戦闘後のお茶会
鋼鉄のゴーレムがまるでプリンのようにさくさく斬れていく。浮き足立つ気持ちを抑えることができなくなった俺は、エクスカリバーだけでなく草薙の剣も取り出した。
はじめての二刀流。剣豪宮本武蔵のイメージで見様見真似に振るっている。
二刀流というよりかは二本の剣を振っているだけなので、効率が明確に上がったとは言い難いが、それでも僅かに敵が減るスピードは減っていく。
「ひゃっはぁぁぁ、まるで敵がゴミのようだ!」
妙なテンションで泥のパペット人形潰す。泥が跳ね、目の中に入った。だが、その痛みもすぐに引く。泥のパペット人形の核を潰したことで目に入った泥も消えたのだろう。
パーカ迷宮の魔物たちはもう何百、何千、下手したら何万体と倒してきているから、攻撃パターンも全て把握していから楽な相手だ。
異常発生しているからてっきり魔物も強くなっているかと最初は最大限に警戒して戦っていたが、そんなことはない。いつもの魔物だ。
「クリス、落ちてるパーカ人形は拾って――ないな」
笑顔で振り返ると、ルシルとクリスの奴、テーブルとティーセットを取り出して優雅にお茶会なんてしてやがった。迷宮の中にパラソルなんて必要ないだろ。
「コーマ、私たちは適当にクッキー食べてるから」
「コーマさんのハッカ茶も用意していますから、適当に切り上げてくださいよ。どうも魔物は階段付近には近づけないようなので」
「適当にって、こんなボーナスステージ、簡単に切り上げられるかよ」
パーカ人形の入った小箱を拾いながら、俺は後ろから殴り掛かってこようとしているウッドゴーレムを突き刺した。
魔石は――もういいや。一生分鞄の中に入っているし、ルシルもその方がいいと言っている。
アイテム、特に魔石は放っておけば迷宮に吸収される。それが僅かにだが迷宮の力になるそうだ。
魔物を倒しても迷宮の力が弱まるということはない――というより迷宮の力が弱まっているのがこの魔物の異常発生の現状なのだという。
迷宮が弱くなると、その迷宮の瘴気は他の迷宮に引き寄せられるように十一階層に集まる。だが、十階層には一定量以上の瘴気が出ていくことができない。そのため、十一階層に瘴気が蓄えられこの魔物の異常発生を生み出したのだそうだ。
とまぁ、そういうわけでこのボーナスタイムは十二階層以降では期待できないため、魔物退治を楽しんだ。
三秒に一個のペースでパーカ人形を拾い集めた俺は、一時間経ってようやく一息入れることにした。
魔物も大分減ったから効率が悪くなったからだ。
「……ぬるいな」
カップに入ったハッカ茶を飲みながら、俺はクッキーの粉だけが残った皿を見た。
クッキーが残っていないのは予想通りなので何も言わない。
アイテムバッグから麻袋に入った小麦粉と砂糖、ガラス瓶に入った牛乳などを取り出して、
「アイテムクリエイト」
と唱える。空だった皿に様々な形のクッキーが山盛りになるくらいできあがった。
俺は星型のクッキーを親指と人差し指で挟んで口に運び、
「で、さっきルシルが言った通り、今すぐどうなるってことはないんだよな」
「そうね。魔物の異常発生は迷宮崩壊の第一段階らしいわよ。これはお父様から――ううん、記憶を封印される前の私の知識だけど。でも確かよ」
と、さっきあれだけクッキーを食べたのに、俺が作ったハート型のクッキーを二枚つまんで口に入れた。
「記憶を封印? ルシルちゃん、記憶喪失だったんですか?」
何も知らないクリスが四角いクッキーを勝手に食べながら尋ねた。
「記憶喪失じゃなくて記憶改竄よ」
訂正を入れながら、さらに一枚、今度はクッキーを食べ、
「コーマ、チョコチップクッキーも作ってよ」
とさらに要求を入れてきた。
盗人猛々しいとまでは言わないけれども、ちょっとは遠慮しろよな。
「作ってやるから話せ」
「わかったわ。えっとね、第二段階になると、今度は迷宮の瘴気が薄くなって迷宮の中で育っていた植物が枯れ始めるのよね。それと同時になんとか瘴気を確保しようと非生物を手当たり次第に吸収していくの。第三段階になると迷宮の光が消えてその頃には魔物の食料もなくなるから魔物同士が殺し合いをはじめるわ。そして、最後は崩れ落ちるの」
「迷宮が崩れ落ちたら魔王はどうなるんだ?」
「別に――魔王としての力は無くなるそうだけれども。でも、寿命の反動が一気に来るから、死ぬかもしれないわね」
「寿命の反動?」
「そう。魔王は年を取らないって言ったでしょ? でも、魔王じゃなくなったらその反動が一気に来るの。マユとか魔王じゃなくなったら一気に死ぬわね」
「そうか――」
でも、それならブックメーカーは大丈夫だ。
エリエールはかつて前代のブックメーカーと一緒に育ったと言っていた。確かにはじめて会った時、エリエールより若く感じたが、それが彼女と同年齢になるだけのことだ。
「じゃあ、俺も魔王じゃなくなったら一歳年を取るわけか――ってあれ?」
「どうしたの?」
「ルシル、お前はどうなってるんだ? 俺はてっきりお前が魔王の娘だから2700歳になっても見た目若いもんだと思ってたけど、実際問題、元々魔王で、その魔王の位を俺に渡したって感じなんだろ?」
「え!? ルシルちゃんって元魔王だったんですか!?」
クリスが驚いて声をあげた。
ルシルが実はルシファーで、クリスの父親を殺したのがそのルシファーによって作られた神だと知ったらどんな反応をするのだろうか?
説明は面倒だから暫し伏せておくけど。
でも、クリスの父親についてはちゃんと時間がある時に話さないといけないな。
彼がいなかったら俺は以前ベリアルと戦ったときにその魂を食べられているんだから。
「あぁ、それ? それならもっと問題ないわ。私は元々天使なんだから年を取らないってだけでしょ」
「ルシルちゃんって天使だったんですかっ!?」
クリスが驚き、クッキーを取ろうとして伸ばした手をひっこめた。
さっきからクリスがうるさすぎるな。
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