死を受け入れたその先で
リアヌスは確かめるように俺の目を見た。
「……お前、自分が死んでいるって知らなかったのか?」
「一週間前、ベリアルの奴に言われて白い空間に行った時はまだ生きていたからな」
「……お前がいつ死んだのかはわからないが、お前が戦ったと言っていたエントは二千年以上前に封印されたらしいぞ」
二千年という言葉にリアヌスは目を丸くし、そしてその目を左手で覆って大笑いした。
「がはははは、そんなに時間が経っちまったのか」
笑ってはいるが、どこか寂しそうだ。
「それじゃあ俺が産ませたガキどももとっくに死んでいるんだろうな」
「そのガキの子孫がお前が今使っている体の持ち主だよ――名前はリーリエだ」
「リーリエ? 女? これ、女の体なのか?」
「服装で気付け――って、まぁ俺も今のお前を女だとは認められないが、お前が乗り移っていない状態だと結構可愛い女の子だぞ」
性格は変態を通り越して犯罪者だが。
「そうか、俺の餓鬼どもも子供を作って……ってことは、このリーリエってのも強いのか?」
「いんや、強くねぇよ」
と俺はルシルにアイコンタクトを送る。
俺の中の破壊衝動が徐々に消えていき、姿も完全に人間のもの戻った。
「はぁ……で、リアヌス。質問がある。答えられる範囲でいい、教えてくれ」
「約束だ、答えてやるよ」
「いろいろと聞きたいことはあるが、お前はブックメーカーという魔王だった。そのことに関して自覚は?」
「そんな自覚はねぇよ。俺様が死んでからになるのかな、それから知っているのはあの白い空間での出来事と、今お前と戦ったことだけだ」
「あの白い部屋で戦った相手は?」
「結構強い奴が多かったがな――全員人間だったぞ? それと……そうだな、クロードって奴は名前を憶えてる。あいつはその中でも一番強かった。なんでも生徒の薬を貰うために学校の理事長と取引をしたって言ってやがった。できれば戦いたくもないとも。あいつとは結局決着をつけられなかったがな――あいつとあってから、妙に体がだるくてな。今もだるい」
「リアヌスは今、魂だけの状態らしい。そしてその魂の半分がクロードって奴の中に乗り移った。だからそんなにだるいんだと思う」
「……よくわからんが、そうなのか」
よくわからん……か。
「ルシル、どう思う?」
「んー、そうね。ベリアルは恐らく、リアヌスの強靭な肉体で生命の書の力を使いこなそうとしたようね――普通の人間はあの力に耐えられないから。それでどんな知識を得たのか私にはわからないけど、その後もいろいろと利用していたのは間違いないと思うわよ」
「ルシル。そうだ、ルシルって言ったか。お前、もしかしてルシファーか?」
「…………えぇ」
「やっぱりそうか。がははっ、あのころと比べてちっこくなったが――でも幸せそうじゃねぇか。生命の書を使いすぎて死にかけていた奴と一緒とは思えなかったぞ」
……え? ルシル――いや、ルシファーが生命の書を使いすぎて死にかけていた?
そんなこと知らなかった。一体、ルシファーはそこまでして何を知りたかったんだ?
「そんなことがあったの……覚えてないわ」
「そうか……まぁなんだ。お前、確か魂の杯を持ってたよな。今もあるのか?」
リアヌスが質問すると、ルシルがこちらを見てきた。俺が黙って頷くと、ルシルはリアヌスに――
「あるわよ――それがどうしたの?」
と尋ね返す。
「あれを使って俺様の魂を生命の書の力ごと封印しろ。そのくらい、お前ならどうにかできるだろ?」
「……ルシル、できるのか?」
「ええ――リアヌスが魂の杯と契約すれば死後封印されることになるわ。もう死んでいるんだからリーリエの体から抜けてすぐに封印されると思う」
「でも、それをして大丈夫なのか? 魔王としての力が無くなったらパーカ迷宮も消滅するんじゃ――」
「それに関しては大丈夫よ――魂が天に還った時に迷宮は滅びるんだから。そうね、その前に――」
とルシルは俺の耳に囁きかける。ルシルの息が耳にかかってこそばゆい。
「ちょっと、コーマ、ちゃんと聞いてよ」
「あ、うん。わかった」
俺は頷き、そしてルシルの言葉を聞いた。
マジか。それってうまいこといくのか?
でも、確かにそれしかないな。
俺はリアヌスに向かい合い、絶対断られるだろう提案をした。
「リアヌス。俺の下につかないか?」
「いいぜ」
「嫌なのはわかるが、お前の子孫のために――」
とそこまで言って、答えが予想外の答えだと知る。
「うん、なんだろうな。このお約束。あぁ、いいんだな?」
「それが必要なんだろ? お前と戦って悪い奴じゃないことはわかるし、俺様に勝ったんだ。任せるよ」
と言って、リアヌスは快活に笑った。
それから暫くして、俺がアイテムバッグから取り出した魂の杯とリアヌスが契約をした。
と同時に、リアヌスの魂がリーリエの体から抜け、その姿がリーリエの本来の姿になった。
「……ぶはっ」
横たわるリーリエは既に服が服として機能を果たしていない状態だった。伸びきったドレスは彼女の体を隠す役目すら果たしていない。
「る、ルシル! この服をリーリエに着せてくれっ!」
俺はアイテムバッグから魔蜘蛛糸で作った布を取り出すと、アイテムクリエイトを使ってドレスを創り出したのだった。




