コーマの交渉術
昨日投稿して反映されなかった分と一緒に投稿しています。
先に昨日の分からお読みください。
最悪な形の罠が展開された。
もういざとなったら穴の上から大量の土砂を流し込んでベリアルを生き埋めにしてハッピーエンド! という展開を望んでいたんだが。
「本当にみんなのことを思うならあの子供を見殺しにするべきなんだろうが……」
「そんなことをできないコーマだから、みんなここまでついてきたんでしょ?」
「マネットっ! 用意してほしいものがあるっ!」
俺は後ろにいるマネットにあるものを用意するように言った。
「直ぐに用意できる……けど、とてもじゃないけど十秒じゃ無理だよ」
「わかってる、時間の引き延ばしは俺がする!」
とマネットが持っていた通信装置を使い、俺はカウントダウンをはじめようとしているベリアルに直接語り掛けた。
「ベリアル――ちょっと待てっ!」
『へぇ、その変なゴーレム越しでも会話できるんだね? こっちに来てくれないとこの子供を殺すよ』
「わかってる――が今、ちょっと行けないんだ」
『行けないって、戦闘の準備でもしているの? 君のアイテムバッグの中には全部の道具が入っているんだから、準備は必要ないでしょ? そしてそのゴーレムには転移陣がある。いつでもこっちに転移するつもりだったんだよね?』
とベリアルは笑って、「五」と残り時間を告げた。こっちの手は全部お見通しというわけか。
「もちろん、戦う準備はできているし、いつでも転移できる――が今はダメだっ!」
『理由を言わないと納得できないよ――四』
「仕方ないだろっ! 今、ルシル……ルシファーと――」
と俺は声を大にして宣言した。
「夜の営みの最中なんだからっ!」
その時、世界中の空気が止まった気がした。
ルシルもマネットもベリアルも、部屋にいるシルフィアゴーレムでさえ瞬きひとつせずに固まった。
『ま、待ってくれ。君はこんな時に一体何をしているんだ?』
「聞いてなかったのか? 何度も言ってやるよっ! セッ〇スだよ、セッ〇ス! 俺は今、ルシルとはじめての営みをやっているんだ! だからもう少しだけ待ってくれっ!」
『ふざけているのかい?』
「そんなわけあるかっ! こっちはお前が相手である可能性を考えているからこそ、生死をかけた戦いを覚悟した。それで俺は思った。童貞のまま死ぬなんてまっぴらごめんだって! 童貞のまま死ぬのかとか考えていると戦いに集中できないだろっ! だから俺はルシルに頼み込んだんだ。土下座して頼んで、やっと本番をやってる最中なんだ! なのに思った以上にゴーレムの動きが早くて、あと一時間――いや、三十分だけ待ってくれ! そうしたらそっちに行くから!」
俺がそう叫ぶと、ベリアルは頭を抱えて笑った。
『はははっ! 本当に君は面白い。ルシファーが作った薬草汁をけしかけたり、ブラッドソードをゴーリキに渡したりして君の実力を確かめたけど、まさか戦闘術や生産術だけではなくこんな交渉術まで持っているとは思わなかったよ。うん、わかった、待ってあげる。ただし、十分だけね。それだけあったら君には十分だろ?」
というと、ベリアルはどこからともなく砂時計を取り出した。この砂時計がの砂が全て落ちた時、時間になるということだろう。
それは俺が早いということか? ぶっ殺してやりたいが、せっかく貰った時間だ。
「感謝する。戦う時に少しだけ手加減してやるよ」
と言って俺は通信を遮断した。
ふぅ、なんとかなった。
「メイベルに聞いたんだよ。絶対に無理な交渉をするときには、相手の意表をつくことが重要だって。断ろうという心の壁を先に潰す必要があるからな」
「……コーマ、本当にバカでしょ。時と場合を考えなさいよ」
「時と場合を考えているからな……ルシル、今の内に皆を集めて――」
「一緒に戦わせるの?」
「ゴブカリの護衛に向かわせてくれ。サイルマル王国の兵が魔物化する条件にあったのは、俺、ルシル、そしてゴブカリが近付いた時だっただろ? ベリアルはゴブカリの中のサタンの力を狙っている可能性もある――地下に目を行かせて、その間にゴブカリを攫う――奴がしそうなことだ」
「わかったわ。直ぐに行ってくる」
ルシルはそう言って部屋を出た。
そして、俺は残りの十分を使い、作戦を考える。
一番簡単なのは子供を救出して脱出――最初に考えていた通り穴の上から生き埋めにすることだろう。だが、ベリアルはかつてエントと戦っていたとき転移魔法のようなものを使って移動していた。それに、いずれは戦わなくてはと思っていた相手だ。
やはりここで殺しておくのが一番だ。
「コーマ、何か作戦はあるの?」
とマネットが作業をしながら尋ねた。
「そうだな、子供を助けてからドライアイスを大量に流し込んで、気付かれないように毒殺するとか。二酸化炭素は無味無臭だから気付かれないと思うけど」
「コーマが子供を連れて脱出したあと、何もせずにじっと待っていてくれるとは思えないけどね」
「だな――子供を助け出しても第二、第三の俺が戦わざるを得ない作戦を考えているかもしれない」
と俺は通信イヤリングでクリスに連絡を取る。
クリスにベリアルがこの迷宮の地下にいることを伝え、ユーリに連絡。
ベリアルの手の者がこの町にいないか調べてもらうように伝える。ユーリに伝わればレメリカさんにも伝わるだろうが、彼女の援護は……まぁ期待できないか。
いきなり竜化第三段階から行くしかないな。相手はあのベリアルの影よりも格上なのだろうから。
「……本当に死ぬかもしれないな……ルシルに土下座したらなんとかならないかな?」
「ベリアルを倒してから土下座して頼んだらどうだい? なんなら僕も一緒に土下座してあげるよ?」
とマネットは完成品を俺に見せて言った。
「相変わらずお前のゴーレムは気持ち悪い――でも最高にいい出来だよっ! いい仲間を持って俺は幸せだ」
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