ベリアルが消え、残ったのは――
「俺様は……生きているのか」
虚ろな眼差しで天井を見上げたベリアルが、呟くように言った。
死んだと――いや、気を失うとき、俺に殺されることになると思っていたのだろう。
「死にたかったのか?」
「それでも悪くねぇと思っていた。最強の名を返上して死ねるなら、俺よりも強いやつと真正面から戦って殺されるのならいいと思っていた」
「潔すぎるだろ。生きていてこその物種って言うだろ」
「そうだな。たしかに死んじまったらお前とまた戦えない。コーマ。早速もう一度戦うか!」
「嫌だ。ていうか、治療してやったのに礼もないのかよ」
ベリアルを治療しても襲い掛かってこないと思ったけれど、これだと襲われるのと何も変わらない。
「ベリアル。今も本物のベリアルに心臓を握られているのか?」
「あぁ。だから、あいつに関しては何も言えないぞ」
「そうか、それなら、これに関してわかることはあるか?」
俺はアイテムバッグからアルバムを取り出した。
「本? 俺様は本なんて読んだことがないぞ」
「脳筋キャラが本を毛嫌いするのはわかるけど、よく見ろ。これはアルバムだ」
そして、俺はアルバムを捲っていき、そのページをベリアルに見せた。
クロードという名前の男の写真を指さす。
「なんだ、この男。いい肉体をしているのに、なよなよして。俺様はこういう男は嫌いだ」
「いや、感想はそれだけかよ。よく見ろ!」
俺はアイテムバッグから手鏡を取り出して、それをベリアルに見せた。
「鏡を見てみろ! ほら、お前そっくりだろうがっ!」
「ん? ……おぉ、言われてみればそっくりだな。それで、コーマ。何が言いたい?」
「こいつをお前は知らないのか?」
「知っているわけないだろ。俺様は生まれた時から最強の――生まれた時から――」
そこでベリアルの言葉が詰まる。
と同時に、その姿が薄くなってきた。
「ちっ、時間のようだな――コーマ。治療してもらったことは感謝している。礼に、お前が戦いたいと思った時、俺様が全力で戦ってやるぜ」
「それは礼じゃなくてお前の欲望だろ――って、消えちまったか」
ベリアルがいなくなった。
結局、あいつは何をしたかったんだろう。
本物のベリアルが裏で手を引いているのは間違いないが。
とにかく、これで戦いは終わったな。
「サイモンさんとここで別れたんですけど、サイモンさんがいませんね。ところで、コーマさん、私たち何をしに来たんでしたっけ?」
「……………………………………………………………………………………………………マユを助けにきたんだろうがっ! クリス、バカなのは別に構わないけれど、せめて目的くらい見失うなよ」
「……コーマさんも忘れていましたよね」
「忘れていない」
ちょっと死にそうな戦いがあってそっちに集中していたが、マユを助けないといけないというのはちゃんと覚えていた。
マユの存在を忘れていただけだ。
「さて、マユはどこだろう? もしかしたら、サイモンを襲ったのも、ベリアルの影だったのかもな。だとしたら、サイモンと一緒に捕らえられている可能性があるな」
さて、捜すか。
そんな遠くにいるとは思えないから、きっとそこらの部屋にでも閉じ込めているんだろうな。
「コーマさん、この魔道具を使ってサイモンさんは扉を閉めたりしていました」
何かを置く台座が三つあり、そのうちふたつには水晶球のようなものが置かれている。
……………………………………………………
遠隔制御玉【魔道具】 レア:★×4
遠隔操作で離れた場所の魔道具を操る道具。
これ単体では何の役にも立たない。
……………………………………………………
遠隔操作で魔道具を操る道具か。
これで扉の開閉を行っているようだ。
「一個は壊れているな。たぶん、サイモンがお前を逃がすために壊したんだろう」
俺は残りの玉に手を乗せ、とりあえず開けられる扉を全て開けるように命じた。
すると、この部屋の三カ所の壁が扉へと変わった。
「……ここは……宝物庫か。金銀と宝石ばかりだな」
「凄いじゃないですか、コーマさん! 私たち大金ちですよっ!」
「興味ない。今後この遺跡を自力で発見した方に献上しよう」
そう言って、俺は宝物庫の扉を閉じた。
「そんなぁ……」
悔しがるクリスを無視して、俺は別の部屋を見た。
そこにあったのは――一枚の白い羽。
……………………………………………………
天使の羽【素材】 レア:★
天使に生えた翼から落ちた羽。
素材として使えないこともないが、特殊な処置が必要。
……………………………………………………
……なんだこれ。
天使の羽って、激レアアイテムっぽいと思ったけれど、レア度が【★】って、薬草と同価値のレア度しかない。
アイテムクリエイトで作れるのも、ペンと合わせて作る天使の筆ペンくらいだ。
んー……とりあえず、アイテムバッグに入れておくか。
そして、最後の部屋を見た。
そこにあったのは――縄と鱗。
……………………………………………………
人魚の鱗【素材】 レア:★★★
人魚の尾に生えた鱗。
太陽の光に当てると七色に輝く。
……………………………………………………
……マユはここにいた。それは間違いない。
だけど、誰もいない。それと――
血の跡が残っている。
マユのものではないと思う。すっかり乾いてしまって変色している。マユが攫われてから一時間も経過していないはずだ。
一時間でここまで血が乾燥して変色したりしないだろう。
縄も二本ある。切れ目を見ると、刃物で切ったというよりは溶かしたような――あ、そうか。マユといつも一緒にいるウォータースライムが溶かしたんだろう。
だとしたら、マユはすでに逃げたってわけか。
「きっとサイモンさんと一緒でしょうね。なら大丈夫でしょう」
「余計な心配事が増えただけのような気もするけど――この遺跡のことは俺たちよりそのサイモンのほうが詳しいだろうからな」
俺は床に持ち運び転移陣と、転移石を置く。
これでマユが戻ってくれば、いつでも魔王城に戻れるだろう。
それより、気になる。
どうして、ベリアルの影はマユを攫ったのか。俺を遠ざけるためだとするのなら、すぐに魔王城に戻らないと。
「ルシル。全部終わった。マユは見つからなかったが、サイモンと一緒のようだ。すぐに魔王城に転移できるように――ルシル! 聞こえないのか? ルシル!?」
いくら叫んでも、さっきまで聞こえていたはずのルシルの声が、通信イヤリングから聞こえてこなかった。




