ルシルとのデート
ルシルとの話し合いは終わり、俺はベッドで寝ることにした。
ちょっと硬めのベッドだが、どのみち俺は眠れないのだから、今はそれはあまり関係ないだろう。
まさか、ルシルが俺の為に料理作りを断ってくれていたなんてな。
確かに俺は精神的に参っていた。人をこの手で殺めたことを。でも、それで動きを止めれば俺がこうして生きている意味がない。俺ができることは、あんな非人道的な薬を生み出したベリアルを止めること。
それと、ベリアルの目的を把握することだ。
あいつの目的がいまいちよくわからないが、クリスが捜しているジューンが何かを知っている――それは間違いないと思う。
ルシルのために七十二財宝を集めるという目標は変わらないが、ベリアルの真意を探り、奴を倒すというのは他の誰でもない、俺自身の目標になりつつある。
だが、ちょっとだけ我儘を言わせてもらいたい。明日一日休ませて欲しい。
なぜなら――
(デートきたぁぁぁぁぁぁっ!)
あんなあっさり受け入れてくれるとは思わなかった。デートだぞ、デート。
俺の初デートだ!
そりゃ、ルシルとは海に行ったり森に行ったりお出かけはしたことあったし、そもそも今までずっと同棲しているだろ、という話だが、でもそれはコメットちゃんやタラも一緒だったし、ふたりきりなんてことはほとんどない。
「やっべ、緊張してきた」
緊張し過ぎてもう眠れそうにないぞ。
そうだ、デートプラン!
いきなり奇をてらった計画は、成功したときはいいが、失敗した時のダメージが大きすぎる。やっぱり定番コースは外せない。
定番コースと言えば、映画館とか水族館か?
映画館と水族館ってどっちがいいんだ? ってそんなものこんなところにあるわけないだろ!
そうだ、俺がするべきことはふたつ。
俺が意外に得意なところを見せることと、ルシルを楽しませることだ。
……うん、決めた。明日のデートプランはあれで行こう!
※※※
翌朝。
俺とルシルは湖の畔にいた。
「綺麗な湖ね――コーマ、ここで何をするの? 散歩?」
「いんや、これだよ、これ。考えてみれば、俺とルシルの最初の出会いはこれからはじまっただろ?」
と俺は釣竿を二本取り出した。
一本は俺がアイテムクリエイトで作った。リールも糸も疑似餌も含めて全てな。
だが、もう一本は俺が作った物でもなければ、この世界で買ったものでもない。
メイドINジャパンの釣り竿だ。
「そういえばあったわね。でも、この湖に魚なんているの?」
「さぁな。でもいなくてもいいじゃないか。魚を釣るのが目的じゃなくて、ルシルとのデート目的なんだから」
俺は笑って言ったが、この湖に魚が多数生息するのは確認済み。
しかも人間の手が入っていないからか、非常に釣れやすい。いわば入れ食いだ。
「ルシルは俺の作った釣竿を使えよ。細工スキルを駆使して作り上げた巧の一品だからな」
「それじゃあ、そうさせてもらうわ」
ルシルは疑似餌のついた釣竿を振り上げた。
さて、俺も釣り竿のセッティングでもするかな。
「あぁ、ルシル、言っておくが長靴を釣るとか地球を釣るとか、それこそ釣り針を俺にひっかけるとかそういうギャグは――」
「コーマ、何か言った?」
ルシルは八〇センチ級の鯉のような魚を釣り上げて、俺に尋ねた。
普通の女の子なら、「いやぁ、触れない」なんて言うところだけど、ルシルは躊躇せず釣り針を外して釣った魚をバケツの中に入れた。
そうだ、忘れていたがルシルは料理以外に関しては器用なんだよな。いや、料理にしても結果が伴わないだけで手際はプロ級だ。
俺のカッコいいところを見せつつ、ルシルをフォローするつもりだったが、これはウカウカしていたらルシルに負けるぞ。
「そうだ、ルシル。勝負しないか? どっちが多く釣り上げるかで」
俺は釣竿を投げて言った。
「いいわよ。それで、罰ゲームか何かするの?」
「そうだな。勝った方が負けた方にひとつだけ、好きな命令できるとかどうか?」
「……へぇ、コーマ。私に勝てると思ってたの? 私、これでも日本について調べた時、釣り○チ三平を全部見たのよ! リアルタイムで」
「それが放送されていた時、俺まだ生まれてないからどう反応したらいいか困るんだけど……勝負は受けるってことでいいんだな?」
「もちろんよ。ところで、三平のお爺ちゃんが一平だから、お父さんが二平なんだなって勝手に思っていたら、平って名前なんだけど、あれってどういうことなの?」
「だから知らないって!」
こうして俺とルシルの釣り勝負が始まった。
※※※
二時間後。
結果、ルシル27匹。俺、23匹で俺の負けだった。
ちなみに、バケツの中は満員電車状態だったけれど。二人合わせて50匹は釣りすぎだと思うが、
「私の勝ちね」
ルシルがドヤ顔で宣言した。
「ぐっ、ポイントが、ポイントが悪かったんだ」
「見苦しいわよ、コーマ。それじゃあ、コーマへの命令は後で考えるということで――ちなみに、コーマは勝ったら私になんて命令するつもりだったの?」
「……言いたくない」
「もしかして、口に出せないようなことを言う予定だったの?」
「それは誤解だっ! そんな命令をしたら雰囲気が出ないじゃないかっ!」
「雰囲気を作ってコーマが今想像していることをするつもりだったの?」
「……正直に言うと、ルシルに料理を作らせるつもりだった」
俺がそう言うと、ルシルはきょとんとした。
そして――
「コーマ、もしかして私の料理の味が好きに――」
「好きだよ」
「本当!?」
「料理を作っている時のルシルの表情が。料理は一度食べたら二度目が訪れないくらいの味だけどな」
「……はぁ……じゃあ作るけど、でもコーマの依頼なんだから、ちゃんと最後まで食べなさいよ」
「それって、俺への命令か?」
「料理人へのマナーよ」
そして、ルシルは俺に鍋、包丁、まな板。そして味噌や野菜などを要求し、
「魚の味噌スープを作ってあげるわ」
とメニューを伝えた。ルシルは包丁を使って鱗を剥いでいき、はらわたを取ってぶつ切りにした。
手際は相変わらず見事としか言いようがない。
さて、今日はどんな化け物ができることやら。
料理は十分程続いた。
そして――
「……コーマ、できたわよ」
「できたって、お前。それ、明らかに未完成だろ」
「……できたのよ」
「本当にできているのか?」
でも、そこにあるのはどこからどう見ても魚の入った味噌スープだ。
魚の化け物でもなければ、味噌魔人でもない。
「…………」
味噌スープの入った白い器を手に取り、それを飲む。
「……うそ……だろ」
俺は己の舌を――いや、己の体を疑った。
なぜなら、そのミソスープは――
「普通に不味い」




