フリじゃありません
ラクラッド族にクリスとリーリエの魂の解放を頼んだら、彼等は俺が菓子を作ることを条件として快諾してくれた。
ということで、俺たちは神殿の中にいる。
前に来たときと違い、誰も眠っていない神殿の中に入った。
石の寝床にリーリエを下ろし、横に寝かせて縄で縛りつける。そうしないと起き上がろうとするからだ。寝るように言いつけても、数秒後には何かを言われたことすら忘れてしまうのだから。
「コーマさん、私が寝ている間、絶対に悪戯とかしないでくださいねっ!」
「それは、悪戯をしろというフリか? そこまで言われたら何もしないわけにはいかないな」
俺がアイテムバッグから筆と墨汁を出してウキウキしながら尋ねた。
「違いますっ! フリじゃありません!」
「つまりこんな低レベルの悪戯では満足できないというのか!? わかった、お前の芸人根性に敬意を表し、洗濯ばさみとフックと紐を用意しよう」
「そんな存在しないものに敬意を表さないでください! その洗濯ばさみとフックと紐で何をするんですか!?」
「それは起きた時のお楽しみで――」
「楽しくありません!」
クリスが腕を振り下ろして抗議した。
そして、彼女はアイテムバッグから赤く光る宝玉を取り出した。
「クリス、これを食べろ」
「これは?」
「俺が作ったスウィートポテトだ。精霊の力を高める力があるそうだ」
「コーマさん特製のスウィートポテト? 何か特別な材料を使ってるんですか?」
「俺の本気が入っている――そう思っていた。全く、精霊の力を高めるわけだ。何しろこれに込められているのは神の力だからな」
俺の料理スキルはアイテムクリエイトからの派生だ。そして、そのアイテムクリエイトの力は俺の中の神の力によって生まれたスキルだ。
神の子、神子。精霊を宿す存在。その本当の目的は神を宿すことだった。
そして、俺の料理はまさに神の力なのだから、神子の力を強めるのは必然だった、ということだ。
なんだろう、ここに来て様々な事柄が辻褄合わせのように解決していくな。これが物語だったら最終回も近いのではないだろうか? と思ってしまうくらいに。
「最終回を回避するためには、そろそろ新ヒロインを追加しないといけないと思うんだが、俺の中のヒロインは既に決まっているからなぁ」
と後ろを見た。
すると、何故かルシルの横でエリエールが恥ずかしそうにしていた。謎だ。
とにかく、説明も終わったことで、クリスはスウィートポテトを食べた。すると手に持っていた宝玉から一気にサランが飛び出した。
「来たぁぁぁぁぁぁっ! パワー全開。久しぶりだね、カガミ」
「久しぶりだな、サラン。前よりでかくなったんじゃないか?」
「カガミ。その台詞、まるで久しぶりに会う親戚のおじさんみたいだね」
「精霊におじさんとかいるのか?」
「いないよ。あ、説明とか必要ないから。全部話は聞いていたから。僕はクリスと合体すればいいんだね」
「あぁ。精霊化を頼む」
「うん、任せて」
とサランがクリスの胸に飛び込む。胸から入るあたり、もしかしてあいつむっつりすけべじゃないだろうか。そう思った――刹那。
クリスの髪が真っ赤に輝きだした。
「……凄い――前に精霊化したとき以上の力です」
クリスは自分の手を見る。その手のひらから炎が生み出され、剣の形になった。
「それでは、ラクラッド族の皆さん、お願いします」
そう言うと、クリスは石のベッドに横になった。
なんだろうな、この違和感。寝るために興奮剤を飲むような感じだ。
「マカセロ!」
「イタズラ、スキ!」
「ナニ、カク?」
ラクラッド族のみんなが左手で俺の作ったスウィートポテトを食べながら、筆を右手に取って、イタズラをしようとウキウキしていた。その光景を見て、精霊化したクリスが怒鳴った。
「そうじゃありません! 魂を送る準備ですっ!」
彼女の髪が赤く燃え上がり、火柱を生み出した。




