決死のエリエール
そして、30階層のボス部屋。
そこで俺を待っていたのは――
「…………やっと会えたな」
待っていたのは、サフラン雑貨店の元オーナー、勇者にして、かつてブックメーカーという魔王の座を争ったという彼女――エリエールだった。
「コーマ様とは、もっと違う形で再会したかったです」
ウソか本当か、彼女はそう呟く。それは俺も同じだ。
できることならば、俺はエリエールに殺気などぶつけたくなかった。
「そこをどけ」
「いけません。この先には、サイルマルの兵がいます。それがどういう意味か、あなたはもう御存知でしょう?」
「関係ない。迷宮にここまで侵入した時点で、どっちにしろあいつらは俺の敵だ。そして、エリエール。お前もそこをどかないのなら、俺の敵だ」
と俺はエリエールを睨み付ける。
「なんでベリアルなんかの下で働いているっ!」
「それは――仕方がなかったのです」
「理由を話せ!」
「……言えません」
こいつもか。一体、エリエールとリーリエ。こいつらに何が起きているんだ。
でも――
「エリエール。俺に勝てると思っているのか?」
「勝つ必要はありません。時間だけを稼がせていただきます」
「……時間稼ぎが目的だというのなら、これ以上の会話は不要だ」
エクスカリバーを抜くと、エリエールもレイピアを抜いた。
中々の業物だが――
「当たらなければ意味はないだろ」
俺はエリエールの足の腱を切った。
血飛沫が飛び、エリエールはその場に力なく倒れる。
「悪いな。でも、ここには魔物も出ない。全部終わったら治療してやるよ」
「……その必要はありません」
「なっ」
エリエールがゆっくりと二本の足で立った。足の腱は切り裂いたはずなのに。立ち上がることなんてできるはずないのに。
イシズの時とは違う。たしかに手ごたえはあった。
なのに、なんで……?
薬でも隠し持っていたのか? でも、飲む時間なんてなかっただろ。
「コーマ様、お願いです。退いてください。ルチミナ・シフィル様には危害は加えないと約束します」
「悪いが信用できない。それがお前の本心だったとしても、ベリアルが裏で糸を引いている以上、お前の知らない何かがあるかもしれない」
「それも含め、あの時、私とコーマ様がはじめて会ったあの日の言葉が少しでも真実だったのだとしたら、お願いですから私を信じてください。」
悲痛の思いでエリエールは訴えた。
「……悪いな、何を言ったかなんて、そんなこと。もう忘れちまったよ」
「……そうですか」
エリエールは俺から目を背けて俯いた。
自分で言っていて、それが本当か嘘か、俺にはわからない。
彼女との最初の出会いを覚えているかどうかわからない。
できるだけ彼女の言っている俺自身を、俺は思い出さないようにしていた。
エリエールとの思い出を掘り起こせば俺はこいつを倒せなくなってしまうから。
「行くぞ――」
と俺はエリエールを封じるべく、剣を振るって振るって振るった。
※※※
なんだ、一体、どんなトリックだ。
エリエールに何度も剣戟を浴びせた。
そのたびに明らかに傷は開いているし、エリエールからも苦痛の表情は浮かんでいる。
なのに、なんで起き上がれる?
なんで怪我が一瞬にして治るんだ?
体の中に薬でも仕込んでいるんじゃないかと思ったが、薬を仕込むと言っても限度があるだろ?
回数制限がない回復アイテムがあるっていうのか?
大天使スライムのようなものが。
(………………まさか)
その時、俺が思い浮かんだのは、あのアイテムだった。
しかし、あれを一体どこに隠すっていうんだ?
あれを隠せる場所なんてどこにも――長さだって――いや、
(一カ所だけある……か)
あそこに隠しているのだとすれば、俺はどうすることもできない。
俺はエクスカリバーをアイテムバッグに入れ、別の剣を抜く。
「……エリエール、顔色が悪いな。最後の忠告だ。ここを去る気はないか?」
「ありません」
「そうか――」
俺はそう言うと、その剣を振るう。
エリエールの胴体に――剣は今までで一番深く、それこそ肋骨の向こう側にまで届き――そこで俺は彼女の秘密に気付いた。
明日、アイテムコレクター関連の重大発表……というほどでもないか。えっと、重大の逆……
軽小発表があります。




