神を宿すための器
「あんたがクリスの親父か……死んだって聞いていたけど、元気そうだな」
まぁ、魂だから肉体の損傷は関係ないのか。
どうして死んだはずのエグリザがこの場所にいるのかはまだ聞いていないんだけれども。
「……君のことはそこにいるフーカさん、そしてジューンから既に聞いている。娘が大変お世話になったそうで」
「世話ってほどじゃないよ――」
「本当にお世話になっているようで」
とエグリザは俺の肩をつかみ、睨み付ける。
この反応は――と俺はお茶を飲むフーカの方をみた。フーカは汗を流してお茶を飲み、俺と目を合わせようとしない。フーカの奴、俺とクリスのありのままを話しやがったな。普段からクリスをからかって遊んでいることを。
「コーマくん。クリスティーナは成人しているとはいえ、まだ二十歳にも満たない。他に好きな人がいるにもかかわらず遊び半分で付き合ってもらったら困る」
「いや、遊び半分というか……」
正直、現在は100パーセント遊びの付き合いな気がする。
「本気だというのかね?」
そりゃ、クリスとは結婚するか? という流れになったけれども、結局あいつの借金の問題を持ち出してご破算にした。というより、俺は現在ルシルの婚約者だからな。本気なわけない。
「結婚は無理だな。借金の問題もあるし」
「借金もあるというのかね? まだ若いというのに、どうしてクリスティーナはこのような男と――」
「え? 借金があるのはクリスのほうだぞ? 俺の作った剣や道具を買った借金が山のように」
「……なんだと、君はまさか、借金を理由にクリスティーナに――」
「猫語を言わせて遊んでます」
わなわなと震えるエグリザに、俺は正直に言った。
すると、エグリザの熱が急に冷める。
「猫語?」
意味が分からなかったのだろう。鸚鵡返しに尋ね返した。
「借金を返せなかったら罰として猫語を言わせて遊んでいます。一人称もクリスティーナにして、『クリスティーナは借金が返せなかったニャ』みたいなことを言わせています。それ以外は何もしていません」
「……コーマくん。君は知らないかもしれないが、私は西大陸で貿易商を営んでいたこともあり、それなりの資産がある。娘の借金は妻に返してもらいなさい。それでクリスティーナで遊ぶのは辞めてもらえな――」
「あぁ、エリザさんのお店ですね。ムサビとキシメールて部下がいろいろと横領したせいで借金まみれになって潰れそうになっていましたっけ。俺が昔オーナーをしていた店から資金を無利子で貸してなんとか立て直したんだったな。その店がどうしたんだ?」
「……ムサギとキシメールが……」
エグリザはそう言うと、膝をつき、
「妻と娘が大変世話になったようで……ありがとう」
そう言った。少し悔しそうに見えたのは、俺を怒れなかったから、というわけではない。自分の妻が苦しんでいた時に何もできなかったことに対する苦悩だろうと俺は勝手に推察した。
「で、ジューン。どうしてルシルの話がクリスの話に繋がるんだ?」
「うむ。コーマは西大陸の神子について知っているか?」
「……あれ? ジューンはいつからここにいるんだ?」
「ゴブリン王の事件があってからすぐこの地に来させてもらったが?」
「そうか。西大陸には今は神子はいないぞ。六つの宝玉が壊れた。戦争も終わったし、平和そのものだぞ」
「そうなのか? 精霊たちはどうなった?」
「力をほとんど失って眠りについた。サランだけは例外で、その分身がクリスと一緒にいるんだけど」
「クリスティーナと火の精霊サランか……あの子は覚えていないかもしれないが、昔はレイシアとサラン、当時の火の神子の三人でよく遊んでいたからな。それも運命だったのかもしれない」
エグリザが感慨深げに言う。そして、ジューンは説明を続けた。
「コーマ、神子とは精霊を宿す人間を言う。じゃが、その真の目的は違う。神子は1000年以上昔、この世界の神を宿す存在になるために作られた人造生命体の子孫たちじゃ」
「神を宿す?」
「うむ、この世界には神は存在しない。神がいないからこの世界は裏で魔王、天使によって操られてしまう。それを知った人間は疑似的に神を作ろうとした。長い年月をかけ、神を宿す器としての適性の高い人間を創り出してきた。時には異世界の人間を招き入れることもあった。そして世界で初めて、神を宿すに等しい器が生まれた。ワシやこのエグリザが探し求めた器が……皮肉なことにエグリザの娘として」
「……それって」
つまり、クリスが神を宿すための器ってことなのか?




