認める覚悟
「コーマ、本当に無理しないでよ――」
というと、ルシルの体が徐々に成長していく。
そして、その姿が俺より僅かに年上――大学生バージョンに変わった。
「封印解除――第三段階っ!」
「よし、来た! 竜化第三段階っ!」
俺の中に破壊衝動が湧き起こる。そして沸きあがる。
リアヌスの奴をぶっ殺したいと思いそうになる。いや、何度も振り払っているが、俺は既に幾度もリアヌスを殺したいと思っている。その体がリーリエのものだと知っているのに。
当のリアヌスは、唇を舐めて笑った。
「ほう、コーマ。それがお前の本気ってわけか?」
「あぁ、悪いな。お前のことを舐めていたわけじゃない。だが、この姿だと何かを壊したくてしかたなくなる。それを抑えるのに手いっぱいでな。もう頭を使った頭脳プレイなんてできなくなっちまう」
「あん? お前は俺様を壊すために戦うんじゃねぇのか? じゃあ、なんのために戦う? あぁ、そうだったな。俺様から聞きたいことがあるって言っていたよな。じゃあ、お前は俺様と戦いたくはないって甘っちょろい考えを――」
「戦いたいよ。俺は、お前と戦いたい。俺は、俺と俺の大切なものを守るために、壊さないために戦う。俺は壊さない」
「……壊さないために戦う……ガハハ、そいつは、壊すために戦うよりも厄介だぞ。わかってるのか?」
「わかってないのはお前のほうだ。守るために戦うというのはひとりじゃできないんだぞ。つまり、この戦いは最初から二対一ってわけだ。いくらお前でも二と一のどちらが強いかはわかるだろ?」
「戦いは数じゃないぞ、コーマ」
俺とリアヌスのにらみ合いは三秒も続かなかった。リアヌスがタイミングを見計らって攻撃をしかけてくるが、俺は既にそれを聞いていた。
『はっ、こんな面白い戦い、本当にはじめてだ――じゃあ、コーマ。簡単に死ぬんじゃないぞ』
と、リアヌスの心の声を聞いていた。友好の指輪を使って。
リアヌスが一歩先の未来を見ているのだとしたら、俺はその一歩先の未来を見ているリアヌスの心を読んでいる。だが、余計なノイズが入るし、リアヌスは感性で動いているところもあるから心の声にならないこともある。
俺はアイテムバッグから神雷の杖を使って雷をぶつけようかと思ったが、リアヌスは既にその威力を一度味わっているので、それに耐えるために力を込めるが、俺はそのまま杖を振りかぶると、杖を投げた。
思わぬ攻撃に虚をつかれたリアヌスだったが、もちろんそれはフェイントで本命であるもう一本の神雷の杖による雷を受け止めた。
心の読み合い、未来の睨み合い、剣と拳のぶつかり合い。
そんな戦いが十分もニ十分も続くわけがないと思っていた。
だが、実際は既に太陽も大きく傾き、夜になりかけていた。
「……はぁ、はぁ、こりゃラクラッド族に土下座して謝らないと」
地形がすっかり変わってしまった。ラクラッド族の家も七つくらい潰れたな。そのうち俺が潰したのはひとつだけなんだが。
こりゃ、反動が怖い。明日はただの筋肉痛じゃ済まないぞ。普段運動しないのにフルマラソンに参加して完走した五十歳のサラリーマン親父の翌日並みに体が壊れることだろう。
「……はぁ、はぁ、いいな、こんな疲労を感じたのも久しぶりだ。良い戦いだったよ」
「おい、どうした、リアヌス。まるで戦いが終わりみたいじゃないか。中途半端は嫌なんじゃなかったのか?」
「あぁ、中途半端は嫌いだ。だからこれまで戦ったが、こんな戦いをしたら言うしかないだろう。俺様の負けだ――お前が最強だよ、コーマ」
「……それ、お前とそっくりの奴にも言われた気がするんだが――でも今回は互角の戦いをしていただろ」
「互角? はっ、俺様の体をできるだけ傷つけまいと戦っていたことを見抜けないとでも思ったのか? お前、致命傷になるタイミングの攻撃を全部外してただろ……ったく、しらけるよ」
とリアヌスはその場で仰向けに倒れた。
その視線の先を追うと、一番星が輝き始めていた。
星を見ながらリアヌスは小さい声で呟く。
「そうか、俺様は既に死んでいたのか」




