思い出のチョコレート
リーリエ――ブックメーカーとの話を終えた俺は、パーティ会場へと向かった。
そこでは、ルシルとクリスが料理の準備をしている。
「コーマ、遅かったわね。何してたの?」
「ん? あぁ、ちょっと確かめたいことがあってな」
「あれ? コーマ、それって」
ルシルは俺の持っているものを見た。
「ん? あぁ、友好の指輪だ」
友好の指輪は、マユが持っていた七十二財宝のひとつ。相手の心の中を読むことができるという指輪だ。だが、俺はこれをずっと封印していた。人の心の中を読むのは決して気持ちのいい物ではない。
マユはこの指輪がないと会話ができないから使っていたけれど。
「ブックメーカーの情報を読もうとしたら代償を払わないといけないけど、これを使えば考えを読んで、無償で情報が得られるんじゃないかと思ったが――少し危なそうな気がしてな」
「そうね。ブックメーカーの現状を見ると確かに危ないかもしれないわ」
「だよな……うん、やっぱりこれは使わないでおく。指輪を着けた途端、リーリエのクリスに対する欲情が俺の脳内に再生されても困るしな」
と指輪をアイテムバッグにしまう。
「ルシルは料理は作らないのか?」
「んー、作りたいけど、ラクラッド族に迷惑かけちゃったし、ここでは我慢しておくわ」
「そうかそうか、ルシルも少しは自重できるようになったのか。よし、飴ちゃんをあげよう」
と俺はアイテムバッグからペロリンキャンディを取り出してルシルに与えた。飴の柄が渦巻きという王道のペロリンキャンディだ。色はもちろん赤と白。ただしイチゴ味というわけではない。
「……これ、コーマが作ったの?」
「あぁ、さすがにアイテムクリエイトだとこの柄は再現できないからな。スウィートポテト学園の連中と修学旅行に行った時、飴細工屋でいろいろと研究したんだよ」
「へぇ、コーマは本当に毎日楽しそうね」
とルシルは感心するように言った。
「コーマさんが楽しそうだっていうのは私も否定しませんよ。本当にコーマさんは好き勝手生きてますからね」
「クリス、それを言うのなら、一番好き勝手生きているのはルシルだろ。今でこそ働いてくれてるけど、普段は畳でゴロゴロしてるし、甘いものを食べるだけ。家事の全てはコメットちゃんに任せて、唯一の取り柄の魔術の研究すらもしない。たまに動き出すとしたら料理をしてみんなに――主に俺一人に迷惑をかける。ほら、俺なんかより好き勝手に生きてるだろ?」
「別にいいじゃない。コーマが私にそうして欲しいって思ってるんでしょ?」
「そりゃ、お前が不便な生活をする羽目になった原因が俺にあると思ってたから――ってこれは言い訳だな。俺はルチミナ・シフィルが好きだったからだな」
「コーマ、その台詞聞き飽きたわよ」
「俺は……ルチミナ・シフィルが好きだった。って過去形にしたらダメだな。悪い、ルシル。忘れてくれ。今は目の前のことに集中しよう。今日はとりあえず生気を養うために、飯だ飯。エリエールの分は距離的に今日は帰ってこないだろうが、一応用意しておくか。ルシルは甘い物だけでいいのか?」
「そうね――あれが食べたいわ」
「あれ?」
「チョコレート」
とルシルはアイテムバッグからある実を取り出した。
それはカカオ豆だった。
「コーマ、実はこのラクラッド族の村の奥にカカオ園があったのよ」
「へぇ、カカオ豆か――じゃああれを作るか」
俺は小麦粉やマーガリンを取り出し、調理を開始する。
「氷の冷蔵庫って作れるか?」
「任せておいて! アイスボックス!」
ルシルが氷の箱を一瞬で作り出す。
俺はそこに作った生地を寝かせた。
その間に、ラクラッド族やクリスたちの料理を作った。
皆が料理を食べている間に、俺は生地を網焼きにし、さらに冷まして完成させた。
できあがったときは皆が既に食事を終え、俺の料理の完成を待ちわびていた。
「クリスは知らないかもしれないが、俺とルシルが出会った時はかなりひもじくてな。これしか食べられるものがなかったんだよ」
「そうだったわね……懐かしいわ」
ルシルがそれの完成系を見て、微笑んだ。
「これ、チョコレートクッキーですか?」
「似てるが少し違う――」
と俺はそれをつまんで口に運んだ。
「微妙に違うが、そこそこの再現性だろ?」
「本当、美味しそう」
「美味しそうじゃなくて、美味しいんだよ。美味しいからって前みたいに全部食べるんじゃないぞ」
と俺は彼女に完成したそれを出した。
俺とルシルの思い出の味――栄養補助食品チョコレート味を。
こうして俺とルシルは栄養をしっかり確保し、明日への準備を整えたのだった。




