竜化第三段階
「封印解除第三段階だ」
本当は、ベリアルが俺の鱗の刀化を破った時点で、もっとはやく封印解除第三段階に移行したかったのだが、クリスが余計なことを言ったせいで、ルシルに頼むタイミングを失っていた。
だが、やはりそうも言っていられないだろう。
『二回言わなくてもわかるわよ――でも、コーマ、やっぱり無茶よ。コーマ、第一段階から第二段階になったときのこと忘れたの? 今回はあの時の比じゃない負担がコーマに――。暴走したら、今度は再封印できるかどうかもわからないのよ』
「いいからやってくれ! 俺が言い出したら聞かないのはわかってるだろ?」
そう言いながらも、ベリアルを見る。顏の傷はもう塞がっているが、俺に攻撃をしてくる様子はない。
待っているのだ。俺が強くなるのを。
だが、その手は、足は、うずうずしている。今まさに獲物に飛びかかろうとしている野獣のようだ。我慢の限度が来たらすぐにでも俺に襲い掛かる。そして、その限度はもう近い。
「ルシル、早くしてくれっ!」
『もう、どうなっても知らないなんて言ってあげないわよっ! コーマが暴走したら、私が絶対に封印してあげるから、精一杯暴れなさい』
「安心しろ、そうならないようにするさ」
全く、本当にルシルは、いつも我儘なんだから。
こういう時くらいは、俺のことを信じてくれよ。なんで暴走したときのことを言うんだよ。暴走したらクリスを殺しちまいかねないというのに。でも、なんだろうな。さっきまでベリアルに抱いていた恐怖心が消え失せていた。
『コーマ、いくわよ』
突如、俺の中に力が膨れ上がる。そして、声も――
【竜化状態が――――殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せころせころせころせころせころせころせころせころせころせころせころせころせころせころせころせころせころせころせころせころせころせころせコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロ……セ……コ……ロ……セ……】
※※※
【私はベリアルとサタンを裏切った。私はこの世界を愛すると誓った。そのために、彼女を傷つけさえない。たとえこの命に代えても】
※※※
「…………っ!」
なんだ、今の声は――もしかして、ルシファーの?
『コーマ、聞こえてる? コーマっ!?』
「あぁ、聞こえてる。ルシル――なんだろう。心が澄んでいるような」
この感覚、この世界に来てはじめて――いや、違う。この世界に来たとき、そしてこの世界に来る前と同じ気持ちだ。俺の中にルシファーの力がないときと同じ、異物が存在しない、そんな感覚だ。
何故だ?
「ルシル、そっちの様子は? 声はだいぶ変わっちまったが」
『そうね、ほとんど元と変わらない姿よ。力も三割程度は使える感じね――うん、時空間の歪みは無理みたいだから、援護はできないわよ』
「そうか、その姿をこの目で見れないのが残念――」
【殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ】
「おうえええぇえぇぇぇぇっ!」
突如として押し寄せてきた殺意の嵐――破壊衝動に、思わず嗚咽を漏らす。
それに、ベリアルが心底呆れたように、
「おいおい、コーマ、大丈夫か。そんなんで、俺様と戦えっぐあっ」
ベリアルが俺に対して蔑む発言をした――それだけでベリアルのことを殺したくなる。
ベリアルに拳を振るう。そして、ベリアルの体が吹き飛んだ。
今の俺はもう剣を使う理性もない。薬で怪我を回復する余裕もない。
殺意を抑え、抑え、抑え、精一杯抑え、それでも漏れる殺意を利用し、ベリアルを壊す。
早くしないと、俺の理性が崩壊しそうだ。




