血とともに進む魔王
エリエールを倒した俺は、ただひたすらに地下へと進んでいく。
俺が最終防衛ラインと定めた場所も通過していた。
このあたりを防衛させていたスライムもゴーレムたちもいない。倒されたのか、ルシルが避難させたのかはわからない。
だが、戦いの痕跡がないのは気になる。
スライムたちを一瞬で倒せるほどの強敵が現れたにせよ、ルシルたちが最終防衛ラインを下げるにしても、何かあったのは間違いないだろう。
「……ちっ」
舌打ちし、俺はさらに地下を目指す。
そして、百階層でそいつらを見つけた。
「……サイルマル王国の兵」
30歳くらいの男四人が、百階層のボス部屋でじっと待っていた。
そして、俺が近付くと、男たちの皮膚が融けていき、化け物のような姿になる。
俺の細胞に反応したのだろう。
(こいつらは人間じゃない)
俺はそう自分に言い聞かせた。
もう躊躇している余裕はない。こんなところまで侵入されたという事実が俺の焦りを強くする。
竜化した俺は、エクスカリバーで四人の男――いや、四体の化け物を一刀両断にして斬り伏せた。本物のリッチよりも遥かに弱い。
「………………くっ」
震える右腕を左手で押さえつける。
魔物は今まで何体も殺してきた。それと同じじゃないか。
そもそも、俺が人を殺したのは初めてじゃない。200階層に連れ込んだ男が化け物になったときも殺したし、直接手を下していなくても、俺たちの迷宮に入り込んだ冒険者たちを部下を使って殺させた。
そう、俺は人を殺してきた。
もうあとには戻れない。
ボス部屋が開く。
俺はさらに前に進んだ。途中で何度もサイルマル王国の兵と出くわした。魔物化するたびに俺はそいつらを殺した。中には魔物化する予兆があり、体が崩れ落ちる前に殺した。せめて人の姿のうちに殺してやろうと思った。そうして殺した奴等の死体はそのまま迷宮に残る。返り血も消えない。
でも、俺は地下に降り続けた。
殺した数を数えるのをやめた。サイルマル王国の兵の数は1000人らしい。少なくとも三桁の相手を殺しているだろう。
人を止め、化け物へと姿を変えたサイルマル王国の兵を倒していく。
「違う」
俺は剣を振るった。
「違う」
返り血が目に入った。
「違う!」
俺は前に突き進む。
違う。
人を止めた化け物を倒しているんじゃない。
「俺自身が人を止めた化け物だ」
今、自分の目から流れているのが涙なのか血なのかわからない。
気が付いたら、俺はボス部屋の真ん中に立ち尽くしていた。まるで池のように広がる血の中で。
ここが何階層なのかもわからない。
【壊せ、壊せ、壊せ、壊せ】
俺の中の破壊衝動が強くなる。止まれと思っても止まらない。
制御率は99パーセントから40パーセントにまで下がっていた。ここまで来ると狂気で頭がおかしくなる。
そうなる前に、急いでいかないといけない。
そう思ったところで、誰かが階段を駆け上がってくる。
いったい、誰が?
いや、誰でも構わない。
この先にいるのは全員敵だ。
俺は剣を構え、そいつに飛びかかるが、
「主っ!」
その声に俺はその場に倒れる。倒れることで動きを止めた。
と同時に、俺の姿が人間のものへと変わる。
「……主、御無事ですか?」
「タラ……お前、こっちに戻れていたのか」
「はい。主がベリアルの影を倒した時に――その後、急に通信イヤリングが使えなくなったとルシル様は仰っていました」
「ルシルは無事なのか?」
「はい。サイルマル王国の兵の魔物化を止める薬を完成させました。ここより下の階層にいる兵にはその薬を打ち、全員監禁しています。催眠状態もあと一日ほどしたら解けるそうですからそれから地上に戻す手筈です」
「そうか……」
結局、エリエールの言っていた通りだった。
ルシルは無事だった。
俺がしたことは――俺の行為は悪戯に犠牲者を増やしただけってことか。
「何やってるんだよっ! くそっ」
俺が床を叩きつけた。
床にたまった血があたりに飛び散った。
※※※
今回の事件でリーリウム王国の兵の犠牲者は0名。
だが、サイルマル王国の兵の犠牲者は、300名を上回った。




