2Pカラー
ロリまで若返っていたはずのルシルは小学生バージョンにまでその肉体を取り戻していた。
思ったよりも余裕そうで、俺も少し拍子抜けしそうになる。
「コーマ、あれは何?」
ルシルに問われ、俺は後ろを向いた。
「あれがブックメーカーで、初代リーリウム王国の国王らしい」
「あれをどうするのよっ! コーマが逃げるってことは、それだけの相手なんでしょっ! 一度戻るのっ!?」
「お前が現在進行形で封印しているそれと戦わせて時間を稼ぎ、考える」
「考えるって……でも、ふたりがかりで襲って来られたら流石に私も防げないわよっ!」
「大丈夫だ。似非神のほうは無理かもしれんが、ブックメーカーは戦闘狂だ! ああいう奴は強い奴がいたら放っておけない。失敗したら逃げるよ」
「……わかったわ。みんな、私の後ろに下がってっ!」
ルシルの声に従い、俺とクリスとリーリエは彼女の後ろに隠れた。
そして、封印が解除され、彼女が封じていた力の塊――巨大な闇が解放される。
解放された闇は、もうそれが何の形をしているかもわからない。何もない――何もない白い空間の中に、何もない闇が広がる。同じ虚空にして対極の存在のようだ。
と同時に、ルシルの姿が成長し、大人バージョンになる。
「あの方が、ルシファーのご息女、ルチミナ・シフィルなのですね」
リーリエがそう呟いた。
どうしてリーリエがそのことを知っているのか? それは尋ねない。
リーリエは、いや、リーリウム王国の歴代国王は常にブックメーカーとともに国を築いてきた。その中で、ルシファーの情報やルチミナ・シフィル――ルシルの情報を得ていてもおかしくない。
だが、ルシルが実はルシファーであることはやはり知らないようだ。
そういえば、ルシファーがルシルになったのは、果たしていつのことなのだろうか?
少なくともメディーナが封印された時はルシファーとして活動していたはずなのだが。
そんな考えをしている暇もなさそうだ。
『幾枚もの氷壁っ!』
とルシルが叫ぶと同時に、氷の壁が現れた。
そこに闇の塊がつっこんでくる。
ガラスが割れるような音が聞こえるとともに、ルシルが作った氷壁に蜂の巣状の罅が入った。
「ルシルちゃん、大丈夫なんですかっ!」
「大丈夫よっ! わざと外側の何枚かの氷を薄くして割れやすくしてるのっ! そうすることで衝撃を緩和しているわっ!」
ルシルが言った通り、氷の壁は確かに幾枚もあるようで、罅が多重に見えるし、手前の氷は傷ついていない。
そして、氷も直ぐに元通りになった――が、闇の塊は、今度は銃弾のような形の小さな闇の塊をとばしてきた。
闇の塊の先端が、氷の壁を貫いた状態で突き刺さる。
「――っ!」
ルシルが力を込めた。
氷のヒビが再度塞がり、闇の塊を押し出す。
だが、このままでは氷の壁を破られるのは時間の問題――そう思った時、
「げんこつパンチっ!」
雑なネーミングのパンチを、初代リーリウム王国国王が放ち、それが闇の塊――神の力に激突した。
「がはははっ、ここがどこかはわからぬが、幾人もの猛者たちと戦えるとは! 彼奴の言っていたことは事実だったようだなっ! リーリウム王国国王、リアヌス、いざ尋常に参らんっ!」
ブックメーカー――リアヌスの筋肉が膨れ上がり、
「もう一度いくぞっ、げんこつパンチ」
とリアヌスがシンプルな、それでいて強力なストレートパンチを放った、その時だった。
ただの闇の塊だった神の力から手が生え、その拳を受け止めた。
「むっ」
とリアヌスが拳を引く。
その間に神の力は形を変えた――その姿は――
「……竜化した……コーマ?」
ルシルが呟くように言った。
そう、そこにいたのは真っ黒い俺だった。
「……この色違い感はまるで2Pカラーね」
頼むからこんな時に緊張感を削ぐような発言は慎んでくれ。




