レメリカさんは殺せるのだろうか?
私を殺したらサタンが復活する、そう言うレメリカさん言葉を聞いて、俺は驚愕した。
「レメリカさんって殺せるんですかっ!?」
てっきり破壊不能オブジェクトがごとく、即死は勿論のこと全状態異常無効でありノーダメージでありながらターン終了後にはHPが全回復しするような、負け確定の最強ボスか何かだと思っていた。
「……あまり冗談が過ぎると怒りますよ」
「ごめんなさい」
即座に土下座する。
これが異世界で生き延びる術だと、俺はクリスから教わった。最初にクリスに会った時も彼女は土下座をしていたな。
「先に言っておきますが、私は現在、ただの人間ですよ」
「絶対嘘でしょ」
そう言ったのは、俺ではなくジョーカーだ。
ジョーカーの頭にレメリカさんはデコピンをする。すると、ジョーカーは一瞬にして昏倒した。口から泡を吹いて倒れた。
俺も思って、こいつが先に言わなかったら俺が言っていた。
本当に助かった。
「私は現在、ただの人間です」
「はい、疑ってません」
「首を刎ねられたら3分足らずで死にます」
「それは……そうなんですか」
ツッコミを入れたかったが、ジョーカーの前例が俺を思いとどめた。
そもそも彼女の首を刎ねること自体不可能なんだよ、と叫びたかったし、そもそも首を刎ねられても3分生きていられるのかとも思った。
「レメリカさんがサタンを封印している鍵だということはわかりました。サタンはそれほど厄介なのですか?」
「あなたはまだそれすら知らないのですね。私たち天使は、堕天使を三つに分けました」
レメリカさんの話を聞きながら、堕天使とは、恐らくは名もなき天使のことだろうと俺は推測した。
「堕天使を三つに分けました。魔法の力を持つルシファー、狡猾な知恵を持つベリアル、そして魔物を統べる力を持つサタンへと」
魔法、知恵、統治……か。
「サタンは一体どこに封印されているんですか?」
「世界で最も弱い魔物とされるゴブリンの中です。そして、サタンの魂を宿したゴブリンはこう呼ばれます。ゴブリン王と」
「ゴブリン王がっ!?」
つまり、ゴブカリの中にサタンの力が封印されている!?
「ええ。あなたの配下であるゴブリン王こそがサタンの器です。聞きたいことはそれだけですか?」
「……いえ、お願いです。レメリカさんが知っていることを全て教えてください」
「全て、それは酷く曖昧ですね」
レメリカさんは嘆息し、
「そうですね。せっかくの機会ですから教えましょう」
と俺に明らかな敵意を向けた。
「私はあなたが好きではありませんでした」
「……過去形にしていただけて光栄です」
と言ってよかったのだろうか?
「あなたは一体どこまで知っているのですか? 何を知らないのですか? まずはそこから言ってください」
そう言われ、俺はジューンから聞かされたことを言った。
七英雄の真意。クリスの秘密。
ベリアルは別の世界の扉を開けようとしていること。
そのために裏で動いていること。
そして、俺の中にあるのがルシファーではなく神の力であること。ルシルがルシファーであること。
「なるほど、そこまで知っているのですか。ならば私がまず言うことは、それが全て事実であるということです」
「……そう……ですか」
覚悟はしていたが、やっぱりそうか。
「ちなみに、ルチミナ・シフィルはルシファーとしての記憶を失っています。ルシファーの力を使い、記憶を封印するように仕向けたのはベリアルです」
「ベリアルがっ!?」
ルシルが記憶をなくしているという可能性はメディーナから聞かされていたので予測はできたが、てっきりルシファー――ルシルが自らの意志で記憶を封印したのだと思っていた。
そこにベリアルが一枚噛んでいるのは嫌な予感しかしないな。
「彼の狙いはわかりません。ですが、選運の迷宮は現在、最も瘴気が集まる迷宮になりました」
選運の迷宮とは、ルシル迷宮の正式な呼び名だ。
「貴方は知らないかもしれませんが、72あったはずの迷宮は現在その数を大きく減らしています。本来、魔王が死ねば迷宮は崩れ、新たな迷宮が生まれます。が、あなたが倒した骨の迷宮を含め、現在20の迷宮が崩れ去り、新たな迷宮が生まれる気配はありません。その力の全てが選運の迷宮へと集まっています。文字通り迷宮が迷宮を食べ始めたということですね」
そして、レメリカさんは言った。
「リーリエ女王陛下と勇者エリエールの努力虚しく、パーカ迷宮が消えるのも時間の問題ですからね」
「パーカ迷宮が消える!?」




