コーマからの手紙
気が付けば、俺は地上に戻っていた。
俺と同時に戻ったはずのルシルが、俺の中の神の力を封印したのか、小学生バージョンになっていた。
「……コーマさん」
俺の名を呼んだのはクリスだった。覇気がないように感じるが、その原因はすぐにわかった。
リーリエだ。
ニコニコ笑っていて何も言わない。彼女はまだブックメーカーのままだった。
「そんな顔をするな。これは戦略的撤退だ」
「すみません、私が不甲斐ないばかりに」
「今回ばかりは相手が悪かった。精霊化したクリスでも勝てない相手だとは思わなかったよ……」
「コーマ、それで、説明して。どうして撤退したの?」
「どうしてというと?」
「あのままコーラにあのブックメーカーを倒させたらよかったんじゃないの? 撤退をするならその後でも――」
「んー、それでもよかったんだが、まずは敬意を表したというところかな」
俺は頷くように言った。
俺が何を言っているのかわからないと言った感じで、ルシルとクリスが顔を見合わせる。
どうやら気付いていないようだな。
「リアヌスは俺と同じ、蒐集家――コレクターだ。間違いない」
「「え?」」
「リーリウム王国はいくつの部族がひとつになったか、覚えているか?」
「えっと……九十七ですか?」
クリスが少し自信なさげに、だが正解の数字を言った。
「そう、九十七だ。この数字が何なのか、忘れたわけはないだろ?」
「忘れたも何も、リーリウム王国だった場所の部族の数――」
「このバカちんがっ!」
俺はアイテムバッグからハリセンを取り出してクリスの頭をはたいた。
クリスが頭を押さえ、涙目になりながら、「何をするんですか!」と訴えかける。だが、九十七と聞いて答えが出てこないのは、もう小学生からやり直したほうがいい。
「いいか、九十七はパーカ人形の数だろっ!」
「あ、そう言えば……そうでしたっけ?」
「そうなんだよ! つまり、リアヌスは恐らくコレクション感覚で部族を統一していったんだ!」
その時の記憶が、恐らくパーカ人形となって残ったのだろう。
つまり、パーカ人形はリアヌス無くして存在しなかったということだ。
「コレクション感覚で征服って、かなりはた迷惑な話ですよね」
「いいだろ、結果的に平和になったのなら」
つまり、リアヌスはただの戦闘狂ではない。その戦闘の中に何かコレクション的要素を求めていたのだ。
そうだ、言うなればリアヌスはこの世界版の武蔵坊弁慶だ。
彼もまた戦闘狂にしてコレクターだった。武士に戦いを挑んでは刀を集めた。その数は九百九十九本。残念ながら千本目に選んだ相手――源義経に破れ、大台の夢は露と消えたそうだ。でもまぁ、それで刀コレクションを諦めるということは、武蔵坊弁慶もその程度の男だったということだろう。
さて、話は戻す。
「それに、ブックメーカーといえば、俺の聖書、アイテム図鑑を作ったのも、鑑定結果を作ったのもまたブックメーカーだからな――それに、できることなら話を聞きたい。ベリアルはブックメーカー……リアヌスを使って何かをしようとした。あいつがベリアルの影――クロードについて知っているのも気になる」
「でも、コーマ。さっきの手段は正直きついわよ。私も魔力の大半をさっきコーラを封じるために使ったのと、今、コーマの中のコーラを再封印するのに使っちゃったから」
「待ってくれ、さっきから気になってるけど、そのコーラってのは正式に決まったのか? あの場だけじゃないのか? 今まで通り神の力でいいんじゃないのか?」
「神の力って言いにくいでしょ。コーラでいいわよ。ほら、色も似てるし」
「……もっとまともな名前を考えればよかった」
と呟きながらも、考える。
まず、第一の問題はリアヌス。言葉は通じるが戦い重視という感じで、目と目が合って話すのが困難。
「あぁ、そういえば、クリス。サランは大丈夫なのか?」
「はい……リアヌスさんにいきなり襲われてしまって、サランさんと一緒に戦っていたんですが――」
とクリスはリーリエを一瞥した。
「私の力不足でした。最後の力を使ってサランさんは宝玉のなかに戻ってしまい、そこにコーマさんが来たんです」
「あの火柱はその最後の一撃だったのか。どうせお前のことだ、リーリエを守りながら戦ったんだろ」
「いえ、リーリエちゃんを守りながら戦ったというよりかは、後ろからリーリエちゃんに抱き着かれないか不安で」
「いくらリーリエでも戦闘中に抱き着いて――」
「二度ほど」
「――来たのか」
「はい……どうもリーリエちゃん、ブックメーカーになり行く中、私のことを徐々に忘れていったみたいで、完全に思い出して羽目が外れたというか――胸をお嫁に行けなくなるくらい揉まれました」
「……それは憐れな……あとでマッサージでもしてやろうか?」
「いいえ、結構です」
とクリスが首を振った。
冗談はこのくらいにして、さて、どうしたものか。
「んー……」
と考え込むと、ラクラッド族のひとりがやってきた。
「コーマ、テガミ」
とラクラッド族のひとりが白い封書を持って現れた。
「俺に手紙? 誰からだ?」
「コーマ」
とラクラッド族が俺を指差す。
「いや、俺宛てじゃなくて、誰から手紙を預かったんだ?」
「コーマ」
「だから……まぁ、中を読めばわかるか」
再度ラクラッド族が俺を指差し、その反対の手で手紙を渡した。
封書には差出人も宛名も書かれていない。
ラクラッド族が中身を見ていないということは、直接差出人から宛先を言ったということか。
「もしかして、本当にコーマから手紙を預かったんじゃないかしら?」
「え?」
「コーマが前に魂を向こうに送った時、別の誰かがコーマの体を使って私に伝言を残したのよ。今回はラクラッド族に手紙を渡したんじゃないかしら?」
ルシルが言った。
ということは、この手紙を渡したのは――
(姿を見せないと思ったら、あいつ――生きていたのか)
いや、あいつは死んでいるのか。




