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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode15 英雄の証

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新たなブックメーカー

「君たちがコウマくんにルチミナちゃんだね」

 その台詞は、ブックメーカーにはじめて会った時の台詞と寸分違わず同じ台詞だった。

 違うとすれば、

「君はクリスティーナちゃんだね」

 笑顔をうかべてクリスの名を呼ぶ。

 だが、その笑顔が俺には酷く不気味だった。

 なぜなら、()()はクリスのことをクリスティーナちゃんだなんて言わない。俺のこともコウマだなんて呼ばない。そもそも俺への笑みとクリスへの笑みが同じなわけがない。

「僕の名前はブックメーカー。そう呼ばれている。本名はないからそれでいいよ」

 それもまたブックメーカーが以前に言ったセリフであった。

「本名がない!? そんなわけないじゃないですかっ!」

 クリスは彼女の肩を掴み、そして言った。

「あなたはリーリエちゃんです! 私の友達のリーリエちゃんじゃないですかっ!」

 そう、そこにいたのは以前、俺たちが会ったブックメーカーではない。

 リーリウム王国の女王、リーリエその人だった。

 イシズから話を聞かされた時はまさかと思ったが――こんなことになっているなんて。

「リーリエ。この体の元となった女性だね? 残念ながら彼女の人格は既に存在しないよ」

「前にいたブックメーカーはどこにいる?」

「ブックメーカーから情報を得ようとすれば対価が必要になるよ。その結果がこの彼女なんだよ。コウマくん、イシズちゃん、ルチミナちゃん、クリスティーナちゃん」

 イシズちゃん、という人名が追加された。

 クリスの後ろからイシズが入ってきたらしい。彼女はさもイシズが最初からそこにいたように話す。

 恐らく、彼女が今部屋に入ってきたということすら忘れているのだろう。

「先代のブックメーカーは生きています――あれを生きていると呼べるのでしたら、の話ですが。現在エリエール様が一緒についています」

 イシズがリーリエから目を背けて言った。

「イシズ、どうしてこうなった……教えてくれ」

「リーリウム王国の初代国王がブックメーカーになったという話は聞いたと思います。それからブックメーカーの部屋とリーリウム王国の地下が転移陣で繋がるようになりました。その目的は、表向きには魔石を秘密裏に入手するためです。が、それとは別に、リーリウム王国の目的はブックメーカーの知識にありました。ブックメーカーの知識は過去、現在、未来、全ての情報を持っているそうですから。国王は緊急時にはブックメーカーの知識を仰ぐ必要性に迫られました」

「待て、その代価を支払った結果が今のリーリエなのかっ!?」

 さっきリーリエが言った。

「そうだと思います。私がラビスシティーより帰還した時、既にリーリエ様は今の状態でした。ですが、それよりも前。クリスティーナ様を監禁したときのリーリエ様は既に対価を払っていました。あの時のリーリエ様はすでにクリスティーナ様の記憶もほとんどない状態だったのです。それでもクリスティーナ様を守ろうとする意識を保っていたのは偏にリーリエ様の愛故ですね」

「リーリエちゃん、そんなに私のことを考えてくれていたんですね」

 クリスがうるうると感動しているゆだが、愛故に監禁って……それは最早ヤンデレの類だろう。

 かなり危ないぞ。

 ニコニコと笑っているリーリエを見て、俺は嘆息をついた。

 今のリーリエのほうが実はまともじゃないだろうか?

「コーマ、転移陣を見て来たけど、どうやら魔力不足だけみたいね。魔石五十個くらい吸収させたから今日一日は使えるわよ」

「そうか――で、ルシル。とりあえずこれどうにかなるか?」

「調べてみるわね」

 と言うと、ルシルは無造作に右手を伸ばすと、そのままリーリエの胸を鷲掴みにした。

 顔色ひとつ変えないリーリエ。羞恥心という感情ももうないようだ。仮にルシルではなく俺が同じことをしても彼女は顔色ひとつ変えないだろう。

「うーん、膨大な知識がリーリエの感情と記憶を押しつぶしているみたいね。この膨大な知識を取り除いて三日ほど置いておけば元に戻るわよ」

「それは本当ですか?」

 そう尋ねたのはイシズだった。

 その問いにルシルは神妙な面持ちで頷くが、

「でも知識を取り除く方法がないの。言うなればこれはコーマの中にある力を除くことと同じようなものだから」

「俺の力を取り除く――か」

 確かにそれは難しいだろう。そんなことができるのなら、俺もルシルも苦しむことはなかった。

 だが――

「コーマさん、ブックメーカーさんとエリエールさんに話を聞いてみるのはいかがでしょうか?」

「……そうだな。ルシル、お前は悪いが――」

「わかってるわよ。ここに来た目的くらいしっかり覚えているわ」

 そう、この迷宮に来た目的はリーリエを救う事じゃない。この迷宮を救うことだ。

 ということで迷宮の状況はルシルに調べて貰う事に。

「確認しておくが、ルシル。お前に調べて貰いたいのは三つだ」

「三つも? 迷宮の状況を調べて解決法を探るだけでしょ?」

「それはひとつ目だ。このままだと迷宮がいつ滅ぶかもできるだけ正確に調べてくれ。あと、こっちに来てくれ」

 クリスとイシズをその場に待たせ、俺はかつてエリエールに案内された部屋にルシルを誘う。

 その狭い部屋には一冊の黒い本が置かれていた。

「……この本がどうしたの?」

 そうか、ルシルは生命の書を見ていないのか。

 あの時もエリエールは俺にしか生命の書を見せなかったし。

「これが生命の書――知識の源だ。これについても調べてくれ。ただし危険だと思うなら触らなくてもいい」

「わかったわ。と言っても、この本からはほとんど力を感じないわ」

「それでも何かの情報はあるだろ。そして、最後。これが一番重要な案件だ」

 と俺はルシルの目を見て言った。

「この迷宮の魔物は等しくパーカ人形を落とす。その仕組みと、それとシークレット人形の出現条件があったら調べてくれ」

「……三つ目の重要な案件は?」

「聞こえなかったのか? 大事なことだからもう一度言うぞ」

 大事なことはやはり二度言う運命なんだな。

「この迷宮の魔物は等しくパーカ人形を落とす。その仕組みと、それとシークレット人形の出現条件があったら調べてくれ」

 俺はさっきのセリフを寸分たがわず、まるでコピーして貼り付けたように言った。

 それを聞いてルシルは頷くと、

「とりあえず迷宮と本について調べるわ」

「よし、よろしく頼んだ」

 そうかそうか、ルシルの奴。雑務を早い事片付けてメインに時間をかけてくれるつもりだな。

 ルシルにはパーカ人形について普段から熱く語っているからな。最近は相槌をする暇もないくらい俺の話を聞いてくれている。

 ルシルの力があれば、最後の人形一体が手に入るかもしれないな。

 俺は待たせているクリスの元に戻り、そしてイシズさんからの書状を受け取ると転移陣を潜った。

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