移住を希望する者、しない者
カリアナの村に行って、全員集まってもらった。
諜報活動に出ている忍が幾人か村の外に出ていて、その忍を呼びに行っている者も留守にしているので、厳密には全員と呼べない。
ちなみに、サクヤとシグレも来てもらっている。
サクヤに久しぶりに会ったら、クナイで殺されかけた。スウィートポテト学園の理事長を押し付けたのがまずかったのだろうか?
でも、事情を説明するととりあえず納得して、カリアナに来てくれた。
来る途中に聞いたのだが、やはりサクヤもシグレも日本には行かないそうだ。生まれてから最近までは自分達は日本に戻るために忍として生きていると思っていたそうだが、学校で子供たちに様々なことを教えて生きていきたいとのこと。カリアナの民がこの世界にいたという歴史とカリアナの文化をこの世界に残すんだそうだ。
「コウマ殿、本当にワシたちは日本に戻れるのですか?」
グンジイはそう呟くと、その目から涙がこぼれた。爺の涙なんてダレトクだよ、とは思う。だが、数百年にも渡るカリアナの民の悲願が自分の代で叶うというのは思いも違うのだろう。
「あぁ、それで急で悪いんだが、日本に行く人間を選定してほしい。一応、日本に行っても困らないだけの宝石類は用意してあるよ」
と俺は宝石の詰まった麻袋をグンジイに渡した。巨大なダイヤの原石は向こうでは数十億の価値はある……と思う。
「何から何までかたじけない」
「ただし、日本行きは強制しないでくれ。サクヤとシグレはこの世界に残ることにしたそうだ――あと、日本に行けば二度とこっちの世界には戻って来られないし、今回日本に行かなければ二度と日本に行くことができないと思ってくれ」
「わかり申した。約束いたします」
グンジイは再度頭を下げた。
さて、カリアナの民が全員揃うまであと何時間かかかるし、日本食でも食べて時間を潰すかな。
できることなら、カリアナの民には三割はここに残って欲しい。
米を含め日本文化が無くなるのは寂しい。
「隣に座ってもいいか?」
サクヤが俺にそう尋ねた。
「あぁ、いいぞ――悪いな。シルフィアの護衛もあるのにいろんな仕事を押し付けて」
「それはさっき十分怒ったからもう謝らなくていい」
「え? 説教するために隣に座ったんじゃないのか?」
「お前は私をどんな目でみているのか……言っておくが私は貴様に対しては感謝の方がはるかに大きい。西の大陸にしても、このカリアナにしても」
そして、サクヤは俺の目を見て、頭を下げた。
「ありがとう、コウマ。感謝する」
「お、おう……なんかそんな風に改められたら照れるな。愛の告白とかするつもりじゃないだろうな?」
「したらどうする?」
「そりゃ嬉しいよ。でも、俺には心に決めた女の子がいるからな」
「安心しろ。そんなつもりはないよ……コウマは日本に戻るつもりはないの?」
「今言ったばかりだろ。俺には心に決めた人がいるからな。その人を置いて日本には戻れないよ」
「よほど愛しているのだな――教えてもらってもいいか?」
「俺の好きな相手をか?」
「いや、日本がどんな世界なのか――私の仲間たちが戻る場所がどんなところなのかを」
「喜んで」
俺は語った。俺が生まれてから十六年過ごした世界について。さまざまな料理について、学校について、かつてあったという戦争について。
それは、実はカリアナの中でもグンジイを含めた僅かな者が知っていた情報であり、そしてサクヤやシグレといった末端の忍は決して知ってはいけない情報でもあった。
でも、それはさっきまでの話。
日本に戻れるとなった今となっては、そして日本に戻らなければ二度と日本に戻れないとわかった今、その情報はもうすぐ価値を無くすことになる。
でも、俺が語ったのは結局はコレクターとしての趣味の話だった。
俺は笑っていた。
過去を懐かしんで笑っていた。
「それは、素敵な国だな」
「日本に行きたいと思ったか?」
「そうだな――戻れるのなら行ってみたいが――戻れないのなら行こうとは思わないよ」
「俺もだよ」
俺も、この世界に戻れるとしたら、一度日本に戻ってみたい。
でも、それは叶わない。
だから、日本には戻らない。
その後、シグレも合流し、三人で食事をした。
そしてグンジイたちの話し合いは終わった。
結果、カリアナの民のうち72人が日本への移住を希望することになった。半数にも満たないが、かなりの数になる。
そして、俺たちは全員、ルシル迷宮に移動した。




