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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode15 英雄の証

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閑話 不思議の国のアンちゃん(中編)

 その日、ルシル迷宮は大きな騒ぎだった。

 魔王であるコーマと魔王軍元帥であるルシルが極東大陸にいるため、不在である。そんな中で起こった出来事に、歴代の猛者であるゴーリキの知識を持つコボルトの魔人、タラも頭を抱えることになる。

「アンちゃん……」

 もうひとりのコボルトの魔人――コメットもまたどうしたらよいのか気が気ではない。

「すみません、私のせいで」

 メディーナは誰の姿も見ないように目隠しをして謝罪する。彼女の目を見たものは漏れなく石になってしまうからだ。

「いえ、メディーナさん――たしかにフリーマーケットに入る空き巣には子供も多いですから――あのような怪しいお面を被っていたら誰もアンちゃんだってわかりません」

 とモニター向こうでアンがつけているお面を見て言った。そのお面のモデルが誰なのか、コメットにもわからない。

「……でも、ちょっと困りましたね――」

 現在、空き巣用の転移陣は二カ所に分けて転移されている。

 ひとつは大人用。漏れなくルシル料理の餌食になるコース。

 ひとつは子供用。ちょっとゴブリンたちにお説教をしてもらうコース。

 アンがいるのもお説教コースなのだが、それが160階層付近とここから遠い。さらに困ったことに――

「通信イヤリングが使えない……ですね」

 つい先日迷宮内の通信イヤリングが使えない事態に陥ったため、現在その改良作業をルシルが行っている。通信イヤリングの片方をルシルに預けているため、迷宮内の通信機能が一部麻痺している。

 つまり、このままだとアンちゃんはゴブリンにお説教されてしまうことになる。

「私、とにかくアンちゃんの場所に行きますっ!」

 僅かな期間とはいえ、かつて孤児院でアンのことを妹のように面倒を見ていたコメットは居ても立ってもいられなくなり、走って百六十階層に向かった。


   ※※※


 一方その頃。

「……ゲンコツ茸、薬草、マーマッシュ……」

 とアンはお面の中に摘んだ食用のキノコや草の名前を言いながら入れていく。マーマッシュに瓜二つの毒キノコ――マンマッシュには手を触れないのは、さすがフリーマーケットの従業員に英才教育を受け、錬金術師の兄を持つ彼女ならではの特技だ。

 そして、彼女の空間把握能力もずば抜けていた。

 複雑な迷宮の中を地図も使わずに迷う事なく進んでいく。これもまた、幼くして視力を完全に失った時に培った特技だ。コーマによって目が見えるようになってからも、その特技は残っていた。

 その歩みは決して速くはないが、それでも中堅レベルの冒険者並のペースで、160階層、159階層を抜け、158階層へとたどり着き、そして身を潜めた。アンは目が見えない時、最も必要だった力は他の人に迷惑をかけないことだった。だから、彼女は常に壁にくっつき、誰にもぶつからないように他の子供たちの場所を知る必要があった。

 そのために、彼女は独自に力を手に入れた。

 索敵スキルだ。

 いち早くその存在に気付いた彼女は壁に身を潜めてその気配の主を見た。

 醜悪な顔の二足歩行の魔物が棒を持って歩いていた。

(……ゴブリンなの)

 冒険者の町の学校に通っている彼女は初等教育の段階で魔物についても教わっている。そして、子供は漏れなく言われるのだ。

 もしも魔物に出会った場合、速やかに近くの大人に助けを求めるようにと。

 だが、アンの周りに大人は誰もいない。なら、逃げないといけない。

 そう思ったアンは踵を返し、別の道に向かった。

 聡いアンは気付いていた。

 ここが迷宮の中なのだと。だから彼女はずっと階段を上がっていた。地上に戻るために。

 泣くこともしない。

 かつて自分の勇気は大切な人に贈った。その人が自分の勇気を持ち続けている限り、決して泣かない。そう誓ったのに。

 目が熱くなってきた。喉から声が出そうになる。

(泣いたらダメなの……気付かれるの)

 ここで泣いたら、声を出したらゴブリンに気付かれる。

 彼女は必死に口を押さえて歩く。

(またゴブリンの気配なの)

 新たなゴブリンの気配に気付き、彼女は歩く道を変えた。いくら空間把握能力に長けているとはいえ、こうも歩く道を変えられたら、次の階層に行くことができない。

「……っ!」

 新たに現れた気配に、アンは戸惑った。

 気配が右と前からふたつ現れた。そして、別れ道は右側しかない。つまり、進行方向の全てが塞がれた。ならば引き返そうかと思ったが、そちらからも気配が近付いてきている。

(勇者のお兄ちゃんっ!)

 アンがコーマに助けを求めた――その時だった。

「……あれ? 今日はとても可愛らしいお嬢ちゃんだね」

 そう言ったのは、ゴブリンとは似ても似つかぬ顔立ちの整った少年。

「……お兄ちゃんは誰なの?」

「僕の名前はゴブカリ――とっても悪いゴブリンだよ」

 とゴブカリは悪戯っぽい笑顔で言った。だが、アンにはゴブカリが悪いゴブリンとはどうしても思えなかった。


 こうして、少女と少年は出会った。

アンちゃんが有能すぎる件について

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