コーマが召喚された理由
「ルシルがルシファー……そんなことがあるはずない」
さっきまで俺自身がもしやと思っていたことを、俺は否定してかかる。
どうして、ルシファーが倒されたあと、旧魔王城――俺とルシルがはじめてあったあの城の宝物庫は全く荒らされた形跡がなかったのだろうか?
「そもそも、あいつがルシファーなら、なんのために俺を呼んだ? 世界最強の魔王だというのなら、自分で72財宝を集めればいいだろ! 俺なんかの力を借りずに」
「……その通りじゃな」
「だろ?」
「ところで、何故、貴様は召喚された?」
思いがけないジューンの問いに、俺は思い出すように答えた。
「それは、俺が物を集めるのが得意だから――72財宝を集める人間に適任だって」
「それで、わざわざ異世界の者を呼んだのか? この世界の住人のほうがいろいろと楽のはずじゃろ? この世界についても詳しいからの」
「……他に目的があるっていうのか?」
「コーマ、主ももう気付いているのではないのか? この世界に異世界から召喚したのはコーマだけではないじゃろ。例えば、不思議な力を持つというカリアナの民。そして、例えば――」
「闇の神子――」
鈴子は正確には召喚されたのではない。この世界に転生したと言っていた。
その転生を成したのは、この世界の人間だ。
何故そんなことをした?
それは恐らく――人工的に神の器を作るため。神子を育てるため。
神子を作るために俺たちの世界の人間を利用してきた。
ルシファーもまた、人々と同じく神を作るつもりつもりだった。そして、求めた神の器は――
「俺が召喚された目的は――神の器」
「ようやく真実に辿り着いたようじゃな」
「でも、俺のルシファーの……あんたたちの言う神の力は封印されている。封印したのはルシルだ。ルシルの目的が神を作ることだというのなら、何故それを封印する?」
「神の力が不十分じゃった。ふたつの意味でな。ひとつはコーマの力。神を宿す器として、まだまだ未熟だった。それはクリス嬢ちゃんも同じじゃがな。じゃから力が暴走した。封印するしかなかった。そしてもうひとつ。どのみち72財宝が無ければ新たな世界を作ることができん。それまでは封印しておくことしかなかったのじゃろう。さて、ワシの話はそれだけだ。エグリザ、クリス嬢ちゃんに伝言を頼むのか?」
「私はもう三年も前に死んだ人間です。何も言うことはありません」
「ということだ。コーマ、ワシたちが言う事は何もない」
「待ってくれ、俺はまだ聞きたいことが――」
「これ以上抑えておくのも限界じゃからな。さて、あとは若いものに任せて――」
とジューンがそう言った時、ジューンの体がはじけ飛ぶ。
「……悪いの。思ったより時間がなくて。それでも、最後の茶は旨かった」
顔だけになったジューンが笑い、そしてその顔も消え失せた。
そこから現れたのは闇の球――いや、俺は直感的にそれが何なのかわかってしまった。
「フーカ、行くぞ」
「は、はい!」
呆けていたフーカの手を引き、俺とフーカは逃げる。
「すまない、俺の考えたらずだった」
あれは――俺の中のルシファーの、ジューンがいうところの神の力だ。
俺の魂とともに封印されていた。
こっちの世界にくるときに一緒に来たのだろう。
それをジューンが封印していた。
エグリザが言った、俺が連れてきた厄介なものとはこのことだったのだろう。
「元の身体に戻ったらルチミナ・シフィル――ルシファーの作った料理を食べろ。あの料理には闇の力を抑える力がある」
「エグリザ、お前はルシルの料理の秘密を知っているのか?」
「いけ、時間がない! 安心しろ、私も奴についてはいろいろと調べている。殺されることはない」
そう言ってエグリザは踵を返し、元来た方向に戻っていく。
「エグリザ!」
「コーマ、お前が肉体に戻らなければ――あの力が先に肉体に戻ればあの力は全てを破壊する。それだけは避けろっ! 本当は、私が最初にコーマにここで会った時、お前を止めておけばよかっただけだ。それでも、私とジューンはコーマ――君と話したかった。私たちの世界の問題に巻き込まれた君が、どんな人間なのか見ておきたかった――あぁ、うまく言いたいことが纏まらないが……世界を頼んだ!」
「言いたいことが支離滅裂すぎるぞ! 俺に世界を任せるとかぶっ飛びすぎてるだろ!」
「それならこういうっ! 娘をよろしく頼むっ!」
エグリアは振り返らずに言った。
そして、去っていく彼を見て、俺は思い出した。
ここであいつに会った時、どこかで見たような気がすると思った。
それは――ベリアルの影にルシルが殺されかけた時、俺の力が暴走した時。
俺は確かに会った――俺の魂の中で男と。
あの時、俺はあれがルシファーなのだと思っていた。そう尋ねても、その男は答えなかった。
だが、あれはルシファーじゃなかった。あれが、エグリザの魂の半分だった。
ジューンが言ったこと、エグリザと闇竜の魂がともに封印されて混じり合っていたのは事実だった。
「くそっ、俺はまたあんたに助けられるのかっ!」
「お兄さん、はやくいきましょう!」
「わかってる! すぐに行く!」
俺はフーカとともに戻った。
元の肉体へと。
走りながら俺は思った。
クリスとルシルのふたりに、どんな顔で会えばいいのかわからないと。




