人からの離別
俺は剣をその場に捨て、それを取り出した。
毎度おなじみ、
「万能粘土っ!」
と大量の粘土を取り出す。
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万能粘土【魔道具】 レア:★★
鉄と石の混合素材。少量の魔力を込めることで変形する。
夏休みの自由工作にぜひ使いたい一品だ。
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魔力を通わせることで硬くなったり柔らかくなったりする魔道具だ。
「粘土などを取り出して、何に使うつもりですかっ!」
「決まってるだろ! 粘土といえば、くっつけるんだよ!」
俺はそう言うと、魔力を通わせ、イシズの剣へと粘土を伸ばした。
粘土が剣に絡みつき、固まった。
だが、こんなもの、壁に叩きつけられたら、一瞬にして砕けてしまう。いくら丈夫な万能粘土でも、イシズの剣を振るう力と迷宮の壁の耐久性があれば簡単だろう。
だが――
「…………………………」
「……動けないよな? そりゃ動けないよな」
俺の万能粘土は、十六本全ての剣に絡みついて固まっていた。
「どうした? イシズ。今の俺は結構隙だらけだと思うけど、別の武器で戦わないのか? この剣じゃないと戦えないのか?」
「…………くっ」
イシズが奥歯を噛みしめるような表情を浮かべた。
イシズは動かない。体術も使ってこない。
「最初に思ったのは、どうしてイシズが俺に、自分がカリアナの出身であることをわざわざ伝えたのかだったよ。まんまとやられた。分身の術を使ったとみせかけて、お前は分身なんてしていなかった。最初から十六人いたんだ」
もちろん、十六つ子というオチではない。そっくりさん十六人集合だとか、シルフィアゴーレムみたいに人工的に作られた存在とか、そういうオチでもない。
「本物は、剣だけだったんだな」
剣以外は全部偽物だった。
俺はイシズと戦っていたんじゃない。十六本の剣と戦っていたんだ。
そして、その剣には、幻影を生み出す力があり、イシズの体は幻影だったというわけだ。
恐らく、イシズ本人は俺が幻影と戦っている間にどこかに避難したのだろう。
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幻影刀【魔剣】 レア:★×8
術者の寿命を吸い、術者の幻影を生み出して動く妖刀。
一度に一年の寿命を吸い出し、一日だけ動く。
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……なんて物騒なものを使ってるんだ、こいつは。
「お前、十六本使ったということは、十六年の寿命を失ったのか?」
「十六年くらい、リーリエ様の苦痛に比べれば安いものです」
その声は背後から聞こえてきた。
遅れて、俺の背に激痛が走った。
「……ぐっ」
俺は背中の脇差を握り、振り向く。
そこにいたのは、手を血で汚したイシズだった。
剣の幻影を作る時、彼女ひとり部屋の外に避難し、気配を消していたのだろう。
「俺の索敵にもひっかからないとは――」
「忍びだというのは本当ですからね――でも、私には力不足だったようです……竜をも気絶させる毒なのですが」
「悪いな。俺には普通の毒は効かない」
普段から猛毒を摂取している俺は、いつの間にか普通の毒は効かなくなった。
イシズ――お前にはお前の正義があるんだろう。
おそらく、リーリエにもリーリエの事情があるんだろう。
だが――
「俺は俺のエゴを貫く。俺は正義に従わない」
そう言って、彼女を蹴り飛ばした。
ボス部屋の外に飛ばされ、壁に打ち付けられた彼女が気を失う――と、幻影刀の幻影が消え失せ、粘土と刀だけが残った。
そして、ボス部屋の扉が開く。
「……お前やジョーカーが俺を止めようとしたこと、少しはわかるつもりだ。でも悪いな。俺はもう――」
俺は決意を込め、ボス部屋を一歩出た。
「人間をやめる」




