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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode13 迷宮事変

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エピローグ

 気が付いたとき、俺の目に映ったのは、魔王城の天井だった。背中には敷布団の感触もある。

 そして、横を見ると銀色の髪の美少女が畳の上に座って、色のついた紙を折っていた。

「……ルシル?」

 俺が声をかけると、彼女は俺に気付いたようで、静かに笑みを浮かべた。

「よかった、コーマ。起きたのね」

 静かな声でそう言うと、俺の頭に乗せられていたタオルを取り、水の入った桶に入れた。

「一体、何が――」

「駄目よ、コーマ。まだ寝ていないと。というか、無茶のしすぎよ。封印解除していないのに長時間竜化したんでしょ? そのせいで、コーマ、ひどいことになってたんだから。アルティメットポーションを飲ませても全然回復しないし」

 ルシルは起き上がろうとする俺を寝かしてそう言うと、桶を持って立ち上がった。

 彼女の後ろには、折り鶴がいくつか散乱していた。

「あぁ、これ。カリーヌがコーマに何かしてあげたいって言うから、ふたりで千羽鶴を折ってたのよ。コメットもさっきまで一緒にいたんだけどね。つきっきりでこのままだと倒れちゃいそうだから、休ませてるの。ちゃんと明日の朝にはお礼を言いなさいよ」

「……俺、どのくらい寝ていたんだ?」

「一週間よ」

 一週間?

 あれから一週間も経っているのか。

「……はぁ、まぁ静かに寝ていなさいってだけ言うのも無理な話だから、何があったのかだけ話すわね。コーマと通信イヤリングが繋がらなくなった原因は、外部からの力が原因みたい。他にも映像受信器と映像送信器も使えなくなっていたわ。今は解除されているから普通に使えるわよ」

「誰の仕業だ?」

「それはわからないけど……でも今度同じことをされたら私が解除するから大丈夫よ。時間はかかったけど解析はできているから」

 ルシルは笑顔で言った。

 そして、その後語ったのは、サイルマル王国の兵たちの治療は無事に終わった。

 催眠状態にある間の記憶はないらしく、ルシルが作った薬によって完治した後、地上に戻った。

 エリエールとイシズは、ルシルが助けに入る前に自力で回復し、地上に戻っていった。

 タラが情報を入手するために地上に行ったときは既に両国の兵はラビスシティーから撤退した後だった。

「それとクリスも無事よ。迷宮の転移陣もすでに使えるようになっているから。今はタラと一緒にユーリのところに行っているわね。うちの迷宮も冒険者たちが入ってくるようになったし。クリスの元にサイモンって男から手紙が来てね、マユは無事みたい。マユ直筆の手紙で、暫く留守にするけど心配しないようにって書いてあったわ。私が話すのはこんなところかしら。じゃあ、コーマはもう少し寝ていなさいよ。早く元気になって、私の料理を食べてよね」

「あぁ、約束だからな」

 俺は自嘲気味に笑った。元気になったとたんに重病人になるな、これは。

 そして、タオルを冷やすための水を捨てに行こうとするルシルを呼び止めた。

「ルシル、一番肝心なことを俺は聞いていない」

「ねぇ、コーマ。もう話は終わりにしない?」

「俺は……俺は何人殺した?」

「コーマは人間は誰も殺していない。コーマが殺したのは全員魔物だったの。放っていたら全員死んでいた。ううん、放っていたら多くの人を殺していたの」

「全員助けられる人間だった。俺がバカなことをしなかったら、タラが――いや、お前が助けられた」

 薬は完成していた。

 俺がエリエールのことを信じていれば。

「ルシル! 俺は、一体――一体、何人殺したんだ!?」

「……タラが言うには、サイルマル王国の兵の犠牲者の数は三百二十八名だそうよ」

「………………三百二十八」

 その想像以上の数字に、俺の体から力が抜けた。

 何やってるんだよ、俺。

 俺がしたかったことってこんなことだったのかよ。

 涙が止まらない。泣く資格なんてあるはずないのに。

「……コーマ。お願いだからゆっくり休んでね。今後のことについて、またみんなで話し合いましょ」

 ルシルはそう言うと、桶を持って部屋を――魔王城会議室を出ていった。


   ※※※


「へぇ、迷宮の地下にこんな空間があったなんてね」

 僕はクリスに案内され、水飲み場だった場所の奥にいた。

「マネットさん、足元気をつけてくださいね」

「わかってるよ。クリスこそ気をつけろよ。そんな胸じゃ足下も見えないだろ」

「もう、マネットさん、それはセクハラですよ」

「さっきから僕のことを何度も踏んでいるそれは傷害罪だよ」

「仕方ないじゃないですか。マネットさんが小さいから見えないんですよ」

 じゃあ、見える位置まで距離をとればいいじゃないか。この頭の悪い勇者はそんなことまでもわからないのだろうか?

 コーマの苦労が身に染みてわかる。

 でも、妙な空間だ。

 妙に気配が澄んでいる。魔物の気配がまるでしない。

「この先にスライムがいたっていう話だけど――」

「はい、この先です……あれ?」

 と、クリスは通路の途中にある部屋を見て首を傾げた。

「どうした?」

「こんなところに部屋なんてなかったような気がするんですが」

 クリスが言う部屋とは、六畳分くらいの小さな部屋だ。

「気のせいじゃない? 何の変哲もない空き部屋だからいちいち注意なんてしていなかったんだろ」

「……そうかもしれませんね」

 クリスは気を取り直すように、もう振り返ることもなく前に進む。

 そして、彼女の言う通りのことが起きた。

 スライムらしき魔物が現れたのだ。

 それはこちらに気付いているのか気付いていないのかはわからないが、まっすぐ奥へと去っていった。

「ほら、見てください、マネットく……さん! いましたよ、スライムが」

「本当にいたね。クリスが僕のことを君付けで呼ぼうとしたのも忘れそうになるくらい。僕の方が年上なんだから、ちゃんと礼節を持って接してよね。で、半信半疑だったけど、間違いないよ」

「はい、間違いなくスライム――」

「じゃないよ。あれはスライムじゃない」

「……え?」

「スライムには、かならずスライムの核がある。コーマが作ったスライムにも、迷宮の中に自然発生するスライムにもね。でも、あれにはその核がない」

「……あ、本当ですね」

 クリスはようやく気付いたようだ。

 もちろん、スライムの核はスライムにとっては弱点でもあり、それを隠すようにしているスライムも多いが、あれはそうじゃない。そもそも、あれは魔物ですらない。

「じゃあ、あれは何なんですか?」

「あれはたぶん、瘴気の塊だと思う」

「瘴気――? って、魔物の元ですよね」

「うん。瘴気が集まれば魔物が生まれる。でも、あれは魔物になっていない。だから僕は半信半疑だって言ったんだ」

 僕は思った。

 あの瘴気は、もう瘴気と呼ぶことはできないだろうと。

 完全に浄化されているからだ。

 あの状態だと魔物として生まれることはできない。

「あ、マネットさん。見えてきましたよ。穴です!」

「うん、僕にも見えるよ」

 そして、さっきの浄化された瘴気の塊は、迷うことなく穴の中に飛び込んだ。

 穴の淵まで近付き、下を覗くと、少し寒気がした。

 穴の底がまるで見えない。

「…………そんな」

「いや、覚悟はしていた。おかしいと思っていた」

 クリスが驚き、僕は持論が正しかったと思った。

 妙なのだ。あれだけの戦いがあって、どうして迷宮の魔物が増えないのかと。

 多くの人が死ねば瘴気が生まれ、新たな魔物が生まれる。瘴気が濃ければ強い魔物が生まれる。

 なのに、僕たちの迷宮にはスライムしか生まれない。そして、数も増えない。

 その理由をずっと考えていた。

「瘴気は浄化され、ここに集まっていたんだ」


 僕たちの視線の先、穴の奥には大量の浄化された瘴気の塊が犇めいていた。

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