ルッピナの花守り
ルシルと連絡が繋がらない。
何があったのではないか?
「ルシル! 聞こえたら連絡してくれ! コメットちゃんっ! タラっ!」
通信イヤリングを渡した他のメンバーに連絡を取ろうとするが、やはり通じない。
俺は後ろを向き、そこにいるクリスの通信イヤリングに連絡を取る。
「なんですか?」
「クリス、取ってくれ。俺の通信イヤリングが今の戦いで壊れた――可能性があるからな」
「わかりました」
クリスはそう言って、通信イヤリングを手に取り、
「『コーマさん、聞こえますか?』」
聞こえる。通信イヤリングから、しっかりクリスの声が。
「クリスっ! この遺跡からラビスシティーまで走れば――」
「最低三日はかかります。リーリウム王国からも遠いですし」
「それなら、持ち運び転移陣でリーリウム王国の隠し扉――いや、あそこはもう敵地に等しいからな。それなら、カリアナに飛んだ方が――」
それでも走って何日かかる?
くそっ――
持ち運び転移陣の上に乗り、転移石を持って魔王城に戻ろうとしてもやはり弾かれる。
何か――何かないか?
転移できる場所が。
マユを攫ったのは、俺を倒すための罠だったのではない。俺を孤立させる作戦だったのかもしれない。
タラに散々忠告されたのに、この様か。
自分が――自分が何をよりも憎らしい。
「コーマさんっ! 封印が解けかかっています!」
俺への怒りで、封印が解けかかっている。表皮から鱗が生えてくる。
落ち着けと思えば思うほど、落ち着いている場合じゃないという焦りが己への怒りになる。
「……転移陣。ラビスシティーの近くにないか。どこか――どこか――」
あった!
ひとつだけ、あったじゃないかっ!
俺は通信イヤリングを使った。
「メイベル! 聞こえるかっ! メイベルっ!」
『コーマ様、どうなさったのですか?』
「今、店にいるのか? いるなら倉庫に行ってくれ!」
俺が叫ぶ。
『いま、倉庫にいるのですが――』
「そうか、それなら、丁度いい。倉庫の照明用のスイッチがあるだろ? その左右に黄色いでっぱりがあるはずだ」
『はい、あります』
「それを持って上にスライドさせてくれ」
『え? ……こんなボタンがあったのですか?』
「ああ、青か緑……たぶん青いスイッチがあると思うんだけど」
『はい、青いスイッチがあります。これをどうす』
「押してくれ!」
メイベルの言葉を遮るように俺が言った。
焦るなと思えば思うほど、焦ってしまう。破壊衝動が強くなる。
「これで床を剥がす準備ができた。メイベル、どこでもいい、四隅のタイルの上に乗ってくれ。今ボタンを押したのなら、きっと前のタイルにでっぱりができたはずだ」
『はい――』
「それを持って床を持ち上げてくれ」
『わかりました』
通信イヤリングからメイベルが一生懸命床を上げようとする息遣いが聞こえて来た。
がんばってくれている。にもかかわらず、俺は早くしろと思ってしまう。イライラする。
『上げました』
「上げたのなら、その下にある紙をひっくり返して、床に置き、その数字を読み上げてくれ」
『ひっくり返しました――何、これ、魔法陣?』
「いいから、早く頼むっ!」
『二十六です』
俺が叫ぶと、メイベルがその数字を読み上げた。それを聞き、俺は持ち運び転移陣の上に乗った。
フリーマーケットの倉庫には空き巣を転送するための転移陣が描かれた紙が敷き詰められている。
普段は裏返して床の下に敷き、転移できないようにしていが、いま、メイベルに言った手順で床を剥がし、転移陣の紙をひっくり返すと普通に転移陣として使えるようにしていた。
「クリスは転移陣が回復してからこい」
「え、ちょっと、コーマさん、その姿のまま――」
クリスが何か言おうとしたが、俺はそれを無視し、持ち運び転移陣へと飛び込んだ。
そして、俺はフリーマーケットの倉庫に転移することができた。
やっぱり、迷宮じゃないからここに転移できたのか。
「きゃぁぁぁっ……え? え?」
そこにいたのはメイベルだった。
メイベルが驚いたように悲鳴を上げ、俺を何度も見る。
「……悪い、驚かした」
「え? もしかして……コーマ様なのですか?」
「……あ」
しまった。怒りのせいで封印が解けているのに、焦りのせいでそのまま移動してしまった。
そして、そのことに気付いたことで、俺の中の怒りが一度霧散し、元の姿に戻った。
「やっぱりコーマ様だったんですね」
「悪い、説明は後だ。俺は急がないといけない」
「待ってください、コーマ様――」
「メイベル、説明は――」
「先日、店で買い取りしたお守りです。どうぞ、これを持っていってください」
そう言ってメイベルが出したのは、巾着のような小さな袋だった。
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ルッピナの花守り【装飾】 レア:★×5
所有者を災厄から一度だけ守ると言われているお守り。
一度効果を発揮すると、中に入っている花が枯れてしまう。
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「いいのか?」
「はい。コーマ様にお渡ししようと、ずっと持っていました」
「そうか……ありがとうな」
俺はルッピナの花守りを首にかけると、裏口からラビスシティーの町に向かった。




