フリーマーケットのバーベキュー(後編)
そのあともレモネの愚痴をさんざん聞かされた。
奴隷だった時よりも過酷な環境下で働いているだとか、六国間の戦争が終わったことで軍備が大幅に縮小されたことで国の財政にゆとりはできた半面失業者が現れたため各国から相談されて大変だとか、その各国の王――特にウィンディからコーマは今度いつ西大陸に来るのか問い合わせがあって大変だとか、自分の国の大臣にならないか? 給料は今の十倍出すと引き抜きがあって断るのに苦労しているとか、なんか自慢と愚痴とか混ざっている。
「サクヤさんがたまには顔を出すようにって言っていましたよ」
「怒っていたか?」
「コーマ様の想像通りです」
俺の想像通りだと、あっちに行ったら絶対に三回くらい殺される気がする。やっぱり勝手に理事長の座を押し付けたのはまずかったか。一応シルフィアの許可は貰ったんだけどな。
校長は委員長、理事長はサクヤって最強の布陣だと思ったんだが。
「普通なら喜ぶことですけどね……学校の資産そのままの譲渡ですから、贅沢しても人生十回くらい満喫できる金額ですし、その権力ももはや各国の大臣以上ですから」
「サクヤは生真面目だからな。まぁ、グルースを理事長にしてもよかったんだけど、あいつは元の性格があれだからな」
「西大陸は神子という役職のせいか女性優位性の社会になっていますので、サクヤさんを据えたのは正解だと思いますよ」
……え? そうだったの?
そうか、女性優位性の社会だったのか……それは知らなかった。
「ていうか、サクヤに関してはお前も同罪だろうが。最初は財政管理に加えて理事長もお前にすべて任せようとしたのに、そんなことをしたら過労で倒れるとか言って聞かないから、ふたりでサクヤを選んだんだろ?」
「……あの時のことはあまり覚えていません。学校の財政管理があまりにもずさんすぎて目も当てられない状況だったので――」
とレモネが遠い目でそんなことを言った。
「……悪かった。今日はもう仕事のことは忘れて食べろ……そうだ、今度人員を派遣してもらおうか?」
「早いうちにお願いします」
そうだな、コメットちゃんに頼むのがいいと思う。生きていることを知られたらマズイと迷宮の中に引きこもりがちにさせてしまっているが、西大陸ならその心配はほとんどないだろう。レモネとコメットちゃんの間に面識があるかどうかはわからないけど、まぁレモネなら口も堅そうだし大丈夫だろう。出勤はどこかの部屋を借りてそこに転移陣を設置すれば魔王城から出勤も可能だ。
もちろん本人の許可を貰ってからだ。
さすがにレモネやサクヤ、委員長と違いコメットちゃんには自分の意思を優先してもらいたい。
そのあともレモネから西大陸の情報を得た俺は、メイベルのところに向かった。
「約束、遅くなって済まなかったな」
と俺は小さなエルフの緑色の髪に、小さな木箱に入っていた珊瑚の髪飾りを着けてあげた。
「これが一番いい珊瑚らしい。残りのものは倉庫に運んでおいた」
「ありがとうございます、コーマ様。とてもうれしいです。以前の悩みは解決されたようですね」
「お陰様でな……と言っても悩みはまだまだ尽きないといったところか」
「コーマ様、これが例の物です」
とメイベルは宝石箱を俺に手渡した。
宝石箱を開けると、そこに五つの石が入っていた。白い球形の石はまるで真珠のように光り輝いている。
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いやし石【素材】 レア:★×7
持っているだけで傷が癒える石。
かつては不老不死の秘薬の材料とも考えられていた。
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不老不死の秘薬か。まぁ魔王は年を取らないそうだから関係ないが。
「よく見つけられたな……大変だったんじゃないか?」
「見つけたのはレモネですよ。西大陸の好事家が所持していたのですがなかなか譲ってもらえなかったそうで、彼の営む店の不正を次々とたたきつけ、それと引き換えに割高で譲ってもらったそうです」
「レモネが……凄いな。でも割高なんだな」
「ええ。金貨2000枚程度です。一個で金貨400枚ですね」
「高っ! これ一個金貨400枚かっ! えっと、代金は後でアイテムで払うよ」
「いいえ。コーマ様、金貨2000枚は今やフリーマーケットの一カ月分の純利益とそう変わりありませんので、ご心配なさらないでください」
「一カ月分の純利益? え? お前ら一カ月に金貨2000枚稼いでるの?」
金貨2000枚と言ったら、日本円で約20億円だ。
つまり、フリーマーケットは年間240億円稼ぐことができるらしい。それだけ稼いでいるのなら、メイベルのことだ。
きっとかなりの額を様々な団体に寄付しているに違いない。
「はい。もちろん、各地の孤児院やボランティア団体、学校などに寄付をして残る額がそれだけ、という意味です」
寄付した後に残ったのが金貨2000枚でしたか。
それは参った。
「……最初は私とコーマ様の二人しかいない店だったんですけどね」
とメイベルはバーベキューに集まった皆を見て言った。
「悪いな。本当はコメットちゃんも連れてきたかったんだが」
「仕方ありませんよ……でも、いつかコメットちゃんの住んでいるところに連れて行ってくださいね」
「わかった、約束するよ」
約束。
その言葉が俺を強くする。
そう、俺のこの世界の物語はルシルとの約束からすべて始まった。
ベリアルを倒した後、またこうしてみんなで集まろう。
そう思いながら、そのためにまず俺は「いやし石」を使ってどのようなアイテムを作れるか調べた。
銅鉱石とアルティメットポーション、鍛冶スキルを駆使して作り出した癒しの剣も、アイテムクリエイトではいやし石を使うらしい。
他にも、本来の目的である回復の魔法書、補助の魔法書も作れるらしいことが判明。
そして――最後に。
「……これも作れるようになったのか」
俺はそのアイテムを見て驚いた。
素材として必要なのは、いやし石に加え、エリクシール、魔力の妙薬――そしてピカピカ石。
そう、作れるのは賢者の石だ。




