パーカ迷宮の異変
転移陣が使えないということで、最悪迷宮そのものが既に存在しないと示唆された俺は、クリスとルシルを伴いそのまま十階層に上がった。
梯子がよっぽど不便だったのだろう。
勝手に十一階層に階段が作られていたので登るのは楽になった。
そのまま十階層を歩いて移動した。
「入り口はちゃんとあるようだな」
以前、エリエールに教えてもらったパーカ迷宮に通じる隠し扉を開けると、そこには以前と同じように地下に通じる階段があった。
ということは、迷宮は無事で転移陣が使えないという状況にあるらしい。
「ルシル、背負わなくても大丈夫か?」
「大丈夫よ、平坦な道なら自分で歩けるわ。それにこの迷宮はあまり深くないんでしょ?」
「あぁ、うちの迷宮の一割にも満たないよ」
「なら大丈夫よ。私だって、いつもゴブリン村に歩いていったりしてるんだから」
と言ってルシルは魔力の妙薬を服用する。
「……んっ」
と呟くと同時に、十二歳くらいだった彼女の姿は十四、五歳くらいの発達中の姿に変わった。
「魔力の神薬だと恒久的に魔力が増える代わりにあまり効果がないのよね、私の場合。でも妙薬ならこのくらいできるわ。これならある程度魔法は使えるわ。一時間限定だけど」
と、ルシルは鞄の中から妙薬を何本か取り出す。
俺が万が一のために渡しておいたものだ。
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魔力の妙薬【薬品】 レア:★★★★
一時的に魔力を50%増加させる薬。効果は1時間。同じ薬による重複効果はない。
限界を超えた魔法を行使する時に使われる。
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アルティメットポーションとユグドラシルの葉で作った妙薬の力はそこそこ――いや、かなりのものだ。
げんこつ茸とポーションで作った力の妙薬も増加量は同じ50%だが、ここまで力を高めた今の俺では実質一割くらいしか力が増えなくなっている。おそらくは薬の許容量の問題だろう。最近、力の神薬を飲み続けてもあまり強くなってきている気がしないのはそれが原因だ。
とまぁ、これも最近気付いたことなんだけどな。
最もアルティメットポーションとユグドラシルの葉を使っている魔力の妙薬ですら全盛期のルシルの五割を引き出すなんて到底できないようだが。
「クリスも自分の身は自分で守れるな」
「はい、私もいざとなったら――」
と精霊の球を取り出す。
「精霊化できますから。今の私ならオーガ将軍くらいなら片手で倒せます」
「そいつは頼もしいな」
うちのメンバーもなんだかんだ言って戦力インフレはしているようだ。
「まぁ、今回は危険は伴わないと思う。戦いが目的じゃないしな」
迷宮の力が弱まっているという話だし、逆に魔物がほとんどいないという可能性すらある。
それでも迷宮は迷宮。しかもあのベリアルが関わっているとなると何があるのかわからないので、油断しないように兜の緒を締める気持ちで階段を下りた。
そこで俺たちが見たのは――
「力が弱っているってコーマさん、言ってませんでしたっけ」
クリスが冷や汗を流して言った。あぁ、確かに俺はそう言った。そう聞いた。
だが、なんだろ。索敵の範囲外だが、遠くの方に見える魔物の群れは。
ゴーレム系の魔物が大量にいる。このあたりはマネットとジャンルが被っているが、この迷宮にいるいつもの魔物たちだ。
「なんだ、いつも以上に元気そうだな……」
もしかして、この迷宮が滅びそうだっていうのはデマだったのか?
俺とクリスはそう思った。
だが、ルシルだけは違ったようだ。
「思ったより厄介ね――この迷宮、あと一カ月以内に滅ぶわよ」
と神妙な面持ちで言ったのだった。
それは……それは厄介だな。
でも、一カ月以内というからにはまだ時間はあるってことだよな。
「とりあえず、ここの山ほどの魔物全部倒してパーカ人形の入った小箱を手に入れてもいいか?」
うきうきしながら尋ねる俺に、ルシルとクリスは顔を見合わせて肩を落とすのだった。




