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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode Final 蒐集の末

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美味しいパン

 カリアナの民を連れて、ルシル迷宮へと移動した。

 本来ならば一般人の立ち入りは遠慮願いたい。でも死人に口なし、もとい異世界に行った人間に密告は不可能なので、ここに連れてきても問題ないだろうとのことで。


 そこで俺たちを待っていたのは、ルシル、レメリカさん、天使リエル、そしてカリーヌだった。

 転移先の会議室が、本当に会議室らしい姿で使われている。

 ただ、カリーヌがひとり、頭をくるくるしている状況だ。目を回している。混乱している。難しい話に頭がついていけないでいる。

「レメリカさん、只今戻りました」

「ちょっと、コーマ! 最初に挨拶するなら私でしょ! なんでこの元天使に挨拶してるのよ」

 レメリカさんに傅く俺に、ルシルが大口を開けて文句を言ってきた。

 仕方ないじゃないか。本能には抗えないんだから。

「レメリカさんとリエルとルシルはわかるんだが、なんでカリーヌがここにいるんだ?」

「それに関しては後で話すことにしてもらっていいかしら」

 とルシルは俺の後ろにいるカリアナの人を見る。

「あなたたち、カリアナの人たちね。コーマから話は聞いていると思うけど私はルシルよ。明日の正午、あなたたちを日本に送るから」

 と言うと同時に、ルシルの姿が大人バージョンになる。

「ルシル、お前、その姿――」

「まぁ、僅かとはいえ、ベリアルとサタンの力を手に入れたから、このくらいは余裕よ」

 とルシルがいつも以上に自信満々に言って、不敵に笑った。

「ずっとその姿でいてくれないか?」

「……コーマ、私がなんのためにこの姿になったと思ってるの?」

 と、そうか。

 カリアナの民を不安にさせないために自分の力を見せつけたわけか。

 となれば、いつものノリでルシルと話すのは逆効果か。

「今、スライムたちはいないから、アスレチックに案内してあげて。一応コメットちゃんが飲み物とか食べ物とか用意しているはずだから」

「ん、わかった」

 ルシルに従い、俺はグンジイたちカリアナの人を一階のスライム用アスレチックの部屋へと案内した。

 十分な広さのあるアスレチック部屋には、ルシルが言ったと通り、既に茶菓子の準備ができていた。

「カリアナの皆さま、遠路はるばるご苦労さまです。歓待の準備ができていますから、どうかお休みください」

 と言ってコメットちゃんは湯冷ましから急須にお湯を注ぎ、茶碗に煎茶を注いでいく。

 用意されているお菓子は最中や饅頭、煎餅といった和菓子だ。

 作り置きはなかったはずだが、コメットちゃんが自作したのだろう。

「これはありがたい――」

 とグンジイの表情が僅かに綻んだ。

 よかった、喜んでくれたようだ。

 そう思ったのだが、

「食べたいものがあるのですか?」

 とコメットちゃんがグンジイ、そしてカリアナの皆に尋ねた。

 え? これで満足じゃないの?

 と思ったが、どうもコメットちゃんは何かカリアナの民が遠慮していると思ったらしい。

 人の機微に関しては彼女のほうが聡いだろうから、俺は黙って見守ることにした。

 すると、グンジイは皆を代表して、

「……ポテブレンは用意できないでしょうか?」

「ポテブレンですね。少々時間がかかりますが、用意しますよ」

「ありがとうございます」

 とグンジイは深々と頭を下げた。

 コメットちゃんは笑顔のまま厨房に向かう。

 俺は慌てて彼女を追いかけた。

「コメットちゃん、ポテブレンって何?」

 聞いたことがないものだ。

「ポテブレンは簡単に言うと甘いパンですね。リーリウム王国の名物です。作り方は知っていますし、素材もありますから、これから作りますね」

「リーリウム王国のパン?」

 と疑問に思いながら検索してみる。

 あ、あった。

 本当に小麦粉とリーリウムの甘イモから作るらしい。

「アイテムクリエイト」

 と、アイテムバッグから取り出した素材からパンを作ってみる。小さなあんぱんみたいな形のパンで、食べてみると仄かな甘みが口の中に広がった。

 絶品とは言えない、素朴な味だ。芋はどうやらパン生地の中に練り込んでいるらしい。

「なんで最後にこれを食べたいんだろ」

「私は少しカリアナの皆さんの気持ち、わかる気がします……きっと彼等の先祖の故郷はコーマ様が育った日本で、その日本の味を残してきたとしても、あの方たちの故郷の味はこの世界の味なんです――そしてその代表がポテブレンだったんでしょうね」

「なるほど……パンがこの世界の思い出か」

 俺にとってパンの思い出といえば、ルシルに最初に食べさせられたパンだからなぁ。

 そういえば、アイテムクリエイトでもパンはあまり作っていないし、小麦粉素材のものも作ったものはクッキー等に限られている。

 心のどこかでパンを敬遠していたのか、それとも本物のパンの味を堪能してルシルのパンの思い出を壊したくなかったのかはわからない。

 俺も日本に戻るとなったら、やはりルシルの料理を最後に食べたくなるのだろうか?

「……そんなわけないな」

「え?」

「いや、こっちの話だ。カリアナのみんなに美味しいパンを作ってあげてくれ」

「はい、かしこまりました」

 コメットちゃんは恭しく頭を下げ、厨房の鍵を開けて中に入った。

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