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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode15 英雄の証

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勇者としてではなく

 ハイロックの体調不良は、エリクシールを使って直ぐに治った。

 事情を聴き終えた俺たちは、そのままとんぼ返りでルシルのいるブックメーカーの部屋へと戻った。

 別に過度な期待をしていなかったと、俺は思っていた。過度な期待はしていないが、それでもヒントくらいルシルならきっと手に入れている。そう思っていた。

 だが、短時間で解決策の入手など、考えてみれば例えヒントだけでも過度な期待だった。

「大体わかったわよ」

 戦闘がないとわかったためか、小学生バージョンの姿に戻ったルシルが俺に言った。

 ルシルはそんな俺の期待をいつも上回ってくれている。

 俺はルシルのことを過小評価していたと悟られないように不敵な笑みを浮かべて言った。

「流石はルシルだ」

 それでこそ俺が惚れた女だよ。

「それで、パーカ人形のシークレットの出現方法は?」

「それは調べてない」

「……なん……だと……?」

「そんな顔しても調べてないものは調べてないわよ」

「お前に期待して損した! 絶対調べてくれると思ってたのに!」

「はいはい、コーマ。そろそろシリアスパートに戻りなさい。エリエールたちが呆れているわよ」

「……シリアスパートって、シリアスさんはもう実家に帰っただろ……はぁ」

 俺は両手を床について倒れ込む。その姿は傍から見ればルシルに土下座しているように見えることだろう。

 俺はそのまま顔を上げ、

「で、ブックメーカーのことはわかったのか?」

「そっちは大体調べたわよ。魔王としての力をリーリエの魂が覆っているって感じね。魂の融合はないわ。一番簡単な解決法は、私の封印魔法でリーリエの中のブックメーカーの力を封印すること」

「本当ですか、ルチミナ様。それでは早速――」

 イシズがルシルに懇願するが――

「でも、そうすれば私は魔法が完全に使えなくなる」

「なら却下だ」

 俺がすかさずその案を一蹴する。

「イシズ、悪いがリーリエのためにルシルを犠牲にはできない。その手を下ろせ。力づくでどうにかなる相手じゃないってのはわかってるだろ」

 柄の部分が仕込み刀になっているハタキに手を伸ばしたイシズに、言葉で制する。彼女もまたリーリエのためなら何をするかわからないが。

「それに、ルシルのその言い方なら、他に案はあるんだろ?」

「そうね――こっちは厄介な方法だけど、要するにリーリエの魂とブックメーカーの力を分離して、ブックメーカーの力だけをどうにかすればいいわけでしょ? それなら魔法でどうにかなるわよ」

「そんな魔法が使えるのか!?」

「私には無理。でも、彼等なら使えるでしょ?」

 彼等?

 最初、ルシルが何を言っているのかわからなかったが、複数形だったことでそれが誰なのかようやくわかった

「そうか――ラクラッド族か!」

「正解。コーマにしては遅かったわね。でも、ひとつ厄介なことがあるの。ラクラッド族でリーリエの魂とブックメーカーの力を分離した後、そのブックメーカーの力をなんとかする人が必要になるわ。戦闘になるかもしれないし、何があるかもわからない。そして、その役目は私とコーマには無理なの」

「……確かに」

 俺は自分の魂をあちら側に送って失敗した。自分の中の神の力に襲われた。

 ルシルも当然不可能だ。

 ルシルの魂が抜けるということは、彼女は仮死状態になる。そうなったら、俺の中の神の力の封印が解け、暴走する。

「ならば私が――」

「イシズ――それにエリエール。ふたりは確かに強いが、それは人間としての強さだ。ルシルが厄介というからには敵は一筋縄ではいかないんだろ? 少なくとも常軌を逸した力が必要になる」

 と俺はクリスを見た。

「え? 私ですか!?」

「クリス、お前には精霊化ができるだろ? サランならば一緒に魂の世界に行っても問題ない」

「…………」

 クリスは胸のブローチを外す。

 勇者の証、勇気のブローチを見詰めた。

「勇者として、困っている人を放っておけないか?」

「いいえ、コーマさん。勇者は魔王を助けません」

 クリスはブローチをアイテムバッグに入れ、剣を抜いて天井に掲げた。

「勇者としてではなく、リーリエちゃんの友達として尽力させていただきます」

 掲げた剣が、天井からつるされた本を照らすための照明に当たり、コードが一本外れた。

 明かりが消える。

「すみません、すみません、すみません」

 誰に言うでもなく頭を下げていた。

 やれやれ、どうやらシリアスさんはまだ実家から帰ってきてくれないらしい。

 でも、それが俺たちだからな。

「クリスは本当にバカだな」

「コーマさん、ここでバカはひどいです。ちょっと失敗しただけじゃないですか」

「いいや、クリス。お前は大馬鹿だよ」

 俺は靴を脱いで椅子の上に乗り、揺れる照明器具のコードを直した。

「大切な誰かのために命を尽くして戦える人間を、ヒトは勇者って呼ぶんだろ」

 部屋に強い明かりが灯った。

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