プロローグ
森の中、俺はルシルを背負って歩いていた。
目指しているのはここから南西にある海岸。そこには極東大陸の開拓者たちが最初に作った村がある。すでに港町と呼べるまで成長した村があるらしい。
「コーマ、少しずれているわよ。もうちょっと左」
「わかった」
開拓村と開拓村を繋ぐ道はほとんど整備されていない。時折、木の枝に目印がつけられていて、そこに数字が書き込まれている。
その数字が地図の目印になっているそうだが、俺には通信イヤリングがあり、ルシルがいる。
彼女なら、通信イヤリングの魔力をたどり、クリスのいる方向がわかるわけだ。
「コーマ、蛇がいるわよ」
「わかってるよ」
枝のうえから飛びかかってきた大蛇――俺たちを丸のみにできそうなくらいでかいその蛇を草を払いのけるために使っていた草薙の剣(伝説の剣の使い方としては間違っていた気がするが、剣の名前を考えれば正しい気もする)で切り裂く。
口を開けたまま一瞬にして舌先から尻尾の先まで真っ二つにされた蛇の死骸を見て、とりあえず、それはアイテムバッグにいれた。
倒しても死骸が残るのは、こいつが瘴気から生まれた魔物ではなく野性の獣である証拠だ。
「コーマ、剣の腕、また上がったんじゃない? タラと毎日鍛練している成果かもね」
「……あぁ、まぁこのくらいは余裕だよ」
最初はどうしても力任せに剣を振るっていただけだからな。
でも、今の俺ですら単純に剣の技術だけならタラは勿論、クリスにすら勝てないかもしれない。俺がクリスより強いのは神薬によって底上げされている力と反射神経のおかげだ。
「死なないためには強くならないといけないからな」
と言ったところで、森の出口が見えた。
森を抜けると、切り立った崖の上に出た。
その下、さらに向こうには海が見える。
「絶景だな」
「コーマ、クリスはあの町にいるみたいね」
とルシルは海沿いの拓けた場所にある建物が密集している場所を指差した。その周りには立派な畑のようなものも見える。まだ午前中のためか、大勢の人が畑作業をしていた。
村の規模を考えると、人口三百人といったところかな。
流石に人口以上の家を作る余裕はまだないだろうし。
仮設の港らしき場所には、結構年季の入った帆船が止まっている。乗り心地はかなり悪そうだ。恐らく、俺たちが転移陣を使わずに海路を選択していたら、ああいう船に乗せられたんだろう。
まぁ、いざそうなったら、俺は船を自分で作っただろうけれども。
「どうする? このまま下りるか? ロープを作ってもルシルを背負ったままだと意味がないしな」
「転移魔法を使ったほうがいい? ちょっと魔力を高めたら村の近くまでなら転移できるわよ」
「本当か? なら、頼むよ」
俺がそう言ったその次の瞬間だった。急にルシルの体重が増した。
成長したのだ。ルシル中学生バージョンに。
と同時に、いろいろと変わるな。身長も伸びているので、手の位置とかも変わるし。
「…………っ!」
俺は今、大変なことに気付いた。
今までの華奢だった体に僅かに膨らみが増していたのだ。
背中に急に当たるようになったあれは、つまりあれってことだよな。
それに、俺の手の中にあるルシルの膝裏の感触も全然違う。柔らかい。
今のルシルの胸でこんなに気持ちいいのなら、全盛期の、それこそ俺が一瞬にして惚れてしまったあのルチミナ・シフィルの巨乳だとどんなに気持ちいいのだろうか?
「……そうだ! 俺が竜化すればルシルももっと魔力が解放できるんじゃないか?」
「必要ないわ、これで十分だし。それに竜化したコーマって鱗がチクチクしているから引っ付くのは嫌だし」
……ぐっ、そうか。やはり、ルシルの魔力回復は俺にとっては急務の様だ。
※※※
一瞬で転移した俺は、村の入り口でルシルを降ろした。
農作業のためか、村の中に人は少ない。でも、全く誰もいないということはなく、子供が水汲みをしたり、おばちゃん数人が洗濯板と巨大な木のタライを使って、何十人分もの洗濯物を洗ったりしていた。
「おや、あんたたち、もしかしてクリスちゃんの知り合いかい?」
女性陣の中で一番恰幅のいいおばちゃんが立ち上がり、そう尋ねた。
「はい、そうですけどどうして――」
「じゃあ、こっちのお兄ちゃんが“コーマさん”で、そっちのお嬢ちゃんが“ルシルちゃん”だね」
名前まで知られているのか?
「クリスちゃん、いっつもここで洗濯を手伝ってくれていたんだけどね、ふたりのことばかり話すから大体わかっちゃうのよ」
「あぁ、なるほど。クリスの奴、俺たちの悪口ばかり言っていたんじゃないんですか?」
俺は苦笑して言った。クリスがぼやきながら洗濯板を使って洗濯をすると、他のおばちゃんたちが笑い出す。
「最初はね。本当に愚痴ばかり言っていたけど――」
「いつの間にかいいところばかり言ってね――」
「自慢げにふたりのいいところを話していたよ。怒りながらふたりのことを誉めるもんだから、私たちもつい楽しくてね」
とおばちゃん三人が交代で話した。
それもなんとなくクリスらしいな。
「コーマ、私クリスにちゃんと謝ったほうがいいかしら?」
「……いいんじゃねぇか? 急ぎじゃないんだし、ちゃんと来てやったんだから」
俺がそう言うと、
「あ! コーマさん! やっと来たんですかっ!」
そう言って大きな声を上げて現れたのは――
「……クリス、いつの間に子沢山の母親になったんだ?」
赤ん坊を背負って、両腕を二歳から五歳くらいの五人に引っ張られるクリスの姿だった。
「なってませんよ! あ、ごめんね、泣かないでね」
クリスが大きな声を上げたので背中の赤ん坊が泣きだしたので、クリスは泣きそうになりながら子供をあやしていた。
感想欄での誤字指摘ありがとうございます。
木曜日に全て修正させていただきます。
ちょっと今日明日はパソコンあまりいじれないので。




