正気を取り戻せ
「あぁ、でもベリアルとサタンの力を手に入れないといけないんだよな……」
「それなら大丈夫よ。さっきリアヌスの力をベリアルに流し込むとき、その反動で溢れた力を少し魂の杯に移したから――完全に元に戻るのは無理だけど、世界の転移をするくらいはできるようになるわ。コーマ、セメントを流していいわよ」
「セメントで流したところで、転移で逃げられるとは思うけれど――」
「そっちに関しては私が封印魔法をかけておくわ。世界が崩壊するまで穴から出られないようにしておくから……それにベリアルはきっと穴から出てこないわよ」
と俺は本当にセメントを作って穴の上から流していく
リアードはいいのかって? まぁ、あいつなら大丈夫だろ。
「でも、こういう穴を塞いで万事解決ってパターンはどうなんだろうなぁ――」
「仕方ないわよ。それより、はやく世界を移る準備をしないといけないわね」
「ルシル、それなんだが――」
と俺は彼女に、ずっと思っていたことを告げようとした。が、ルシルが言った。
「『ルシル、どうにかしてラビスシティーだけじゃなく、この世界丸ごと異世界に転移できるようにできないか?』でしょ」
「……あぁ、そうだ。もちろん、俺にとって大事な人のほとんどはこのラビスシティーにいるが、でも全員じゃない。どうにかして――」
「わかったわよ。そっちに関しては考えがあるわ。新しい世界を創ってからこの世界が滅びるまで一時間の猶予があるの。私は転移先を解析して転移陣を作る。それと同時に、魔力を伝える基地局みたいなものを複数作ってその範囲を広げるの。そうね、転移陣を使って極東大陸の私たちの家や西大陸の大聖殿の転移陣あたりにコメットたちに転移させてその基地局となる魔法陣を書かせれば一気に転移できる範囲が広がるわよ」
「それで世界中の人が転移できるのか?」
「…………えぇ、そうよ」
「なんだ? 今の間は」
「あくまでも計算上の話だからよ。実際にしてみないとわからないわ」
ルシルが自信ないのも無理はないか。
世界の命運がかかってるんだからな。
「その基地局となる魔法陣は誰でも書けるのか?」
「ええ、陣そのものはシンプルな形にしてみるわ。でも、どんな形になるのかはその日になるまでわからないから、今の内に陣を描くのは不可能ね」
「そうか――でもルシルがそう言うのなら少し安心した」
ルシルは魔法に関しては天才だ。きっと彼女の言うことならば、間違いない。
「コーマ、じゃあ日本に移住を希望する人をカリアナに行って連れてきて頂戴。流石に全員移住はしないでしょうからね」
「そうだな――サクヤやシグレは移住しないだろうな」
「コーマ、それとクリスに通じる通信イヤリングを借りていい?」
「クリスに? 何に使うんだ?」
「あの子にも協力してもらおうと思ってね。クリスってあれでも勇者なんだから、いろいろと伝手はあるでしょ?」
「勇者は勇者でもバカが常に接頭語についているような勇者だけどな」
と俺は通信イヤリングをルシルに渡した。
「勇者としてならタラにでも頼んだらどうだ? ってタラっ! あいつら――」
俺はもしかしたらと思って、穴の上に置きっぱなしにしていた持ち運び転移陣の上に飛び乗って、俺は魔王城に戻った。
タラ、コメットちゃん、メディーナ、正気に戻っているだろうか?
と思って会議室に出たら、
「タラさん、コメットさん、お願いですから落ち着いてくださいっ!」
その声はメディーナっ!
どうやらメディーナは正気を取り戻したらしい。
だが、もしかしたらタラとコメットちゃんはまだ――
と俺は急いで走る。声はマネットの工房から聞こえてきた。
「コメットちゃん、タラっ! 正気に――」
と扉を開けて叫んだ、その時俺の目に映ったのは、
「コーマ様――」
「主――」
俺を見て涙を流すコメットちゃんと、覚悟をした目をしたタラが白装束をし――
「コーマ様、最後に私からお願いします」
「主、どうか不義理な某たちの介錯をお願いします」
と切腹の準備を整えていた。
「正気を取り戻せふたりともぉぉぉぉぉっ!」




