賢者の石
「私が西大陸でレモネちゃんの補佐ですか?」
コメットちゃんが耳をピクピクとさせながら鸚鵡返しに尋ねた。
どうやらコメットちゃんはレモネと面識があったらしい。まぁ、同じ奴隷商のところに暮らしていたのだから当然と言えば当然かもしれない。まぁ、レモネだし、別にいいだろう。
「どうかな? 今すぐってわけじゃないし、当然コメットちゃんが嫌ならいいんだけど。魔王城から通える環境にはしておくから」
「少し考えさせていただいてもよろしいでしょうか?」
あれ? 二つ返事で了承すると思っていたのに、少々予想外の答えだ。
「うん、まぁ別に断ってもいいんだよ。コメットちゃんが気晴らしになれば――みたいに思っただけだから」
「お気遣いはありがたいのですが、ここの料理は私がほぼひとりで作っていますから。私がいなくなったら――」
「ルシルやカリーヌは兎も角、メディーナやタラは料理をしないのか?」
「メディーナさんはとにかく料理が細かいのです――といっても繊細な料理をするというわけではなく、例えばステーキを焼くときもミンチのようになります。頭の蛇が食べやすいようにしているんですね」
あぁ、頭の蛇用の料理を作るわけか。蛇ならある程度の大きさのものでも丸呑みできると思うが、頭の上で大きなものを丸呑みされたら気持ち悪いだろうな。
「じゃあ、タラは?」
「タラの料理は逆に大雑把ですからね。前にコーマ様が用意なさったスパイスを使ってカレーを作った時、ニンジンは皮を剥いて半分に切っただけで入っていました。まぁ、美味しいのですけれど――」
「なるほど――」
「マネットくんやシルフィアゴーレムたちは元々食事を必要としませんし、ゴブリンたちは自分の生活がありますから」
「そうか――悪いな、いろいろと苦労をかけて。今度から俺も料理を手伝って――」
「それはダメですっ!」
とコメットちゃんが大きな声で言った。
「コーマ様はコーマ様がしたいことをしてください。それは私の望みです。コーマ様のために尽くすのが、グーとコメット、ふたりにとって共通する決して変わらない思いなのですから」
「…………そっか。ありがとうな」
コメットちゃんの目を見て、俺は説得するのを諦めることにした。
「でも、なんとか時間を作って、一日数時間の仕事をさせてもらおうと思います」
「うん、それだけでもレモネも助かると思うよ」
と俺は言って、自室に向かった。
俺の部屋はふたつある。ひとつは寝室、ひとつはコレクションルームだ。
そのコレクションルームに入ると、96体のパーカ人形が出迎える。
結局、残り一種類のシークレットは未だに手に入っていない。
しかも、パーカ迷宮は俺の支配下に入ってしまった。今更気付いたことだが、パーカ迷宮が俺の配下ということは、あそこの魔物も全員、俺の配下ということになる。ということは、そこで自分の配下の魔物を狩るというのはどうかと思う。
「っと、鬱になってる場合じゃない。俺にはこれがあるからな」
俺はアイテムバッグからいやし石、ピカピカ石、エリクシール、魔力の妙薬を取り出し、大きく息を吸った。
さて、やってみますか。
「アイテムクリエイトっ!」
と俺が唱えた――直後、それは生まれた。
真っ赤に輝く宝石――その姿はルビーのようにも見える。
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賢者の石【素材】 レア:72財宝
卑金属を金へと変える、不老不死の妙薬を創り出す等、様々な奇跡を起こす石。
錬金術師にとって至高の逸品。だが、その姿を見た錬金術師は誰もいないという。
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やはり72財宝か。
でも、これもまた素材なんだな。
さて、これを使って一体何を作ることができるのか?
そう思ってレシピを検索しようとしたとき――俺の脳がショートするのではないかというくらい熱くなった。
……なんだ、今のは。
この世の全てを作ることができる……そんな錯覚が俺を支配した。
だが、それが錯覚ではないと俺は思った。
例えば、ポーションを作るレシピを検索する。
蒸留水、ろ過水、純水などの水と様々な薬草類を組み合わせてできる。そのレシピの種類は約73種類。その中にそれがあった。
水と賢者の石を組み合わせてポーションができる。いや、同じ組み合わせで、アルティメットポーションやエリクシールといった薬類はもちろん、ジュースやハッカ茶、さらには力の神薬や反応の神薬といった水を使ってできるものがほとんどできてしまうのだ。
説明の通り、鉛や鉄と組み合わせて銀や金、白金を作り出すことも可能なようだし、プラチナリングと組み合わせれば友好の指輪といった他の72財宝を作ることもできる。
そりゃ脳がショートしそうになるわけだ。
とりあえずこれの使い道はゆっくり考えようと思い、アイテムバッグにしまった。
その直後、ルシルが部屋に入ってきた。
「コーマ! 今物凄い魔力を感じたんだけどっ!」




