謎の男との交渉
「本当に忘れたのかよ、コーマ。俺だよ、俺!」
焦って「俺、俺」と言い出す男を見て、俺はようやく気付いた。そうか、そういうことだったのか。
「まさか、こんなところにまでいるとは思わなかったぞ」
「こんなところにいるとは思わなかったって、俺とお前が最初に出会ったのも――」
「オレオレ詐欺がこんなところにまで出没しているとは!」
「なんだ、その詐欺は。というか、コーマ、本気で俺が誰だか忘れたのか? これでもコーマにとってはかなりの恩人のはずだろ?」
はて? 本当になんのことだかさっぱり忘れない。
怒りが冷めてしまったせいで、竜化もすっかり解除されてしまった。
「ジョーカーか!」
「思い出したのか!?」
「いや、さっぱりだ。さっきお前が名乗ったんだろ?」
「…………はぁ……コーマ。お前が去年、勇者試験を受けに行った時の事、覚えてるか? 数秒遅れで受けられなかっただろ」
「そんなことまで調べ上げたのか。さてはお前――」
「ストーカーじゃないからなっ!」
「じゃあ、なんで知ってるんだよ」
「その時、お前の横にいただろ! お前が勇者試験を受けたいって言ったから道を案内してやったギルド員」
「…………」
俺は記憶の深淵を探っていく。
たしかに、あの時、俺一人の力でギルドにたどり着いたわけではない。誰かの案内があったはずだ。
それは――
「思い出した!」
「やっと思い出したか!?」
「ジョークかっ!」
「ジョーカーだっ! さっき名乗っただろう!」
ジョーカーが叫んだ。
そうだそうだ、思い出した。
「って、なんでベストオブザモブのお前がこんな場面にいるんだよ。いいからそこを通せ」
そう言ったとき、ジョーカーが杖代わりに使っていた長い棒を俺に向けた。
その棒には穴が開いていて――
「その顔――そうか。お前、これが何なのかわかるのか?」
「あぁ、ふたつの意味でわかる」
鑑定を使ってもわかるし、鑑定を使わなくてもわかる。
……………………………………………………
魔導銃【特殊部位】 レア:★×5
魔力の振動の力を利用し、中に入れた弾丸を飛ばす武器。
銃身の長さによって呼び名が変わってくる。
……………………………………………………
つまり、それは銃だった。
「ショットガンって言う。ここから飛び出す玉の威力は矢の比じゃない。俺は普通の人間だからよ、こんなものに頼らないとお前たちみたいな化け物の相手はできないんだ」
ジョーカーは笑いながらそう言った。
「おっと、化け物といっても、強さがそうって言っているだけで、コーマ、お前自身は俺は好きなんだぜ? フリーマーケットのオーナーなんだろ?」
そこまで知っていたのか。
「元、だけどな」
「いいよな。あんな可愛い子に囲まれてチヤホヤされて。男の夢だぜ」
「俺はお前と雑談している暇はない。そこを通してくれ」
俺がそう言うと、ジョーカーは反対の手に持つショットガンを撃った。俺の足下へ。
銃弾が地面にめり込む。迷宮の床も表面は土だからな。
(速くてほとんど見えなかった)
「速度は一秒で四百メートル。遠くならば当てるのは難しいが、こんなに近ければ外さない。さっきも言ったが、俺はお前が嫌いじゃない。だから帰れ」
「帰れない。帰らない。俺を待ってるんだ」
「そうなのか? それは俺も詳しくは聞いていないが、でも聞いていることもある。お前がこの先に行けば、サイルマル王国の兵が死ぬそうだ。だから止めろって言われている」
「……誰に?」
「それは言えない。言ったら半殺しにされるからな」
ジョーカーは苦笑する。
「ただ、コーマの敵じゃない。それだけは言っておく。俺がここでお前を足止めするのはコーマのためになるってあの人は言っていた」
「そんな言葉を信じられるわけがないだろ?」
ルシルを助けにいかないといけない。
仮にその人の言葉が全て事実だとしても、そこにルシルの安全の保障はどこにもない。
俺の身が無事でも、ルシルが死んでしまったらなんの意味もない。
「ジョーカー。ここを通してくれたら、いくらでも金をやる。お前、結構金に困ってただろ?」
かなりのピンチのせいで、過去の記憶が蘇ってきた。
たしか、俺がコーリーだったとき、ジョーカーは買い物をするのにも随分と金に困っていた。
「……いくらだ?」
よし、乗ってきた。
「いくらでも。とりあえず、即金で金貨500枚」
と俺が言った。
それに、ジョークの顔に迷いが生じた。が……
「ダメだ。やっぱりダメだ。あの人には逆らえない」
ダメか。じゃあ、次の手段だ。
「フリーマーケットのみんなと合コンをセッティングしてやる。それで俺はお前を持ち上げる。心の底から持ち上げる。金と元オーナーからの信頼。ふたつが揃えばお前はモテモテだ。顔だってもともと悪くないんだし」
「ぐあっ、コーマ、それはずるい。だが――」
「……わかった。最後の手段だ。コーリーのパンツをやる!」
「なっ、コーリーちゃんの!? あの幻の一日美少女のパンツだと! くぅぅぅ――」
本当に悩んでいるのだろう。ジョークが床に倒れて考え込む。
そして――
「隙だらけだ」
俺はジョークの頭をぶん殴った。
「悪いな……ジョーク」
俺はジョークに謝った。
「……俺は……ジョーカーだ」
そんな呟きとともに完全に意識を失った。
ジョークが俺を止めようとした理由はわかる。
サイルマル王国の兵は俺と接触したら魔物化する。
そんなことになったら、サイルマル王国の兵だけではない、リーリウム王国の兵にも危険が及ぶ。
でも――
「俺の中でやっぱり一番大事なのは――」
宝箱をずらし、隠された入口の穴に俺は入っていった。




