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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode13 迷宮事変

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閑話「ルシルへのプレゼント(後編)」

 アラクネか。そういえば、会ったことないな。

 名前だけは聞いていたんだけど、どんな魔物か知らないな。

「コーマさん、アラクネを探すんですか?」

「あぁ。知ってるのか?」

「はい。アラクネは上半身が人間の女性、下半身が蜘蛛足の魔物です」

「上半身が人間で下半身が魔物か。まるでマユみたいだな」

 今の話を聞いたら、きっとマユは怒っただろうな。

 ん?

「上半身が人間の女性ってことは、もしかして、そういうマニアが高く買ったりするのか?」

「……あぁ、いますね。でも、コーマさんは関わらないほうがいいですよ。ドリアードや、メデューサやマーメイドもそういう好事家は集めているそうですから……」

「そういうの、正義マンのクリスは放っておかないと思ったけれど」

「マンじゃないですよ。それに……私も、昔は魔物は悪だと決めつけている時期がありましたから……それはなんとも言えませんね。私が殺した魔物たちの中にも、本当はいい魔物がいたのかもしれません」

「それは気にしたらダメだと思うぞ。少なくとも迷宮の中だとその一瞬の迷いが死に繋がるからな。あ、でも俺の迷宮の奴等は全員いい奴等だから傷つけるなよ」

 俺もそのあたりは割り切っている。いや、割り切らざるを得ない。

 俺にとって守るべきものは自分とその身内なんだから。

「クリス、アラクネはどのあたりに出るか知っているのか?」

「調査団の調べによると、地下20階層あたりですね。滅多に出ないそうですけど」

「地下20階層か。結構面倒だな」

 エレベーターとかないか?

 と思ったら、足に何かがくっつく。

「なんだ、これ――」

「蜘蛛の糸です。コーマさん、あんまり暴れたらっ!」

 クリスの注意は手遅れだった。糸に獲物が捕まったと思ったのだろう。

 小型犬くらいの大きさの蜘蛛が集まってきた。

火炎球ファイヤボール!」

 俺が炎の玉をぶちまけると、蜘蛛たちは、本当に蜘蛛の子を散らすように去っていった。

 ふっ、余裕だ。

「アイテムクリエイト!」

 足にくっついた糸を、そのまま道具へと変える。これにより、足が自由になった。

「よし、じゃあ行くか」

「コーマさん、行くのはいいんですけど、なんでアイテムクリエイトで作るのがパンツなんですか?」

「は? 何を言っているんだ。魔蜘蛛の糸と言ったらパンツだろうが」

 クリスの奴、何を言っているんだよ。

 常識だろうが。

 そして、俺は20階層へと向かった。


 そこで見たのは――

「んー! んー!」

 女性のもののようなうめき声が聞こえてきた。

 ただし、それは人間のものではない。

 悲鳴をあげていたのは、アラクネだった。


 コメットちゃんとプチ似の女の子の上半身(胸だけは糸で隠している)、蜘蛛足のアラクネだ。

 

 糸を吐き出すことができる口を猿轡で塞がれ、足も全て縄でくくられている。

「兄貴、やりましたね」

「ああ、迷宮に忍び込んだかいがあったぜ。でも、こんな気持ち悪い蜘蛛が金貨三枚で売れるとはな」

 そう言って男はアラクネの足を踏む。

「ん――んーーーー!!」

 アラクネが悲鳴をあげた。

「待ちなさい! ここは勇者以外立ち入り禁止のはずですよっ!」

 クリスが飛び出す。

「女ひとりで俺たち三人に敵うと思うなっ!」

 おいおい、俺のことが数に入っていないんだが。

 でも、まぁ俺の出番はないか。


 一瞬にしてクリスは男三人をのしてしまう。


「コーマさん、それでは私はこの三人を連行しますから、コーマさんは彼女のことをよろしくお願いします」

「あぁ、わかったよ」


 男三人を縄で縛り、引きずって連行していくクリスを見送り、俺はアラクネを見た。

 涙を浮かべて怯えている。


「あ……言葉は通じるか?」


 と尋ねたが、何も返事がない。首を振ることもない。

 となれば、これの出番だな。


 俺は友好の指輪を取り出した。


『俺の声が聞こえるか?』


 念をアラクネに送る。


『え? 声が聞こえる……』

『俺の声だ。アラクネ、今から縄を解くけど、俺を襲わないと約束してくれるか?』

『ひ……ひどいことしないんですか?』

『まぁ……な。お前が俺の友達に似てるし、俺も知り合いに魔物はいるからさ。襲わないでくれるって約束してくれるか?』

『はい、助けてくれるのなら絶対に襲いません』


 アラクネから感謝の感情が流れ込んでくる

 相手の心を読む友好の指輪。これを使えばこいつが嘘をついているのかどうかもよくわかる。

 俺が猿轡と縄を解いてやると、アラクネは本当に感謝するように何度も頭を下げた。


『ありがとうございました。あの……私と話せるということは、あなたも魔物なのですか?』

『あぁ、似たようなものだな――』


 最近は、本当に自分が人間だという自信が無くなっている。


『でも、俺も半分くらいは人間だから、謝らせてもらうよ。人間が悪いことをしたな』

『いえ、私たちも自分を守るために人間を襲っていますから』

『そう言ってもらえると助かるよ……ところで、ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?』

『はい、なんでしょう?』


   ※※※


「ということがあってな、魔蜘蛛の虹糸を集めてきたんだ」

「うん、それで?」

 ルシルが嘆息混じりに尋ねた。

「だから、受け取って貰えると助かる」

「うん……受け取るけど、コーマ。洋服を送ってくれるんじゃなかったの?」

「いや、でもさ」

 俺は彼女にプレゼントの入った透明のケースを渡していう。

「やっぱり、虹色だろうがそうでなかろうが、魔蜘蛛の糸で作るならパンツだろ」

 と、俺はルシルに魔蜘蛛の虹糸パンツを贈ったのだった。


 洗濯担当のコメットちゃんが言うには、たまに履いてくれているそうだ。

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