ベリアルがひとりの天使に戻るとき
その小柄な体が吹き飛び、壁に激突しても平然としているベリアル。忘れていては困るが、俺は竜化状態を解いていない。第二段階のままだ。隠し技である竜化第三段階にはなっていないものの、それでもこうも平然としていられると本当にヤバイ気になる。
「これで少しは気が晴れたかい?」
「お陰様でな。お前の中の矛盾とやらがだいぶ見つかってきたよ。正直に言おう。俺は確かに賢者の石を持っている。神の力のおかげだ。でもな、それは神の力は神の力でも、俺が自分で選び、そして自分で手にしたこの力――アイテムクリエイトという力によるものだ。他にも72財宝を集めるというのはルシルのためだし、賢者の石を作ったのも今日のことだ。そんなタイミングで明日世界が滅びるから力を貸せ? はっ、そんな偶然あってたまるか」
「明日世界が滅びるというのは本当よ」
とそう言ったのは、俺が一番信用しているルシルだった。
「ベリアルが言っていることも全部本当」
「ま、待て! おかしいだろ! じゃあ本当に全部偶然だっていうのか? 偶然、世界の滅亡前日に全てが繫がるようになっていたというのか? 俺がアイテムクリエイトの力を得ることも、72財宝を集めることも、今日賢者の石を世界滅亡の前日に作ることも――」
「ええ、全部偶然――なんで私はこんな大切なことを忘れていたの……」
とルシファーが顔を青くして、頭を抱えて言った。
「単純だよ。君の記憶を封印したのは君だけではない。僕もひとつだけ暗示をかけさせてもらっていた。その様子だと全部思い出したようだね、ルシファー。僕の口から言っても無駄だから、君から説明してもらえないか?」
ベリアルはルシルにそう言った。
そして、ルシルは言う。
「コーマの言う通り全部偶然よ。神の候補者はコーマだけではないの。この世界だとクリスがそうだし、地球だと……そうね。三百人くらいはいたわ。その中からコーマが選ばれたのも偶然だし、コーマがアイテムクリエイトを手にしたのも偶然。まぁ、コーマが成長していく過程は裏でベリアルが手を引いていたのは多少あるけれど、それでも偶然によるものは多かったわ。そして、偶然今日、賢者の石が作られた。たまたま私が補助魔法を作ることをコーマに提案したから。でも、偶然ってここまで続くとそれはもう運命よね」
「……運命って。そんな偶然がありうるのかよ。何万、何億、何兆、いやそれ以上ある可能性の中から今日全部が揃う確率なんて、それこそ未来でも見えない限り実現が――」
と言って、俺はそれが可能な方法に気付いた。
「……まさか、知っていたのか? 未来を――」
俺の問いに、ルシルは頷いた。
「生命の書――あれには過去も現在も未来もその全てが記されている。でもその未来は無限に枝分かれしている未来なの。そこで私はどうすればこの世界をもう一段階下のステージに移動できるか調べ続けた。ベリアルがしていたのは全ての運命をここに導くこと。その結果がこの現在なの――もっとも、分岐点はそれほど多くなかったようだけど」
「分岐点が多くなかったからこそ、僕は分岐点しか知らなかった。だから焦ったよ。ベリーが君に襲い掛かった時。バベルの塔により西大陸のエネルギーが奪われそうになった時。そしてコーマとルシファー――記憶を失った君が、本当に仲良くしているとき。僕は直接この現在を見ていなかったからね。もしかしたら僕はルシファーに騙されたんじゃないかと思ったくらいだ。でも、全てうまくいった」
「元々この世界は神々にとっては忌まわしき存在だった。度々起きた元の世界の神からの介入により、世界の寿命はあと二十三時間と三十二分。賢者の石を使えばその寿命を増やすことはできるけど、それでも神からのさらなる介入により寿命を減らされればすべては鼬ごっこになる――ならばさらに奥深く――神々の介入すら不可能な世界に逃げ込めばいい」
とベリアルは言って俺のところに歩いてくる。
「僕と君なら」
「私とコーマなら」
『それが可能になる』
話はわかった。わからないがわかった。
「つまり、賢者の石を使って世界を作って、そこにみんなで移住しようってことだな」
「ひとつだけ違うわ」
ルシルが首を振って否定した。そして、その説明をベリアルが続ける。
「みんなではない。まず、カリアナの人の中で希望する人には、地球に戻ってもらう」
「地球に戻す?」
たしかにカリアナの人たちの中には先祖がいた地球への帰還を望むものがいた。
「バベルの塔でもおっ立てようっていうんじゃないだろうな?」
「いや、彼らにはこの世界を一段階下のステージに送るためのエネルギー、起爆剤のようなものになってもらう――君にわかりやすく言うのなら、空中で停止している気球から重いものを上に投げたら気球は下へと高度を落とすだろ?」
「カリアナの人たちは無事に日本に送り届けられるのか? 適当に地球に送ってあとは知らないってんじゃないだろうな?」
「それはしないわ。私が保証する」
とルシルが言った。ルシルが言うのならば信じよう。
「そしてもう一つ。みんなじゃないと言ったのは、この世界すべての人を新たな世界に送ることができないの。送ることができるとしたら、それはこのラビスシティーの周辺にいる人だけになるわ」
「………………っ! どういうことだっ! 他の人を全員見殺しにするのかっ!」
「仕方ないのよ。世界を作るとき、この世界のエネルギーは失われ、崩壊するまで一時間もない。私はその間に別の世界に転移するための魔法陣を描かないといけないの。落ちるだけだから魔力はほとんど必要ないけれど、別の世界の位置が明確じゃないからその時になるまで魔法陣を描くこともできない。この世界の全ての人を移動させようとしたら、何十もの魔法陣をそれこそ世界中に書かないといけなくなる。そんな時間の余裕はないわ。魔法陣を描いたらその周辺はもう別の世界への転移を始めているから、転移陣を使って移動することもできないし」
「納得しろ、コーマ。君が望むなら、計画実行まで時間が残っている。それまでに君の友人だけでもこの町に集めればいい。というかそうしてもらいたい。僕はその間にルシファーの力を手に入れないといけないからね」
「力を手に入れる? ルシルの力を――」
「そうさ。元の世界に移動するためには神と、そして強大な力を持つ天使の力が必要になる。そのためには、ルシファー、ベリアル、サタン、三人の力をひとつにしないといけない。そして、既にサタンの力は手に入れた」
「お前、まさかゴブカリをっ!?」
「勘違いするな。サタンの力は君たちが僕に差し出したんじゃないか。弱化の泉――あれを使ってね」
とベリアルは語る。
弱化の泉を使ってゴブカリはゴブリン王としての力を失った。
「失われたんじゃない。吸収されたんだよ、あの泉に――あれはもともとサタンの力を得るために僕が作ったものだ。そしてもうその力は僕の中にある」
とベリアルは俺たちが持っているものとは別の魂の杯を取り出した。
その中にサタンの力があるということか。
もっとも、ゴブカリの肉体が滅びればサタンの力も劣化するため、ゴブカリには生きてもらわないといけなかったそうだ。
そのために、ゴブカリを最前線に送らないよう、ゴブカリが近くに居たらサイルマルの兵が魔物化するという処置をした。
そして、ベリアルはその魂の杯の中身を飲み干した。
「あとはルシファー、君の力さえ手に入れたら僕はふたたびひとりの天使として蘇る。安心して、君には別の世界の解析という役目も残っている。新たな世界でそこの神と一緒に仲良く暮らせばいいさ」
「……そうね。厄介な仕事は全部任せるわ」
とルシルはそう言い、ベリアルに近づいていく。
「これを飲みなさい。私の力を入れてあるわ」
とルシルはいつの間にか俺のアイテムバッグから盗っていたらしい魂の杯を、自分のアイテムバッグから差し出した。
「感謝しよう――ルシファー」
とベリアルがその魂の杯の中身を一気に飲んだ。
杯をひっくり返し、垂れてくる最後の一滴を舌で受け止め、そのまま飲み込む。
「あはははははははっ」
高笑いをした。
「力が――力があふれてくるっ! これが元の力――」
とそこでベリアルの表情が変わった。
「なんだ――なんだ、この力は――ルシファー、お前、一体僕に何を飲ませたっ!」
「ごめんなさい、ベリアル。私はあなたを裏切るわ」
とルシファーは真っ赤な瞳でベリアルを睨みつけた。
「天使に戻るのはこの私よ――」
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本編はいよいよクライマックス突入間近!
さて、ルシル、ベリアル、コーマの行方は?
Wヒロインの片割れのはずのクリスに出番はあるのか?




