかけ、エレキボムを持っていた。

 ならばすることは一つしかない。


 メアリもそれに気付き、顔を青くしてその場に崩れ落ちた。


 直後、彼は領主として最期の役目を果たしたのだろう。

 フリードがその命を犠牲にして巻き起こした爆発は、一角鯨の強大なうめき声を生み出した。

 身体の中からの爆発、それは角で受け止めることもできない強大な一撃。

 だが、それでも――


【HP9824268/40230000 MP0/0】


 それでも絶望は止まらない。

~一角鯨の角~

一角鯨の角、という名前のアイテムはあまり存在しないかもしれません。

でも、「イッカク」という名前の鯨の角は、よく登場します。

しかも、現実の世界の中で。


知っている人も多いと思いますが、イッカクは現在も実在する鯨の名前で、本作品の一角鯨のモデルの鯨です。小型の鯨で、せいぜい4~5メートルくらいの大きさでしょうか?


ちなみに、イッカクという名前で、立派な角があるように見えますが、角ではなく、一本だけ伸びた長い牙です(ごくごくまれに2本の牙が伸びたイッカクもいます)。象牙とかと同じ感じのものです。この角なんですが、螺旋状の形をしています。


ファンタジー好きの人で、螺旋形の角、と聞いたらぴんと来る人も多いでしょう。そう、ユニコーンの角も螺旋形に伸びています。

実は中世ヨーロッパに出回ったユニコーンの角の大半がこのイッカクの角だったという話も有名なところですね。

イッカクは北極海に生息する鯨なので、ヨーロッパの人はほとんどそのイカックの存在を知らなかったそうです。なので、その角をユニコーンの角と言われても素直に信じたのでしょう。


ちなみに、イッカクの角は中国に伝わったときには、竜の角や蛇の角とも言われ、とてもありがたがられたそうです。

そういえば、妖怪ウォ○チに同名の妖怪がいたんですが、その姿が四本足の馬みたいな、それでいて竜のような姿をしていました。もしかしたら、イッカクの角がユニコーンや竜のものとして伝わった伝承を揶揄しているのかもしれませんね。


ちなみに、このイッカクの角、たまに日本でも出回ります。

骨董品ややネットオークションなどで。

ただし、ワシントン条約により、イヌイットが食料用として取ることしか許されないため、とても希少性があり、折れたものでも100万前後、完全な形のものだと、300万円を超える値段になるそうです。

なん○も鑑定団では350万円という値段がつきました。

部屋のインテリとして置いてみたい気もしますが、とてもではないが手が出せる値段ではありませんね。

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