閑話「ルシルへのプレゼント(前編)」
ちょっと締め切り前でバタバタしているので、今日と明日は、前に作った閑話になります。
ご了承ください。本編は明後日からになります。
閑話「ルシルへのプレゼント」
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【ルシルの生態調査、報告書】
個体名:ルチミナ・シフィル
学名:クッキングモンスター
年齢:二七〇一歳?
血液型:不明
誕生日:不明
身長:可変
体重:可変
3サイズ:可変
座右の銘:料理は愛情。
タタミの上で転がるのが好き。
寝転がっているのは、とにかく動くのが面倒。
甘い物を食べるのが好き。
ただし、食事は必須ではない。
トイレなどの排泄作業はしない。
寝る必要はないのに、たまに涎を垂らして寝ている。
料理をするのが好き。
料理が魔物化する。
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「……うーん」
自作のルシル生態調査の報告書を見て、俺は嘆息を漏らす。
ルシルにプレゼントを贈りたいと思っていた。
だが、何を送ったらいいか? 喜ぶのはパフェだろう。俺が作ったパフェを、ルシルは絶対に喜んでくれる。特に料理スキルを駆使すれば、ルシルが泣いて喜ぶ極上スイーツが完成するだろう。
だが、どうせなら形に残るものを送りたい。
でも、ルシルって装飾品とかあんまり着けないんだよな。通信イヤリングは義務として着けている感じがあるし。正直、彼女の銀色の髪の毛は天女の羽衣よりも美しく、真紅の瞳が世界中のどんな宝石よりも美しいと思うし……て自分で言っていて恥ずかしくなるな。
俺、なんだかんだ言ってルシルのことが好き過ぎるだろ。
「コーマ様。何を悩んでいらっしゃるんですか?」
悩んで歩いていると、洗濯物を取り入れたコメットちゃんが通りがかった。
「ん? コメットちゃんか。えっと、女の子ってどんなものを貰ったら嬉しいのかな? って思ってさ」
「え!? プレゼントですか!?」
コメットちゃんの耳がピクピク動く。
「うん。アクセサリとか装飾品はないなって思って、かといって食べ物みたいな形に残らないものよりは、形に残るものがいいかなって」
「そうですね、洋服とか……」
「洋服か……」
そう言えば、ルシルは着たきり雀みたいなところがあるからな。
それはいいかもしれない。
裁縫スキルを持っているし、俺ならばルシルに合う服を作れるんじゃないか?
よし、そうと決まれば素材集めからだ。
ルシルの服や下着は、魔蜘蛛糸を使った高級な服だが、実はその上位の素材である魔蜘蛛虹糸という糸がある。
まずはそれを取りに行こう。
幸い、魔蜘蛛が大量に出現する迷宮が去年発見されたそうだし、ちょうどいい。行ってみるか。
※※※
「ということでクリス。今日は魔蜘蛛退治だ!」
「……はぁ……この迷宮、蜘蛛の巣だらけで嫌なんですよねぇ」
クリスは乗り気じゃないようだ。
「あれ? クリス、この迷宮に来たことがあるのか?」
クリスと一緒に冒険するようになってから、ほとんど一緒にいたけれど、俺はここに来るのははじめてだ。
「え? あぁ、はい。前に一度、友達と来た事があるんですよ」
「えっ!? クリスって友達いたのか!?」
「なんでそっちのほうが驚くんですか。普通にいますよ!」
「そうか。あのひとりぼっちだったクリスがなぁ」
「元ぼっちじゃないです!」
「ひとりで武器屋の親父さんに土下座していたクリスがなぁ」
「その節はお世話になりました……そして、そのことは忘れてください」
クリスがとても嫌そうに言った。
あんな面白いこと、そう簡単に忘れるわけないだろうに。
「でも、コーマさん。魔蜘蛛の虹糸玉はそう簡単には見つかりませんよ。私の友達もかなり苦労していたみたいですし」
そりゃそうだろう。そう簡単に見つかる素材なら、高価な素材として扱われない。
「普通に採取する分にはな。でも、俺は別に魔物ドロップに頼らなくてもいいだろ」
「……え? どういうことですか?」
「魔蜘蛛の虹糸を吐くという魔物――アラクネを見つけ出し、糸を吐き出させ、それを使って服を作ればいいんだよ!」




