三人目の天使
風呂から上がったクリスはグンジイのところに向かった。クリスの父のエグリザとグンジイはかつて一緒に冒険した仲なので、聞きたいこともたくさんあったのだろう。
今日を逃せば二度と話を聞くことができないというのだから尚更この機を逃すまいとしたのだろう。
全く、クリスも俺とはいつでも話すことができるんだから優先順位を少しは考えたらいいのに。
さて、次はどこに行こうか。マネットの工房でも冷やかしにいこうか。
そう思って廊下を歩いていたら、見慣れた後ろ姿の少女が歩いている。銀色の髪のツインテールに黒いマント――ルシルだ。
「おぉい、ルシル! もう話は終わったのか?」
と声をかけるとルシルは立ち止まり振り返った。
その顔を見ると何かあったのは明白だった。
「ルシル、どうしたんだ?」
「ちょっと世の不条理について嘆いたところよ……」
「あぁ、それはわかる。お前の料理を見るたびにいつもそう思ってるから」
と俺が腕を組んでうんうんと頷くと、ルシルは口を尖らせた。
でも、これは俺の本当の気持ちだ。ルシル料理以上の不条理などこの世にあるはずがない。
そう思っていた。
「コーマ、天使は私以外に三人いたって覚えている?」
「あぁ、ひとりは人間になってこの世界を監視しているレメリカさん、ひとりはこの世界と地球との行き来を監視しているリエル。そしてもうひとり、この世界を管理しているんだったよな」
「コーマ、その三人目の天使が具体的に何をしているか知ってる?」
「そういえば聞いてないな」
「魂の洗浄をしているの。天使の役目のひとつに、穢れた魂――要するに瘴気を浄化する役目があるの。三人目の天使の役目は主にそれね。コーマ、そういう仕事をしている存在にひとつ心当たりはない?」
「魂の浄化をしている存在?」
そんな奴いたか?
と俺は天井を見上げて考えた。
そして、ひとつ閃いた。
「まさか、お前の料理かっ!」
ルシルの料理は食べると悪人が善人になるという効果がある。魂の浄化と言えなくもない。
ルシルの料理が実は天使だった。そんなオチは確かに世の不条理を感じさせるには十分だ。
「それは違うわよ。元天使が言うには、あの料理は私の天使としての力の片鱗が具現化したものらしいから」
「あぁ、そうか。なら安心――できねぇよっ! え? お前の料理って天使の力だったのか? どちらかといえば悪魔の力だろっ! 原因がわかったら普通に料理を作る方法とかわかるのか?」
「何が悪魔の力よ。原因がわかっても、私は無意識に力を使っているみたいだし、制御する方法はわからないわ。無瘴気の部屋でも作ったらいけるかもしれないけど、瘴気が完全に無い場所なんてこの世界のどこにもないし。料理用の月面基地でも作ったらいいんじゃないかしら?」
「この世界にNASAができるまで何年かかるだろうな……」
ルシル料理との付き合いは当分続くのは確定か。
「あれ? じゃあ三人目の天使はなんなんだ?」
「コーマ、見たでしょ? この迷宮の地下深くで瘴気を穴の中に運んでいくスライムたちを。あれが天使なのよ」
「……え?」
「全部ベリアルの作戦よ。ベリアルは複数の迷宮を食べていき、世界中の瘴気を集めているの。そして、その瘴気をこの迷宮に送ったの」
「待て、ベリアルはなんでそんなことをしているのかよくわからない。最初から説明してくれないか?」
「最初からって言うと、ゴブリン王くらいからかしら」
ルシルは語った。
この迷宮は元々ゴブリン王とベリアル、そしてルシルも協力して作った。ではなぜここなのか?
ラビスシティーの下位空間に最後の天使イザがいたから。
そこでベリアルはゴブリン王を使って瘴気を集め、天使イザの瘴気を浄化する時に開く小さな穴を無理やりこじ開けて異空間に繫げた。それがこの迷宮だという。
その後、ゴブリン王はサタンの力ごとこの迷宮に封印された。そうすることで世界中の瘴気を集めた。ゴブリン王はその後ゴブカリとして転生を果たす。
どうしてゴブカリにサタンの力が宿ったのか? 魔物進化薬だけではない、数ある迷宮の中でイザの力が最も強く、そしてサタンを封印していたのもこの迷宮だったから。
だが、ベリアルが力をつけ、この迷宮に瘴気を送るようになって浄化が追い付かなくなった。
天使イザは考え、この迷宮に分身を作ることにした。
「天使イザの分身――それがスライムなのよ。うちのスライムたちが強すぎるのも天使としての力を持っているからだし、スライム以外の魔物が湧かないのもスライムたちが瘴気を浄化していたから、というのが原因ね」
「…………スライムが天使? たしかにうちには大天使スライムがいるが……ウソだろ?」
「私も嘘だと思いたかったわよ。それで、さらにひとつ大きな問題が起きたのよ」
「大きな問題?」
「コーマの力によって作られた魔物進化薬よ。コーマの力、つまりは神の力よね。そして、天使っていうのは神の使いなの。例えば、ゴブリンの胎児に使う事で三つに分かれたとはいえ元天使であるサタンの力を受け入れる器を作り、そしてスライムに使う事で天使イザを受け入れる器を作った。ここまで言えばわかるかしら?」
「……最後の天使イザはカリーヌ……ってことなのか?」
俺の問いにルシルは無言で頷いた。
「本人に全く自覚はないんだけどね」
~あとがき劇場~
ルシル「じゃあ今日はEpisode02を省みるわね」
コーマ「昨日一章を省みたという記憶はないんだが。そういえば、一章と二章が書籍版一巻なんだよな」
ルシル「そうね。コーマが竜化をしたり、ベリアルが出てきたりと物語の根幹にかかわる事件が起きたのもEpisode02よ」
コーマ「あれ? ネタバレ禁止じゃなかったのか?」
ルシル「Episode02は正直、ネタがないのよね。強いて言えば作者が日間ランキングに全く入らずに泣いてた頃だとしか」
コーマ「あぁ、日間ランキング10位以内に入ったことがない作品だって自分で中傷してたもんな」
ルシル「私もあんまり料理してないのよ……今だから言うけど、コーマの力が暴走しかけたのって、私の料理をコーマが食べなかったのが原因だって知ってた?」
コーマ「え? そうなのか?」
ルシル「コーマの中の神の力って、要するに新たな世界の創造を求める力だから、この世界の破壊を望むのよ。でも私の天使としての力が求めるのは、世界の平穏で、破壊衝動を抑え込む力があるのよ。コーマは2章で全く私の料理を食べなかったから、あんなに暴走しちゃったの」
コーマ「そんな本編でも語られていないようなネタバレをこっちで言うなよっ! え? マジで? でも暴走しているゴーリキとか、一角鯨と戦っている時は結構制御できてただろ?」
ルシル「あれはエグリザがクリスを守るためにコーマの中から封印を手助けしていたって本編でも言ってたじゃない。エントと戦うくらいになったら、コーマは月一で私の料理を食べるようになったから暴走することもなくなったのよ」
コーマ「…………まさかお前の料理に感謝する日が来るとは思わなかったよ」




