風呂トーク
さて、これってどういう図なんだろ。
傍から見たら檜風呂に女の子がふたり。いたって日常的な光景のはずだ。ひとりの心の中が男であり、それをもう一人の女の子が知っているという内面的な情報がなければ。
クリスの裸なんて見慣れているとか言っているけれど、かといって恥ずかしくないわけではない。
「……コーマさん」
「あ、ここはコーマって呼ぶんだな。コーリーじゃなくて」
「私はコーマさんと話したいので……コーマさん、最初に私と会った時のこと覚えています?」
とクリスは思い出話の定番中の定番を俺に尋ねてきた。
当然、クリスとの初めて会った時のことはしっかりと覚えている。
「お前、武器屋のおやじさんに土下座してたな」
「忘れてください――今ではあのおじさんとは一緒にお酒を飲む仲なんですよ?」
「マジでか。お前、しっかり友好関係築いているんだな。俺ってラビスシティーで知り合いはほとんどいないんだよな。スラム街でセイキマツとたまに話すくらいだ」
「まだ交流があったんですか!?」
「ん? クリス、お前セイキマツを知ってるのか?」
「一年くらい前にお礼を言われました。個性的な髪型の人ですよね」
クリスが驚くのも無理はないか。
まぁ、俺もたまにしか会わないけど。ひとりでラビスシティーを歩いていると、「へいブラザー」と言って近付いてくるもんだからな。強制的に交流させられているというのが現状だ。
「セイキマツって、ああ見えて弟三人、妹ふたりいて、ひとりで弟妹たちの面倒を見てるんだぜ」
「え? そうだったんですか?」
「あぁ、一番下の弟と妹が双子で五歳になったらしくて、前に三分成人祝いって奴をとられたよ」
「三分成人祝い? なんですか? それ――」
「ほら、十五歳から成人扱いになるだろ? その三分の一で三分成人祝いなんだってさ。絶対セイキマツが考えたウソだと思ったけど、まぁ誕生日祝いとして銀のスプーンをプレゼントしたよ」
「銀のスプーンって出産祝いじゃないんですか?」
「あいつが欲しいって言ったんだよ。絶対転売されるの覚悟でプレゼントしたんだけど、本当に転売せずに使っているそうなんだよ。スラム街だから盗まれないか心配しているんだが」
「でも、最近スラム街の治安がだいぶよくなったそうですよ。冒険者ギルドの貧困救済政策がうまくいっているみたいですね」
「あぁ、ユーリもたまにはいいことするよな」
と俺はそう言って檜風呂の底に手をつこうとして転びかけた。
手が短くなったことに気付かず、バランスを崩して後ろに倒れてしまった。
「大丈夫ですか、コーマさん」
「平気だ。でも、この体のままだとバランスが悪いな」
「そうですか……よかった……って、コーマさんっ! 私はコーマさんの話をしてるんです。セイキマツさんの話をしに来たんだじゃないんですっ! セイキマツさんの弟がモヒカンかどうかだけ教えて話を元に戻してください」
「モヒカンじゃねぇよ。で、元に戻すって、お前が土下座をしていたって話か?」
「違いますっ! 思い出話ですよっ!」
とクリスが湯船に拳を叩きつけて否定した。水飛沫が飛んで目に入る。
俺は軽く目を擦って、
「思い出話ならしてるだろ」
「だから、土下座以外の話で」
「俺とお前の思い出は、今みたいにたわいない会話をなんの目的もなくしているってことだよ」
「あ……」
とクリスは気付いたように俯き、
「私の思い出はコーマさんにこうしてからかわれることですね」
「わかってるじゃないか。あとは借金について語ってもいいぞ」
「いえ、遠慮しておきます」
クリスはきっぱり否定して、話を遮った。
まぁ、これも俺とクリスのいつもの会話でいつもの思い出だ。
「なぁ、クリス。思い出を作るためにお前の胸揉んでいいか?」
「コーマさんの首を絞めていいのならいいですよ」
「なんだよ、その等価交換……はぁ、自前の胸でも揉むか」
「それは私がお風呂からあがってからにしてください」
とクリスが俺を窘めるように言ってきた。
冗談の通じない奴だ。
その後も俺とクリスはとりとめもない雑談をして笑い合った。
もうそこが風呂の中だということはすっかり忘れてしまい、すっかりのぼせそうになったが、風呂上りの性別反転薬と一緒に飲んだコーヒー牛乳は最高だった。
この時、俺は気付かなかった。どうしてクリスがわざわざお風呂の中にまで入ってきてこんなとりとめもない雑談をしていたのかを。
ルシル「ということで、残り9回から19回、あとがき劇場の時間よ」
コーマ「カウントダウンしてるのに残りの回数が曖昧って本当にこの小説らしいな」
ルシル「まぁ、このあとがき劇場も完全に自己満足よね。あとがきといえば、アクセス数がキリ番達成するたびにキャラ紹介をしようという企画があったけど、あれもほとんど企画倒れだったわよね。トップページにアクセス突破記録とか残ってるけど、あれも中途半端だし」
コーマ「あぁ、あれなぁ。あらすじを年表と勘違いしてるんじゃないか? とか不評らしいけど、消さなくていいのか?」
ルシル「いいんじゃない? 今更だし」
コーマ「って、今日は第一章の思い出を語るんじゃんかったのかよ」
ルシル「第一章じゃなくてEpisode01ね。なんで横文字なの?」
コーマ「……その方がカッコいいと思ったのかな」
ルシル「でも、作者はスペルをしっかり把握していなくて、「えぴそーど」を変換してるんでしょ? 面倒じゃない」
コーマ「お前はここでも作者の恥ずかしい情報を垂れ流すのか……第一章の思い出をだな」
ルシル「わかってるわよ! ということで、コーマのために作ってみました」
コーマ「うわぁ、懐かしいスライムハンバーグ。カカオから作られているとは夢にも思わない――」
と俺はそう言って踵を返して逃げ出したのだった。




