原住民たちの大ボス
こういうのは、世間一般では絶体絶命って言うんだろうな。
転移陣は何故かこちら側からは移動できないようで使えず、周囲には槍を持った上半身裸、腰蓑のみの男たち二〇人。しかも女の子ふたりをつれて、さらにひとりは非武装。
強行突破しようにも、どこかの遺跡の地下らしく、しかも迷宮のように光ってはいないため、袋小路にでも迷い込めばたちまち逃げ場を失う。
唯一の救いは、
「ドコ、アラワレタ?」
「ナニモノ! アクマ!」
「アクマ! コロセ! アクマ! コロセ!」
カタコトだが、言葉が通じることくらいか。物騒な言葉しか聞こえてこないが。
「ルシル、翻訳魔法が壊れているぞ」
「仕方ないでしょ。ここの人たち、基本言語が一般的に使われている言語と同じなのよ。カタコトになっているのは独自の文化の中で不要な助詞が失われていったみたいね。狩りをするときに一文字が狩りの成果や、それこそ命を左右することってあるでしょ?」
「あぁ、それ、私もわかります。だから、パーティを組む時、符号を改めて決めて、端的な会話にするものですよね。コーマさん、私たちも決めますか?」
「じゃあ、クリスのことはバカって呼ぶことにするよ」
「コーマさん、それは酷いです!」
「コーマ、私たちがバカなことを言っているから、この人たち呆れてるわよ」
ルシルに言われて、俺たちを囲んでいる男たちを見た。
槍を構えたまま止まっている。
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石槍【槍】 レア:★
石と棒と縄で作られた簡素な作りの槍。
人間が最初に作った武器とも言われている。
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実ははじめて見る。
んー、でもこれで狩りをするのは大変そうだな。
確か、この前、槍作りにはまったことがあったからな。
「そうだ。いっぱい槍を作ったからプレゼントするよ」
と俺は銅槍と鉄槍を大量にアイテムバッグから取り出す。
これで仲良くなれるかと思ったんだが、
「ドコ! ダシタ!」
「マホウ! マホウ!」
「アクマ! コロセ!」
アイテムバッグから大量の槍を取り出したことで、どうやら興奮させてしまったらしい。
俺は悪魔の使いじゃありませんからね。
「あぁ、さっきも言ったが、俺たちは敵じゃない」
「コーマ、それ言ったの初めてよ」
「あれ? そうだったっけ? 俺たちは敵じゃないって一番最初に言うセリフなのにまだ誰も言っていなかったのか。あぁ、俺たちは敵じゃない!」
「あ、そうだ。聞いたことがあります。こういう時はみんなでお酒でも飲んで騒いだらいいって冒険者仲間の人が言っていました」
と言ってクリスはアイテムバッグからワインの大瓶を六本取り出した。
「バカ、お前――」
俺はそれが何をするのか直ぐに理解した。
「マホウ! マホウ!」
「アクマ! コロセ!」
「チ! チ、モッテル!」
アイテムバッグからワインの大瓶を取り出したことを魔法と、そしてワインを血と勘違いされたようだ。
「これ、何をやっても無駄じゃないかしら。もう最後の手段で、みんなに私の手料理でも――」
「それは本当に何もかも最後になるからやめろ」
ルシルの料理を食べさせてから、俺がアルティメットポーションで治療してやって感謝される――という手段もあるんだけど、さすがにその考えはマッチポンプすぎて自分でも引く。
「もう、本当に強行突破するしかないか――ん?」
その時、俺は感じた。
「コーマさん、気付きましたか?」
「あぁ、俺たちほどじゃないが、結構強い奴が来るな」
もしもそいつに出口を塞がれでもすれば、全員無傷で脱出は無理――最悪その大ボスを怪我させることになりかねない。
ドシン、ドシンと足音を鳴らしながら近づいてくるその音は段々と近付いてきて、どんな巨漢の男が来るのかと思った。そして、それは顔を出した。
(熊っ!)
巨大な熊の顔が人垣の向こうに現れた。
でも、その熊は人を襲う気配はない。というか――あれ? あの熊――もしかして……既に死んでいる?
そう思っていると――熊が最前列に現れ、
「あれ? お兄さん、こんなところで何をしているのですか?」
そう尋ねた。それは熊ではない。熊をかついだ小さな女の子。
桃色の髪の間から生えた一本の角が特徴の――
「……フーカ? お前こそこんなところで何をしているんだよ」
かつて、俺が勇者試験を受ける時に一緒に行動をした鬼族の娘――フーカがそこにいたのだった。




